第九話 嫁たちのスペック
ミケの街を出た私とミケは、みんなの待つ十字路に向かって歩いていた。
いや、正しく言うと歩いているのは私だけだ。
本当は私が、「みんな待たせてるし、走ろうか?」っと提案したのだがミケが……
「みゃーこ様と散歩したいんです!」
と言いつつ、私に腕に飛びついて抱きついたまま離れなくなってしまい……腕に抱きつかれたままだと歩きにくいので、腕で抱いて歩く事にした。
それもどうなのかとは思ったんだけど……
まあ、今のミケは鼻歌でも歌い出しそうなぐらいご機嫌だし、いいか。
さっき泣かしちゃったしね。
私のせいではないけど。
そんな感じで、ミケを抱いたまま私はみんなの元に向かって歩いていたのだった。
「♪」
相変わらずご機嫌なミケさん。
そんなミケを見ていると1つの疑問がふと頭の中に浮かんできていた。
「良く私の居場所が分かったね?」
「みゃーこ様ですから!!」
相変わらずのよくわからない即答をして私の腕の中でドヤ顔をしているミケ。
「いや、もうちょっと具体的に……」
「私のみゃーこ様センサーは優秀なのです!」
そんな意味の全然具体的じゃない事を言い始めたミケ。
お風呂と子供部屋を間違えるセンサーが優秀……?!
「それに、この辺りは私の庭みたいなものですからね!」
さっき逆方向を指差してたのはどなたでしたっけ?
ボケまくるミケ(無自覚)に対して心の中でツッコミを入れていた私。
「みゃーこ様、何か言いました?」
それに勘付いたのかミケが不思議そうな顔をしてそう聞いて来た。
「いや、何も言ってないよ」
心の中では言ったけど、口には出していない……
しかし、この娘は対私限定の超能力?テレパシー?とか持っているのかもしれない……
グゥゥゥ
そんな時、大きな音が辺りに鳴り響いた。
今回の音の主は…………
私だ。
なんかマフィアのボスとかが電話して来た感じになってしまったが、間違いなく私のお腹がなってしまった。
出る前はお昼には少し早い時間だったが、今は丁度お昼の時間……私の腹時計は無駄に正確に時を刻んでいる様だった。
「みゃーこ様、お腹空いたんですか?」
「ハハハ……そう見たい……でも、ミケが私を迎えにきちゃってるし、お昼はもう少し先だよね……」
「大丈夫ですよ! タマさんにまかせましたので!」
そう、胸を張っていうミケ。
タマも料理出来たんだ。そう言えば、タマの料理って初めてだなぁ……
「そっか! それは楽しみだね!」
「はい!」
そんなやりとりをしながら、私とミケは元いた場所……みんなの元に帰って来ていた。
みんなの姿が見え始めたと思ったら、タマがこちらに気が付き、そんな事を私たち大きな叫ぶ様な声を上げた。
「みゃーこはん! どこ行ってたんや!」
「たんや!」
そして、カヤまで……
何故か、カヤはタマの真似をするのがマイブームらしい。
その内、関西弁で話し始めたり……しないよね?
「ごめん、ごめん」
「みゃーこお姉さん、随分長いトイレだったね? 便秘かな?」
女の子が公衆の面前でそんな事を言うんじゃありません!
