第七話 桜
子狸のカヤを拾って?保護して? まあ、どっちでもいいか……
取りあえずあれから一時間ほどが経っていた。
隊列はさっきとほぼ同じ。ちょっと違うのはカヤがタマのすぐ前にいるぐらいかな。
タマがすぐ後ろで見張ってるからもう迷子にはならないだろうし……
とは言っても、カヤはタマの言う事はよく聞くんだよねぇ……
何故か、私は怖がられてるけど……
タマの妹たちの時もそうだったけど、何で私は子供に好かれないのかなぁ……
キツめの顔とか無愛想とか言われるけど、無愛想なのは、こっちに来て大分マシになったんだけどなぁ……
それなのにどうして私は……
「みゃーこお姉さん? どこに行くのかな?」
またしてもザ・ワールドを展開していた私だったが、そんな突然のステラの声にハッと我に帰った。
「えっ? あ、休憩?」
周りを見渡してみると、そこは2つの道が交差する少し開けた場所。そこでステラたちは、岩の上に腰掛けている。
「あ、休憩? や、あらへんで! 聞いてなかったんかいな……また、自分の世界に入ってたんか?」
「や、あらへんで!」
どうやら、いつの間に私だけ先に進もうとしていたようだ……
タマは呆れた顔で私の事を見ていて……何故かそれを真似てカヤも呆れた顔をしている。
「ハハハ……」
そんな乾いた笑いを浮かべながら、私は行き過ぎた分を引き返して、みんなの近くに座った。
「みゃーこはん……しっかりしいや?」
「しっかりしいや!」
カヤは、タマの真似をしていて可愛いけど……
下手に何か言うと怖がられそうだし……
そうなると、私が耐えれないし……
気にしないでおこう……
「次から気をつけるよ……ってミケは何してるの?」
ゴソゴソと自分の荷物を漁りながら何かの準備をしているミケに声をかけた。
「もうすぐお昼ですからね! ご飯を炊くんですよ!」
「えっ……? 別に神楽さんに貰った食べ物で「みゃーこはん!!」
私の声は、ミケの大きな声によってかき消された。
私は驚いて声のした方にーータマの方に顔を向けると、タマは私の目をジッと見たまま、首を小さく小刻みに横に振っている。
あ……ミケに白米の事で口を挟んだら面倒くさいことになるんだった……
「みゃーこ様? 何か言いました?」
そう言って、手を止めて私の方を見るミケ。
「い、いや、別に……? ねぇ、タマ」
「えっ、あ! せやで! 気にせんでええで!」
私とタマの慌てた感じに、ミケは一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに準備を続けた。
ミケの視線が外れた事を見てタマが小声で私に話しかけて来た。
(気をつけてなあかんで。それでなくても時間かかるんやから……)
(ごめん……)
まあ、そんなこんながありながら、お昼前に自由時間になった私たち。
ミケはご飯を炊こうとしてるから仕事中だけど……ある意味自由かな……
今も精霊術を使って、上から落ちてくる滝の様な水でご飯を洗ってるし……
って、ご飯ってあんな風に洗うんだっけ……?
でも、それをつっこむと面倒くさそうだからやめておこう……
そんな事を考えながら、今度は獣道を外れた林の中……タマ達がいるあたりに視線を向けた。
タマはカヤと……何故かステラも含めた3人で何かを集めてキャッキャと遊んでいる。
ドングリでも集めてるのかな?
それにしても、タマは妹が3人いるだけあって、子供の扱いが上手い。
ステラは……まあ、精神年齢低そうだし?
カヤと波長が合うのかな……とか
本人には絶対言えないけどね!
しかし、毎度の事ながら何時の間にあんなに仲良くなったのか……
えっ?私?
私は、カヤが怖がるから少し離れた場所にいるだけだよ?
決してボッチなわけじゃないんだからね!!
