表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねこの国の勇者様  作者: かなぎ
三章
44/46

第八話 この世界で


 後ろを振り向いたは階段の上を見上げた。

 そこに立っていたのは……


「ミ、ミケ……?」


 そう、私の言葉の通り、ミケだった。

 ちょうど逆光気味になり顔はちゃんと見えないが、見慣れた姿、形。私はすぐに気がつくことが出来た。


「みゃーこ様……」


「ビックリさせないでよ……敵が来たのかと思っちゃったよ」


 多分、心配して来てくれただろうミケ。

 いつもなら、「全然帰って来なくて心配したんですからね!!」っと文句の1つも言われるし、今もそう思っていた。


「ごめんなさい……」


 そんな私の予想に反して、ミケは謝罪の言葉を口にした。

 その言葉に私は違和感を感じ、ジッとミケを見つめる。


 逆光なせいもあって、ミケの表情はよく見えなかった。

 ただ、既に良く見慣れたといってもいい、いつもの元気なミケとはどこ違う、ある種の異様な雰囲気が……ミケからは漂っていた。


 そして二人の間には沈黙が訪れる。


 私はジッとミケの顔を見ていたが、ミケと視線が合う事はなく……

 いや、正しく言うと視線は時々合ってはいるが、視線が合うとミケの方から視線を外し……暫くしてまた視線が合って、また外し……と言うのを何度か繰り返していた。


 その重い空気に、私が耐え切れるはずもなく、私の方からミケに声をかけた。


「ど、どうしたの……?」


「ごめんなさい……」


 そんな私の言葉も虚しく……ミケは再度謝罪の言葉を口にし、そしてまた黙り込んでしまう。


 うーん……ミケがおかしい……

 なんか挙動不審というか……何か言いたそうというか……

 でも、話したい事があるならミケの方から話してくれないとどうしようもないよね……

 とは言っても、この雰囲気は少し辛いし……


 そう考えた私は、別の話題を振ってみることにした。


「それにしても、ここってなんだろうね?」


「………………」


 それでもミケは黙り込んだまま、何も話してはくれなかった。


 ダメだ、これは……

 仕方ない。今は諦めよう。


 そう考えた私は、今度は誰に言うわけでもなく、独り言の様に話し始めた。


「そういえば、部屋の中央には何かあるんだよねぇ、近づいて見てみよ」


 そう呟いて、体の向きをミケとは反対側の……部屋の中央に向けた。


「あっ……」


 そんな時に私の後ろから聞こえたのは、私の待ち望んでいた、ミケの謝罪以外の言葉。


「……ん?」


 何故かこのタイミングで引き出せたその声に、私は少し驚きつつも、今度は上半身をひねる様な感じでミケの方に視線を戻した。


 するとミケは、一度小さく深呼吸をしたかと思うと……今度はちゃんと私と視線を合わせた。


「ここは……桜の間……そう呼ばれています」


「桜の……間?」


 そう言いながら、私はミケから視線を外し、辺りをキョロキョロと見回す。


 たしかに、桜の木のすぐ近くにあるけど……部屋の中は桜っぽくないよね?


 そんな事を考ていた私は、再度ミケに視線を戻し、ミケの言葉を待った。


「そして、ここは……」


 私のその視線に気がついたミケは、そこで一度言葉を切りると、再度小さく深呼吸をして、言葉を続けた。


「ここは、みゃーこ様をこちらの世界にお連れした場所……

 そう、ここが、みゃーこ様の世界に繋がっていた唯一の場所です」


 そのミケの言葉に……

 私の世界に繋がった場所と言う言葉に……

 私の心が、チクリと痛むのがわかった。


 ここが……私の世界繋がっている場所……

 そして……あの世界に……

 帰る事が出来てしまう……場所……

 依頼という約束が……

 帰らない理由無くなった……

 もし……もし……ここで……

 “あっちに戻ってください”

 なんて、ミケに言われたら……

 私は、“あんな世界”に戻らないと行けなくなる……


 部屋の中央を見たまま、そんな絶望にも似た事を考えてしまい……

 私は、暗い顔をしていたと思う。


 そんな私に対し、ミケは予想もしていなかった言葉を発した。


「ごめんなさい……」


 その言葉に意識を現実に戻された私は再度ミケの方に体を向けた。


「えっ? なんでミケが謝るの……?」


「みゃーこ様が元に世界に戻りたい気持ちは分かっているんです……

 でも……もう……もう……

 元の世界に帰してあげる事ができないんです……」


「へっ?」


 ミケのその予想外の言葉に、私は思わず雰囲気に似合わない変な声を上げてしまった。


「ごめんなさい……

 ごめんなさい……

 ごめんなさい……」


 そんな謝罪の言葉呟く様に言っているミケは……

 今にも泣き出してしまいそうで、崩れ去ってしまいそうな、そんな脆く儚く見えた。

 

 帰れない?

 帰らなくて……いい?

 もしかして、私……

 ずっとこっちの世界に居ていいの?

 “あんな世界”に帰らなくていいの?


 帰る事が出来ないと言うこれ以上ない

 “帰らなくて済む理由”を手に入れた私。


 思わず顔が綻び、テンションが上がるのが自分でもよく分かった。


「ミケが気にすることはなーーーんにもないんだよ!

 帰れないものは仕方ない!