って、ここには私たちしかいないか……ネットに公開されてるわけでも無いし……
そんなよく分からない事を考えつつ、ステラ本人に言えるわけもなく、笑って誤魔化すことにした。
都合よく?勘違いしてくれてることだし……
「ハハハ……」
「笑ってる場合やないで! ほらさっさとご飯食べるで!」
タマはそう言いながら、ご飯が用意されているであろう方を向いた。私もそれに合わせてその方向に視線を向けた、のだが……思わぬ物が目に入ってきた。
「あれは……何?」
「お昼ご飯やで?」
そう当然の様に教えてくれるタマ。
いや、そっちじゃない。
まず私が気になったのはご飯ではなく、それが乗せられているもの、それは……
「えっと……なんで、テーブルとイスがある……の?」
そう、そこには木で出来たテーブルと人数分の椅子が用意されていた。
しかも、木で出来たと言っても、ただ丸太を並べた様なものではなく
家具屋……某北欧家具屋に売られていそうな、木目が暖かさを感じる素材を生かした家具……そんな一見するとそこだけ森に囲まれたカフェのオープンテラスの様な雰囲気すら醸し出している。
「私が作ったんだよ♪ どう? 凄いでしょ♪」
その家具たちを見て、少し呆けていた私にステラがそう言いながら近づいてきて頭を差し出してきた。
凄スギィ!!っと思わず叫んでしまいそうになったが……とりあえずは差し出されたステラの頭を撫でる私。
嫁たちはどうしてこうも戦闘以外のスペックが高いのか……
水が出せて、火が起こせて、家具が作れてしまう嫁たち。
“無人島に持って行きたいものは何ですか?”と聞かれたら、今の私なら迷わず “嫁” と答える。
この嫁たちが居れば、無人島サバイバルもただの無人島バカンスに成り下がってしまうだろう。
いや、むしろ無人島が南の島なら自ら行きたいぐら……
「みゃーこ様! 帰ってきてください!」
突然のミケの声によっていつもの悪い癖から帰還を余儀なくされた私。
そんな私に対して、皆は口々に避難の声を上げた。
「まーた、どっかに行ってたんかいな」
「かいな!」
「私はずっとこのままでも良かったんだけどね♪」
「私も! 私も! 撫でてください!!」
訂正。非難の声など無かった。
ステラとかむしろ私が妄想していた間ずっと頭を撫で続けていたから、逆に喜んでる。
非難されてないならいいか……
何が良いのかわからないが、とりあえず私は、頭を私の方に差し出していたミケのその頭を優しく撫でてあげた。
「えへへ」
そして、私に撫でられてご機嫌なミケ。
全く、仕方ない娘だ……
「いつまでそうしてんねん! はよ、ご飯食べようや!」
そんな私たちを見て、堪り兼ねたタマは私たちにそんな事を言ってきた。
しかし、私は見過ごさなかった。その声を上げる直前に、羨ましそうな顔をしたタマを……
そんなタマを見てしまっては、私も我慢することができない。なので、空いた手を伸ばして、タマの頭も撫で始めた。
「なっ?! いきなり何すんねん!
それに何ニヤニヤしてんねん!!」
おっと……思わずニヤニヤしてしまっていた様だ。気をつけないと。
「いやぁ? 別にぃ?」
「もう知らんわ!!」
タマはそんな事を言いながら、ソッポを向いてしまう。私に頭を撫でられたまま。
さすが、ツンデレタマさん。
ミケとステラがど直球だから、すごく新鮮に感じる。
ちなみにカヤも撫でてあげようとしたけど、私がニヤニヤしてたせいか、怖がってタマの後ろに隠れてしまったらしいです。
よく覚えていないけど……
そして、ようやくスーパーナデナデタイムが終了した私たちは、ステラの作った椅子に座ってご飯を食べようとしていたのだが……
テーブルの上をよく見ると、さっきはテーブルと椅子の衝撃で気がつかなかったが、とても食べ物には見えない、黒い丸い物が置かれていた。
「えっと、これは……なに?」
さっきのテーブル達を見た時とほぼほぼ変わらない事を呟いた私。
そんな疑問に対して、その黒い物体の作者が答えてくれた。
「何って、おにぎりやで?」
これがおにぎり…………?
なんで真っ黒??
そんな事を考えていて、私はジッと黒い物体を見つめていた。
「「「「いただきます」」」」
「いただきます」
みんなに少し遅れて、私もそう挨拶をしつつも、まだ手を動かさずに、ジッとおにぎりと呼ばれた黒い物体を見つめていた私。
“いただきます” とは言ったものの、これ食べて大丈夫なの……?
