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こっち向けの魔法だよ!-君を好きになる魔法-  作者: パーシバル田中
中学生編

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15/30

15.良い言葉

行きたくない。体が重い。

頭も痛くなってきた。風邪を引いたのかも。

熱、計った方がいいかな。


『先ほども、計っていましたわ。』

『健康です!36.3℃、いたって健康です!』


分かってるよ。

でも、行きたくないんだもん。

絶対みんな……怒ってる。


玄関と自室を往復するのは、これで何回目だろうか。


……吐き気もしてきたかもしれない。


『りり。大丈夫よ。私たちがいますわ。』


昨日は、いなくなったくせに。


『……それは、ずるいですわ。それに、その件はもう話し合ったでしょう?』

『うー……ごめんなさい、難しかったです……!』


うん。

あなたたちだけは、信じてる。

ずっと一緒にいるんだもん。

わかってるよ。



それよりも……時間が、やばい。

そろそろ行かないと、遅刻しちゃう。


重い体を持ち上げ、玄関まで走った。

靴を履き、重たいドアを押し開ける。

初夏の日差しが痛い。


雨、降らないかな。

雷が鳴るくらいの。

危険だから登校中止になるかもしれない。


『なりません!徒歩なので!お水さん大量発生すれば、別ですが!』


……知ってるよ。

それに、雨は嫌い。


私は、小さい歩幅で歩き始めた。


◇◇◇


道中、教室に入るときの作戦を立てる時間にした。

ドアをさっと開けて、何事もなかったかのように、自席に座る。

できれば、昨日のメンバーに、ごめんねと言う。


怒ってそうだったら……どうしよう。

そうだ。気付かれる前に確認してみよう。

怒ってそうか、ニコニコしているか。


考えを巡らせているうちに、学校に着いてしまった。


靴を脱ぎ、靴箱に入れる。

重い足取りで、廊下を抜ける。

何故重力に逆らわないといけないのかと階段を睨んだが、何も返ってこなかった。

そうして、目の前には大きなドアがある。


……こんなに、大きかったっけ。


いつもより二倍は大きく見えるし、十倍は重く感じる。


頭が痛くなってきた。

保健室、行こうかな。


「遅刻しちゃうー!」


遠くから騒がしい声が聞こえてくる。


「あー!りりちゃん!おはよー!今日も可愛いね!」


じーっと水瀬の全身を撫でるように観察した。


体調は、悪そうに見えない。

もう大丈夫なのだろうか。


「昨日はごめんね!急に早退しちゃって。」


元気そうに見える。

でも、昨日もそうだった。


「し、心配……した。」


また、今日も早退するかもしれない。

明日も、明後日も。


「大丈夫!いっぱい寝たら、治ったよ!それより、入らないの?」


水瀬は、こんなに重たいドアを開けられるというのか。

いや、開けられないはずだ。


「ドア、重たいの。」


代わりに開けてほしい。

そして、前を歩いてほしい。


「重たい?壊れてるのかな?」


えい!と言いながら、水瀬が勢いよくドアを開けた。

ガシャン!と、大きな音が廊下の奥まで響いた。


「りりちゃん?ドア、軽かったよ?引っかかってたのかな?」


水瀬が私の手を取った。

緊張で、手がびっしゃり濡れてるから、今は触らないでほしかった。


教室に入ると、全ての目がこちらを向いているようで、怖かった。

私は誰にも見つからないように、水瀬に隠れるように歩いた。

水瀬は、誰かと通り過ぎるたびに、挨拶を交わしている。


一番後ろの席にようやくたどり着き、自分の席に座った。

水瀬は、いつも通り私の隣の席に座っていた。


「あのー。ちょっとだけ言いにくいんだけど……」


急に鼓動が早くなる。

きっと、あの話に違いない。


「昨日、大変だったみたい、だね?」


心配そうに私を見つめている。

これは、怖くない顔だ。


「私が、早退しちゃったから。」


水瀬がいなかったからではない。

私が、うまくできなかった……だけ。


「体調、悪いなら、言ってくれれば……良かった……のに」


私の口は、いつも言うことを聞いてくれない。

水瀬が悪いところなんて、一つもない。


「急にお腹痛くなって保健室行ったの。そしたら、後は体育祭の練習だけだから、帰りなさいって言われちゃって。ごめんね?不安だったよね。」


うん、不安だった。

いなくならないでほしかった。

ずっと、私を守ってほしかった。


なんて言葉が、私から外に出るはずがない。


「それでね?私いっぱい考えたんだ。途中で寝ちゃったんだけど。あはは……」


体調悪かったのに、考えてくれてたんだ。

私は、自分のことでいっぱいだったのに。


「でも、りりちゃんの気持ちが知りたいなって。」


私は……どうしたいんだろう。

答えが、出ない。


「このまま、暗ーい雰囲気は、私は嫌だな。」


水瀬が嫌なのなら、私も嫌だ。

考えることがいっぱいで、ぐちゃぐちゃだ。


「いい方法が思いつく前に、寝ちゃったんだけど。あはは……」


HRのチャイムが鳴った。

教室の声が一斉になくなったが、私の頭の中は煩いままだ。


「でもね、私は何があっても、りりちゃんの味方だよ。」


教室のドアが開き、先生が入ってくる。

教壇の前で、体育祭について話していた。


私は、どうしたらいいんだろう。

誰かに、決めてほしかった。


◇◇◇


4時間目の終了のチャイムが鳴り響く。


これまでの時間で、色々なことを考えた。

考えたけど、答えは出なかった。

でも、これだけははっきりしている。


みんなに謝った方がいい。


「りり!私、いいこと思いついちゃった!」


水瀬が急に顔を近づけてくる。


「昼休み、みんなで話し合おうよ!」


話し合い。私が最も苦手なことだ。

でも、私もそれしか思い浮かばなかった。


「で、でも……みんな——」


もう、みんなは私と関わりたくないと、思っているに違いない。

水瀬の力を借りても、聞いてくれるだろうか。


「大丈夫だよ。みんな、誤解してるだけ。ちゃんとわかってくれると思う!」


私が、がんばらなくちゃ。

昨日は……ごめんなさいって。


それに今日は、水瀬がいる。

だから、うまくいくはずだ。


そう考えると、一気に心が軽くなった。


「それで、いっぱい練習するの!一番になれるように!」


水瀬は、一番になりたいんだ。

私は、なんでもいい。


「一番!いい言葉だと思わない?私たちならできるよ!」


何故だろう。一番がいい言葉に思えてきた。


「うん。そ、そうだ……ね。」


でも、運動苦手だよ?

水瀬は得意かもしれないけど。


「みんな呼んでくる!ちょっと待ってて!」


水瀬が同種目の子の元に颯爽と駆けていった。

そして、すぐ戻ってくる。


「給食食べなきゃなの忘れてたよ!あはは!食べ終わったら、話そうねだって!」


体調不良は、治ってないんじゃないかと思った。

ただ、悪いのはお腹ではなく、頭だ。

お読みいただきありがとうございました!

15話も明日19時に投稿されます。


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