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こっち向けの魔法だよ!-君を好きになる魔法-  作者: パーシバル田中
中学生編

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19/29

19.距離

人はこれを、体育祭日和と呼ぶのだろう。

雲一つない晴天の空。

太陽が嬉々として肌を刺激してくる。


この一週間で水瀬に洗脳された私は、この日がくることを心待ちにしていた。

学校中の人々が浮足立っているに違いない。

誰もが一番を目指し、栄誉ある総合優勝を賭けて競争する。

一方が歓喜すると、もう一方は悲哀し、涙する。

世界は、弱肉強食なのだ。


◇◇◇


水瀬が私をやる気にさせるため、そんなことを言っていた。

私が、体育祭が嫌だ、太陽が嫌だ、と駄々をこねると、よくわからない説明を延々と続けた。

さっきからため息しか出ない。水瀬に気付かれないように。

気付かれでもしたら、一番が逃げちゃうとか、一番の魅力についての説明が始まるから。


そんなことを考えながら、二人三脚リレーに参加するため、待機場所に足を進めていた。

グラウンドを見ると、百メートル走が行われている。

何が楽しくて速さを競っているんだろう。

以前、水瀬に聞いたら、楽しいからだと、言っていた。


「どーしたの?」


しまった、気付かれたか。


「い、いや。なんでも……ないよ」


そっか、と短い返事が聞こえた。

ため息は気付かれていないみたいで安心した。


「たのしみだねー!私たちが一番先に、次のペアにバトンを渡そうね!」


一番。

出場を決めてから、水瀬は何度もそれを口にしている。


「一番じゃなきゃ、だめ?」


言わなかった方がよかったと、少し後悔した。


「どうせなら、一番がいいかなー!その方が、楽しいし、嬉しいよ!」


水瀬が喜ぶなら、叶えてあげたい。

力になれるかは、わからないけど。


「そ、そうだね。一番……なろう。」


すると、私たちの前に女の子二人が立ちふさがってきた。


「ねえ、みや。この子たち一番になるとか言ってるよ?」


知らない顔だ。

私より、明らかに強そうな女の子だ。


「そんなに早そうには見えないね?みいも、そう思うでしょ?」


私の前に二人が迫った。

左が小さくてふくよかな女……みやと呼ばれていた。

右が身長が高い女……みい、だと思う。


「特にあんた。弱いくせに目標だけは一丁前な奴、嫌いなんだよね。」


みいと呼ばれた女が、私の額を突く。

私は何も言えず、水瀬の後ろに隠れた。


「ちょっとー。少しは言いかえしてみたら?」


私の腕を握り、水瀬と引きはがそうとしてくる。

私は、水瀬の腕を抱きしめ、抵抗した。


すると、水瀬が女を押し、私の腕が解放された。

女は、尻餅をつき、水瀬を睨んでいる。


「あんたには用はないの。後ろに隠れてるのに話があんの。調子乗んなよ?」


身体がガタガタと震えているのがはっきりわかる。

ただ、一番になろうね、って言ってただけなのに。

どうして、この人たちは目の敵にするんだろう。


「私たちはあなたたちに用はないの。じゃあね。」


水瀬が先を行こうとし、私も後を追いかける。

いつもより、歩幅が大きくて、少し遅れた。


左手を捕まれた。

水瀬は気付いていない。

少しずつ距離が、遠くなる。


「やっと、ゆっくり話せるね?お名前は?」


気味の悪い笑みを浮かべながら、私を見つめた。


助けを呼ぼうにも、声が出ない。


「名前、聞いてるんだけど?」


み、みなせ……ちゃん

たすけて……


「ねえ、さっき押されちゃって、怪我しちゃったんだ。どうしてくれる?」


きづいて……

りり……いない、よ……


「ちょっと、私のりりになにしてんの?」


誰かが私と二人の間に入ってきた。

きっと、水瀬だ。戻って、来てくれたんだ。


「あ……みなせちゃ——」


気を抜きすぎたんだと思う。

水瀬が来てくれたから。


パンっ!と、誰かが私の頬を叩いた。

——え……?


全身の力が抜け、その場に座り込んだ。

私、悪いことしたのかな。

ただ、水瀬と、楽しく——


水瀬が怒鳴っているのが聞こえる。

私の……せいで。


もう、誰が怒鳴っているのかもわからない。

座っているのかどうかも、わからない。


視界が歪む。気持ち悪い。

だめ……もう少し……ににんさ——


身体が揺れている。

それも、本当かどうかはわからない。

誰かが耳元で叫んでいるような気がしたが、やがて消えた。


◇◇◇


今日は、体育祭。

水瀬がずっと楽しみにしていた。

私は、口では嫌と言っていたが、うずうずしている水瀬を見るのが楽しかった。

変な説明も、熱心に話す水瀬が可愛かったから、何度も同じことを言った。

嫌だった練習も、水瀬と一緒だから頑張った。楽しかった。

一番になれたら、楽しいよって。嬉しいんだって。

私達なら、きっとできるよって、水瀬はずっと言っていた。


◇◇◇


夢を見た。

水瀬が私に怒っていて、私は、一人泣いていた。

水瀬がいなくなっても、泣くことしかできなかった夢。


目を開けると、見慣れない天井が見えた。

家じゃないみたいだ。

横を見ると、顔がずぶぬれになっている水瀬がいる。

違う。泣いてたんだ。

意識がはっきりしてくる。

私は、今までのことを思い出した。

全身から血の気が引くのを感じた。


「あ……あ……」


違う……

こんなの……

嘘……だ。


「りり!ごめんね……」


水瀬が顔を上げたと思うと、力なく俯いた。


もう、いやだ——

20話も明日19時に投稿されます。

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