 そう仕方ない、仕方ないんだよ!」


「えっ?」


 私の思わぬ返答とテンションにミケは驚いた表情で私の方を見てくる。


「それにミケにご両親も探さないといけないからね!

 私は“あんな世界”に帰りたいなんて、全く、これっぽっちも思ってないよ!」


 そんな、嘘でも建前でもなく、私の心から溢れ出た本音。

 私のそんな言葉にも、ミケは申し訳なさそうな顔をして俯いていた。


「みゃーこ様……ありがとう……ございます」


 うーん……これってちゃんと伝わってない気もする……

 私が無理して言っている様に、そう思われてそうな……


 そう感じた私は、階段を少し登りミケの近くまで行くと、ミケを優しく抱きしめた。


「みゃーこ様……?」


 突然、私に抱きしめられたミケは少し驚いている様だった。


 私は、そんなミケに対して、耳元で優しく語りかける。


「別に強がって言ってるわけじゃないよ。

 あの世界に、本当に帰りたいなんて思ってないから……

 ずっと一緒にいてあげるって約束だったでしょ?

 あんな約束しておいて、ミケを置いて……

 みんなを置いて、元の世界に帰るわけないじゃない。

 だから、ミケは何も気にしなくいいんだよ。

 だから、元気を出して……ね?」


「みゃーこ様……っ!」


 ミケはそういうと、私の体に顔をグリグリと押し付けてくる。


 本当、甘えん坊なお姫様だこと……


 そんな事を考えながらも……

 帰らなくていい。

 ずっとこっちにいてもいい。

 それに甘えん坊なミケみ可愛い。

 色々な喜びの感情が溢れ出て、私の顔は綻び、微笑みを浮かべていた。


 そして数刻の時が流れた。


 しばらくの間そうしていた私たちだったが、ミケの方から離れてしまう。

 そんなミケが離れて行くのを少し残念そうに見送り、ミケに声をかけた。


「もういいの?」


「はい……皆さんが待ってますので……」


 少し恥ずかしいそうにしているミケのそんなセリフ。


 そう言われると、かなり時間が過ぎてしまった様な……

 みんなが蟻に襲われたりしたら……って、それは大丈夫か……ステラもいるし。

 でも、いきなり居なくなったから、心配かけてるかな……


 そう思いつつも、私は部屋の中央に視線を向けてしまって居た。


「みゃーこ様、どうしました?」


 そんな私を見て居たミケのそんな言葉。


 やっぱり気になる物は気になるんだよね……

 ミケなら断らないだろうし、素直に言おうか。


「もう少しだけ、部屋の中を見ていい?」


「えっ? あ、はい。構いませんが……」


 “皆さんが待ってますよ?”が続きそうなミケの言葉。

 でも、ミケのお許しが出たには違いがない。


「わかってるよ。ちょっとだけだから!」


 その続きの言葉に返事するかの様にミケにそう言うと、私は部屋の中央には向けて、その何かに近づいた。


 そこ有ったのは、一辺1mぐらいありそうな、大きく四角い、金属でできた柱の様な物。

 ただその先は途中で……私の腰の高さあたりから上がなくなっていて、内部が露出していた。


 あれ……? これ、もしかして……


「それが、みゃーこ様の世界に行くための物……これに精霊の力を使うと扉が開いていたのです。

 ただ、虫たちに破壊されてしまいましたが……」


 私が興味深くしげしげと見て居たからか、ミケがそう教えてくれる。


 ミケの言うことはそうなんだろう。

 それに、これ破壊した人物も想像がついた。


 ただ、その人物の事を考えると……

 動悸が早くなって……ドクッドクッと自分の鼓動が聴こえて来そうになっていた。


ーー安心しろ。もう用事は済んだ。


 あの男の言っていた“用事”は、これのことなのだろうか……

 蟻にこの金属を破壊できるとは思えないし……

 でも、あの男なら……私を圧倒的な力でねじ伏せたあの男なら、これを……

 ただ、目的がわからない。これが“あんな世界”と繋ぐ物だとしたら……何故破壊したのか……

 それに、この金属柱みたいな物は……


 そこで私は、その柱の断面を覗き込む様に見つめる。

 そこに見えたのは……初めて蟻と戦った日に見た……蟻の胴体を覗き込んだ時に見たような、コードなどが見えていた。


「これって何かの機械じゃ……」


 気がつけば、私はそんな事を呟いてしまっていた。


「機械……?」


 そんな私の言葉に、ミケは機械自体がよくわかっていない様な言葉を口にした。


 こっちの世界に機械ってあったけ……?

 蟻型の様な物って言うと語弊があるし……

 わざわざ言う必要もないかな……


 そう考えた私は、言葉を(つぐ)む事にした。


「いや、なんでもないよ」


「?」


 私の言葉に再度、不思議そうな顔をして私を見ているミケ。


「そろそろ行こうか。みんな待ってるでしょ?」


「みゃーこ様の気が済んだのならいいですよ?」


 私が帰る事を促すと、この人は何を言っているんだろう?って言う表情で私の事を見てくるミケ。


 そうだった。私がもうちょっと見たいって言ったんだった……


「ごめん。そうだったね。もう気が済んだよ」


 そう言うと私は、部屋の出口……階段に向けて歩き始めた。

 それに少し遅れて私の後をついてくるミケ。


 あの男の……虫たちの目的はなんなんだろう……

 それに精霊術って一体……


 そんな疑問が頭の中を回っている私は、みんなの元に帰る為に……

 階段を登り始めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