16.水星
白米は好きだ。
甘い匂いがするし、温かい。
牛乳は苦手。
変な匂いがするし、濁ってる。
この日は、喉が何も受け付けなかった。
暇だから、給食を頬張っている水瀬を眺めることにした。
楽しそうにもぐもぐと顎を動かしている。
ただ、食べているだけなのに、可愛いのが不思議だ。
そうだ。
話し合いの時に、頑張ってニコニコしてみるのはどうだろう。
少し考えたが、やめることにした。
私と水瀬では、あまりに違いすぎる。
水瀬と視線が合ってしまった。
もごもごと声を出そうとしていたが、何を言っているのかはわからなかった。
◇◇◇
給食の時間が終わり、私は俯きながら座っていた。
水瀬が真横で私を見つめている。
「な、なに?」
何かいい作戦でも思いついたのだろうか。
「さっき、私のこと見てたでしょ?お返し!」
特に、何も無いみたいだった。
「みんな呼んでくるね!ちょっと待ってて!」
水瀬が立ち上がり、ふわっと甘い香りを漂わせながら、歩いて行った。
さっきも見た風景だ。
鼓動が早くなり、呼吸が浅くなる。
『りり。落ち着いて。私もついているわ。』
あなたたちが、代わりに言ってくれたらどんなに楽だっただろうか。
「お待たせ!では、作戦会議を始めます!」
作戦会議……私が、怒られるだけの。
「議題はなに?」
背の高い、ロングヘアーの女の子が、水瀬に言う。
名前は……わからない。
「私たち、水星ペアが、一番速く走ります!」
それは、議題ではない。宣言だ。
そんなことより、早く私が言い出さなくちゃ。
「じゃなくて、昨日のこと。話したくて。」
昨日のこと……
一刻も早く忘れたいこと。
「色々考えたんだ。私も。だけど、これが一番いいのかがわかんな——」
——りりが……早く言わないと……!
『コミュニケーションで、一番大事なのは、勢いですわ!』
頭の中で、強いイメージが流れ込んできたような気がした。
「あ!あ……の。」
自分の声が遅れて耳に届いた。
水瀬が驚いたように私を見る。
他の6人も、目を丸くしている。
「き、昨日は……えと……」
次の言葉が出ていかない。
今まで、出てたのに……
水瀬が、ニコッと笑いかけてくれた。
そして、手の平に爪が食い込むほど強く握りしめた拳を、優しく包み込んでくれた。
水瀬が私に勇気を分けてくれた、そんな気がした。
「ご、ごめん……なさい。き、昨日。えと……あの、話すの……できな……くて。」
言えたのかは、わからない。
でも、私の口から音が出ていたのは、わかる。
『言えてたわ。りり。頑張ったわね。』
少しの沈黙、永遠のように感じられる。
「別に。謝ることではないと思うんだけど。」
怖い顔じゃない。
優しい顔だ。
「でも、話してくれて良かったよ。私こそ、感じ悪くてごめん。」
首を横に振る。それしかできなかった。
「えーと。他の皆さんは、何か言いたいことは、ありますか?」
他の女の子たちは、首を振っていた。
「じゃあ、仲直り、ってことでいいんだよね!?よかった!」
それから、走順は1番目になったと、黒髪ロングの子が教えてくれた。
明日からまた練習がんばろうね、とも。
やっぱり、水瀬がいると全て上手くいく。
みんなと別れ、私と水瀬だけが残る。
「水瀬ちゃんの、考えたこと……知りたい。」
たしか、水瀬は考えがあったはずだ。
「え!あー。なんだっけなー。忘れちゃった!」
忘れちゃったのなら、仕方ない。
水瀬のことだから、一番は譲ってあげるから、とかだろう。
……さすがに違うと信じている。
「……それより!今日、放課後に練習しようよ!昨日できなかったでしょ?一番にならないといけないし!」
一番にならないといけないのか。
でも、無理だと思うよ。
「だめ……ですか?」
水瀬はたまにずるい顔をする。
そんな顔をされたら、全人類が迷わず首を縦に振ることだろう。
「……いいよ。」
練習なんて、したくなかったのに。
水瀬があんな顔をするからだ。
「やった!がんばろーね!」
私は水瀬のお願いを断ることができないみたいだ。
でも、それでいい。
「が、がんば……ろうね。」
やっぱり、水瀬は太陽なんだ。
この太陽に触れられるようになりたいと、思った。
「楽しみになってきた!早く放課後にならないかな!」
そういえば、ずっと気になっていたことが、一つあるんだった。
「水瀬ちゃん……二人三脚、やったこと、あるの?」
「んー、ないかな!」
……え?あんなに、自信満々だったのに?
私は、途端に不安になる。
やっぱり、この太陽には触れたくないかもしれない。
そう思った。
16話も明日19時に投稿されます。