そんな誰に言ってるかわからない事を考えて少し虚しくなって来た私は、暇なので辺りをキョロキョロとしていた。
なんかどこかでで見たことある景色なんだよね……ここって。
これがデジャヴってやつかなぁ……
「みゃーこ様? どうしたんですか?」
そんなキョロキョロ周りを見回している私の元にミケが近付いてきた。
「あれ? もう終わったの?」
「まだですよ? お米を水に浸している最中です。その方が美味しく炊けますからね!」
嬉しそうに胸を張ってドヤ顔を見せてくれるミケ。
ご飯が炊けるのはいつになるのか……とか思ったが、まあいいや。言うとミケが凄く面倒くさいことになるし……
そう考えつつ、私はミケの頭を優しく撫でて、元の質問に答える事にした。
「ここ、なんか見たことある景色だなぁって思ってたんだよ。そんなことないのにね」
私がそういうと、ミケは驚いた表情で私の事を見ていた。
「えっ? 前に通ったじゃないですか?
あっちに行くとタマさんの村ですよ?」
そう言いながら、ミケは来た道から左側の道を指さした。
へーそうなのか……だから……
「そっちはミケはんの町の方やで……ウチはこっちや」
私の思考は、そんなタマの声でかき消された。
さっきまで遊んでたタマは手に木の枝を持ちながら、ミケとは反対側を指差した。
ミケを一人にしてはいけない……
っと、まあそれは置いておいて、どうりで見た事が有るわけだ。
そう言われてみると、ミケの町を出てすぐぐらいに通った気がする。
と言うことは……ミケの町からそんなに離れていなかったよね……
「はい、ミケはん。ご飯炊く用に木の枝集めといたで」
「ありがとうございます!」
いつもの様に、一人で考え事をしていた私の目の前で行われたそんなやりとりに、少しビックリしてしまった私。
そんな私の表情にタマが気がついた。
「何や? みゃーこはん、驚いた顔して……」
「いや、てっきり遊んでたのかと……」
「遊んでたのはみゃーこはんだけやで?」
そして、タマに遅れてやってきたステラとカヤまでも……手には木の枝を持っていた。
「みゃーこお姉さん……」
「……」
手ぶらで岩の上に座ってる私に……2人の視線が集中する……
その視線に居たたまれなくなった私は……サクッと話をそらすことにした。
「えっと……あ! ちょっとレコーディングにいってくるね!」
「えっ? レコーディングってなんですか??」
私の渾身のボケにそう本気で意味が分からずに真顔で返してくるミケ……
「いや……お手洗いに行ってきます……」
「は、はい」
そもそもレコーディングが通じないとか……
よく考えればわかる事なんだけど……慣れない事はするもんじゃないね……
そんな事を考えながら、私は立ち上がり、先程ミケが指差した辺りの……獣道を外れた林に向かって歩き始めた。
そして林を入ってから少し歩いた所で、私は後ろを振り返った。
誰もついて来てないし……見えてない。
よし!
そう心の中で気合いを入れると、私は全力で走り始める。
この猫足を使えばすぐに着くはず!
そして走ったまま私は獣道に出ると更に加速して、ねこの町に向けて全力で走り始めた。
あの時、気になった事を……自分の目で確かめておきたいっ!
