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こっち向けの魔法だよ!-君を好きになる魔法-  作者: パーシバル田中
中学生編

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13/27

13.期待

あの子がいても話しかけてくれる保証はどこにもない。

そんなことは、わかってる。

それでも、早く確かめたかった。

約束が、意味があるのか、を。



『……教室、誰もいないね。』


いつもの喧噪が嘘のように、教室は静寂に包まれていた。

机が乱れることなく並んでおり、深緑の黒板には落書きの跡もない。

なんて落ち着く環境なのだろう。


『誰も、いませんわね』


時計をちらっと見ると、7時30分を指していた。

流石に、早すぎる。


——早く会いたかったの?って思われそう。


『大丈夫よ。りりが言わない限り、わかりませんわ。』


そんなことを考えているうちに、1つの足音が聞こえた。

勢いよく足音の方に身体を向けたが、期待した顔ではなかった。


「おはよー。早いね。」


知らない女の子と一瞬目が合ったが、すぐ外された。


それは、私に向けているのだろうか。

返事をした方が、いいんだよね?


「……」


女の子は教壇を通り過ぎ、窓際の席に座った。

挨拶、しないと。


「あ……えと……」


女の子が振り向き、こちらを見ている。

心臓の音が激しくなるのを感じた。

がんばれ、私の声…


「お、おは……よ。」


顔が熱い。

頬も、額も。

身体も熱くなってきた気がした。


「……おはよ。大丈夫?顔、真っ赤だよ?」


恥ずかしい。

挨拶って、誰が考えたんだろう。

考えた人に問い詰めてやる。


「ない……です。」


自分の机を見つめながら、弱々しい音が出た。

穴があったら入りたい気分だ。


「なんで、敬語なの?同学年なんだから、ため口でいいよ」


どこかに声を出したら褒めてくれるロボットはないのだろうか。


「……」


声が出ない。褒めてくれるはずなのに。


「私、梅田明日香ね。よろしく。」


もう、話しかけないで……


反応しちゃって、ごめんなさい。

上手く話せなくて、ごめんなさい。

無視しちゃって……ごめんなさい。


「……」


静寂が再び空間を支配する。


早く来たせいで、こんなことになるなんて。


目頭が少し熱くなってきた。

瞬きをすると、ポタっと制服のスカートに涙が落ちた。


すると、ドアが慌ただしく開く音が聞こえた。


「あれ?明日香ちゃん、朝早いね!わー、星月さんもいる!おはよ!」


なんで、今なの。


一番に来てよ。

……一番に、気付いてよ。


「あ、なぎちゃんだー、おはよー。」


私は、俯いたまま声を出すことができなかった。


「あれ?星月さんどうしたの?具合悪い?」


視界の端に水瀬の顔が急に現れる。

情けない顔を、これ以上見ないでほしかった。


「わかんないんだー。こんなに顔赤いし、具合悪いのかも?保健室行った方がいいと思うんだよね。」


その後、水瀬と二人でなにやら話していたようだが、聞こえなかった。

恐らく談笑でもしていたのだろう。


「大丈夫!私、長女だから!任せてよ!」


水瀬の声が、静かな教室に響いた。


水瀬って、長女なんだ。

私も、長女なんだよ。


……一人っ子だけど。


「ほんとに大丈夫?無理しないで、行った方がいいよ?一緒に行く?」


水瀬が近くにしゃがみ、優しく語り掛けてくる。

教室が明るくなったような気がした。


「だ……だいじょう、ぶ。ほんとに。」


こんな格好悪いところ、見せたく無かった。


「き、きんちょう……した、だけ。梅田さん。は、初めて……だから。」


こんなはずじゃなかったのに。

教室に入ると、水瀬がいて、すぐ気づいてくれて、それで——


「緊張しちゃうよね。わかるよ。」


わかってないくせに。

あなたに私の気持ちなんか、1mmもわかるはずない。

住む世界が、違うのだから。


「私も、初めてのときは、すっごく緊張しちゃうんだー。だから、昨日は失敗...しちゃいました。あはは。」


「反省中...…です。」


水瀬はしょぼんと落ち込んだ様子を見せた。


あざとさを感じさせるその仕草を、

自然にやってのける姿に、少しだけ感動した。


「り、りりは……あの……えと、う、うれし……かった。」


今、なんて言った?

私が発した言葉を思い出せない。


「ほんと!?今日、一番嬉しいかも!」


嬉しい?

私は水瀬を褒めたのか。

何かを与えていたのか。


それよりも、聞き捨てならないことがある。


「……かも?」


意地悪だったかな、と少し反省した。

というか、まだ今日は始まったばかりだ。


「かもじゃない!一番うれしい!」


水瀬が、がちがちに固まった私の手を握りしめた。

不思議と、嫌だとは思わなかった。


私の中の何かを溶かしていくような感じがした。

今まで感じたことのない不思議な気持ち。


私は逃げるように手を胸元に避難させ、もう一方の手で包み込む。


——これ以上、私の中に入ってこないで。

残った温もりを追い出そうと、心の中で必死に唱え続けた。

読んでいただきありがとうございました!

13話も明日19時に投稿されます。

読んでいただければ嬉しいです!

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