この黒って海苔の色とかじゃなく、焦げてる黒色だよね……なんかすごく苦そうな気がす……
「すごく香ばしい!! 純白の玉と甲乙付けがたいです!!」
「外はカリッと中はふわふわ……タマちゃん、なかなかやるね♪」
「美味しいですーぅ!!」
見た目とはかけ離れたそんなみんなの評価に、私は思わず口を開いて“ぽかーん”としていた。
純白の玉レベルでミケが大絶賛?
外カリ中ふわ? たこ焼きか何か??
あ、もしかして……某飲食店紹介サイトの様にレビューがお金で買えるとか……
それとも、こっちの世界と元いた世界だと味覚が大分違う……とか?
いやいや、それだと今まで食べて来た物が美味しいと感じるはずは……
そんなタマに失礼な事とかが頭の中をぐるぐると回っていた私。
そんな私に気がついたタマは私に催促するかの様に声をかけてきた。
「なんや? みゃーこはん、食べへんのか?」
「い、いや……食べるよ?」
タマに促されて私は、おにぎりを手でつかんだ。
やっぱり焦げてて黒いし……それに硬い……
でも、レビュワーの感想だと、ここまでは予定調和……?
って……タマがますます不審そうにこっちを見てるし……よし!
タマの視線に耐えきれなくなった私はそう意を決して、その黒い物体に噛り付いた。
そして、歯より先に唇が当たり……その物体の硬さで唇が変形しているのが、私の脳に伝わって来た。
あ、やっぱり硬………………くない?
そう、唇が当った瞬間は硬く感じたのだが、歯が当たるとパリッと言う音と共にその硬い膜のような物が割れ、歯が吸い込まれる様に中に入っていく。
そして、中から液体の様な物が溢れ出し、口の中全体を魚や野菜の旨味を伴った物が包み込んでいく。
「何これ?! 凄い! 凄い!!」
その衝撃に、私は思わず語彙力が低下してしまい、そんな小学生の様な感想を叫ぶ様に言ってしまう。
それから私は、味わう事も忘れて夢中になってそのおにぎり?を食べはじめた。
その姿を満足そうにうんうん頷きながら見つめていたタマ。
「せやろ、せやろ。これがウチの得意料理、黒いおにぎり……通称、漆黒の玉やで!」
「どうなってるの? これがお米の味? 隠し味でもあるの? もっと食べたい! もうないの?!」
あっと言う間に食べ終わってしまった私は、そうタマに矢継ぎ早に質問をしてしまう。
某にゃんこまっしぐらとか目じゃない、それ程の味だった。
「みゃーこはんは、しゃーない子さんやな……隠し味は教えられへんけど、一個余分に作ってあるから、それ食べてもええで」
そう言って呆れた感じの事を言いながらも、タマは嬉しそうにしながら、私に余った1つを渡してくれる。
「タマ、ありがとう! 大好き!!」
そんな事を言いつつ、それ受け取った私はまた夢中になって食べ始めた。
タマが照れた表情を浮かべた事にも気が付かずに……
美味しい、本当に美味しい!!
“苦そう”とか、“美味しいって言うのはヤラセ”とか、色々考えていた私が馬鹿みたい!
見た目だけで決めつけるなんて、すごく勿体無い事だ。
そして、その見た目に騙されずに、一歩を踏み出した者こそ、勝利の美酒を味わうことが出来るんだ!!
私も……いつか……きっと!
そう心の中で決意した私は、ふと上を見上げた。
そこには太陽が、まるで私を……
いや、勝者を祝福するかの様に、明るく輝いていた。
「みゃーこはんが、綺麗にまとめてそうな顔してどっか行ってもうた……」
「あの、タマさん……私ももう一個欲しいんですが……」
「みゃーこはんが手に持ってるやつ勝手に齧ったらええんちゃう? どうせ気付かんやろし」
次回投稿は、土日になると思います。