そんな事を考えながら、獣道を走っていると、私の読み通り……それはすぐに見えてきた。
そう。見えてきたのは、穴の空いた門。
ミケの住んでいた町を守るはずだった物。
見るのが怖い気持ちと、気になる心……
好奇心と言うと少し違うかもしれないが、その様な物が私の中では渦巻いていた。
そして門の向こう側に踏み入れると、見えたのは以前来た時と……同じ光景。
地震の後の……全てがなぎ倒され、倒壊し、生き物気配すら感じられない……
そんな光景だった。
幸いな事に……私の気になっていたものはパッと見た目には見たらない。
それを確認すると、私は目を瞑り……
大きく深呼吸をして、再度気合いを入れ直す。
「よし、行こう」
私はそう呟いて、目の前の道……ミケの家まで続く大通りを歩き始めた。
大通りの脇に立ち並んでいた家々はどれも無残なまでに倒壊している。
ニュースで見たことがある
地震発生直後の無残な街並みが広がっていた。
思わず目を覆い隠したくなる様な……そんな光景。
少し間、滞在しただけの……
殆ど馴染みのない私でもこんな気持ちになるのだ。
ずっと住んでいたミケには……
この光景はどう映ったのだろうか……
そう考えると心が苦しくなる……
でもここには、私が自ら来たんだ。
確認しないで帰るわけにもいかない……
そう心の中で自分に言い聞かせて、辺りを注意深く見ながら、更に町の奥へと歩みを進めた。
そして、数分経っただろうか。
私はミケの家だった所の前にたどり着いていた。
そして、見たくはなかった物が……
少なくとも“それ“は、通って来た道で見かける事はなかった。
私はホッと息をついて胸を撫で下ろす。
そう、確認したかった事……
それは“亡骸”がなかった事。
これだけの……虫達によって起こされた大災害。
普通に考えると、亡骸の1つや2つあっても不思議ではない光景。
入り口で蟻と戦う前に見た辺りの光景にも……それはなかったのだ。
逃げたのか……捕まったのか……
それは私には分からないけど……
少なくともここで……
この町で殺された形跡はない。
もしかしたら何処かに集められて……と言う事はあるかもしれないけど……
ステラと初めて会った時の感じからすると、私に……いや人間に対して強い殺意はあるみたいだけど……
猫にはそれを感じなかった。
今、私が生きている様に……ミケの両親もどこかに……
そんな、淡い期待の様な物が私の中には生まれて来ていた。
「用も済んだし、そろそろ戻らないと……」
私はそう思い、来た道を戻ろうとした私だったが、ふと目の隅に一本の大きな木がある事に気がついた。
それは、ちょうどミケの家の裏手。建物が健在だと見えない位置に立っている。
あれ? あんな所に木が生えてたのか。
葉っぱばかりで花は咲いてないけど、この木の感じは……
気がつくと、私は木の方に向けて足を動かしていた。
そして近づけば近づくほど、その木は私の馴染みの深い木に良く似ていた。
この葉っぱの感じ……
見たことある樹皮の模様……
やっぱりこれって……“桜”……?
私は特別、花が好きなわけでも、詳しいわけでもなかった。
ただ、“桜”だけは別。
そもそも、自分の苗字と同じ名前の“桜”に、興味がないはずはなかった。
こっちの世界で桜の木をみるとは思ってなかったよ。
花が咲いてないのはちょっと残念だけど……
そして私は、小さくため息をついて視線を下に落とした。
するとそこには……大きな、私でも入れそうな穴がある事に初めて気がついた。
こんな所に穴……? いや……これは……
目を凝らしてその薄暗い穴の中を見ていると……
その穴の中には下に続く階段の様な物がある事に気がついた。
何かあるのかな? 入ってみよう……
そして私は、その穴の中に入って、階段を降り始める。
階段は石でできているようで、ボロボロではあるが、意外としっかりしていて、左右の壁も、天井も、所々剥がれ落ちてはいるが、平らな石で固められている。
なんか不思議な場所だなぁ……外の建物が基本的に木でできてるから余計にそう感じるね……
そんな事を考えながら、階段を30段ほど降りると……広い、四角い部屋に着いた。
ただ、外の光があまり入って来ておらず、薄暗い部屋の中。
そして、その部屋の中央には暗くて良く見えないが、大きい何かが置かれている事に気がついた。
あれってなんだろう? 暗くて良く分からない……もう少し近づかないと……
そう思って私は、部屋の中央に向けて足を進めようとした……その時。
コツン
突然、私の後ろで物音が響いた。
「誰っ?!」
私はそう叫ぶ様に言うと、慌てて後ろを振り向いた。
次回更新も一週間以内の予定です
2018/03/18 誤字脱字修正




