第十話 弱り目に祟り目
ご飯を食べ終わって数時間後、私たちは森の前に立っていた。
しかし、ただの森では無い。
木々の葉っぱや雑草が生い茂り、薄暗く鬱蒼とした森……道もあって無いような……
そんな、これまで通って来た森とは明らかに違う雰囲気が漂っている。
「こっちですーぅ」
そう言いながら、森の中を指差すカヤ。どうやら、カヤの住んでいる場所はこの先にあるようだ。
まあ、道がこの先に入れって言っている様なものだし、そうなるよねぇ……あんまり入りたくはないけど、仕方ないか……
私はそんな事を考えながら、ふとミケの方に目をやると、ミケは何か言いたそうな顔をして私に方を見ていた。
「どうしたの?」
「いえ……ここは、出るって噂があって……」
「出るって……何が?」
「オ……いや、何もないです……」
ミケは一瞬何かを言いかけたが、カヤが見ているのに気が付き、言うのをやめて俯いてしまった。
うーん……何が出るのかわからないけど……怖がってる? さて……どうしたものか……
困った私は私はタマの意見を聞くために、タマの方に視線を向けた。
「どうしようか?」
「どうしようもこうしようも、ここで “はい!さよなら!” って言うわけにもいかんやろ?」
「そりゃあ、そうだ……ステラ、それで良いかな?」
私はそう言いながらステラの方に顔を向ける。
するとステラは、私の声には気が付かず、何故か小刻みにカタカタ震えていた。
「………………」
「ステラ?」
「キャッ!! みゃーこお姉さん! ビックリさせないでよ!!
わ、私が怖いわけないよ! みゃーこお姉さん! 行くよ!!」
私が何も言わない内に話を勝手に進めたステラは、そう言うと突然駆け出して森の中に入って行ってしまった。
「え……?」
ステラのその突然の行動に呆気に取られた私。
「みゃーこはん! ボケっとしとらんで、追いかけるで!!」
「う、うん! みんな、追いかけるよ!」
そして私たちもステラの後を追って中に森の中に入って行った。
そして数分後……
森に入ってすぐ、ステラの姿を見失った私たち……
森の中は薄暗い上に背の高い雑草が生い茂り視界が悪い。そして、悪い事に強い風まで吹き始めていた。
まあ、そもそも視界が良くても、超高速で進み始めたステラに追いつけるわけもないんだけど……
それにしても、雑草がミケ達よりも背が高いから、はぐれてしまうと迷子になる危険性があるね……
「私から離れない様にしてね!」
そんな注意を促しながら、道をひたすら前に進んでいく。
まあ、その道も誰かが通って草が踏み倒されてるだけで、道と呼べるものじゃないけど……
「ステラはんどこまで行ってもうたんやろ……」
「本当に「キャーーーー!!」
そんな時、突然ステラの叫び声が聞こえた。
かと思うと、泣きそうになりながら、走って戻ってきたステラ。
「ステラ?! どうしたの?!」
驚いた私は、そうステラに声をかけたが、ステラは私を顔を見るなり再度大きな声を上げた。
「キャーーーー!! こっちにも?!?!」
「えっ?! なんで私を見て悲鳴をあげるの?!?!」
「みゃーこはんが怖いんやろ?」
「怖くないよ?!」
そんな私とタマのやりとりを見ていたステラは、一瞬ハッとした顔をして私に恐る恐る話しかけて来た。
「みゃーこお姉さん……?」
「うん? そうだけど?」
そんな私の返事にステラはホッとした様な表情を見せて胸を撫で下ろす。
「良かった……さっき、みゃーこお姉……さん……が………………」
ステラは話しながら私の方に視線を戻したかと思うと、私を見たまま固まってしまう。
「ステラ? どうしたの……?」
私はステラを心配して声をかけるが、ステラは固まったまま動こうとしない。
「みゃーこはん、後ろ! 後ろ!!」
「後ろって何が……?」
そんなタマの驚いた声に私は後ろを振り向いた。
するとそこには……よく見慣れた姿……
そう、私がいた。
何かと思えば……鏡か……
そう考えた私は視線をみんなの方に戻した。
「なんだ。鏡があるだけじゃない……」
「なんでやねん! よう見てみ!! 鏡ちゃう!!」
そんなタマのツッコミに私は再度ふり向こうとした……その時……
ゴロゴロゴロ……ドガァァァン!!!
「キャーーーーー!!!」
「いやですーーーーぅ!!!」
突然、強い光と共に雷鳴が轟いた。その音を合図にしたかの様に、ステラと、そしてカヤまでもが走って逃げ始めてしまった。
「ステラ!! カヤ!! 追いかけ……」
ドガッッッ!!!
二人を追いかけようと体に力を入れた瞬間、背中から強い衝撃が走り、私は前に向かって突き飛ばされてしまう。
「みゃーこ様!!」
「みゃーこはん!!」
それを見たミケとタマは驚いた声を上げて、私の元に駆け寄ってくる。
「イツツ……いきなり何……?」
そう言いながら、私は起き上がる。
そして元いた場所に目を向けてるとそこには……蟻型が一匹……
「こんな時に敵かいな!!」
そう吐き捨てる様に言いながら、精霊術の準備を始めるタマ。
「ここは私に任せて! タマはミケとカヤを追いかけて!!」
私がそう言うとタマは一瞬驚いて私の方を向いて視線が合う。
そしてそのまま、私の顔をジッと見つめると、理解してくれたのか小さく頷き、ミケの方に向き直した。
「ミケはん! カヤを追いかけるで!」
「で、でも……」
「みゃーこはんなら余裕やろ! さ、行くで!」
そう言うと、タマはカヤの走って行った方に向けて走り始めた。
「タマさん! 待ってください! みゃーこ様、無茶をしないでくださいね!」
ミケもそう言うと、タマの後を追って走り始めた。
タマは理解が早くて助かるね……それにしても、タイミングが悪い……
そんな事を考えながら、蟻型をジッと睨みつけ勇者の剣を構える。
しばし、睨み合う両者……
そして先に動いたのは、蟻型の方だった。
蟻型は雑草の中に入って行ってしまう。
そうくるよねー。開けた場所ならタマの言うように余裕なんだけど、ここだと……
そう、雑草が目隠しとなって蟻型の位置がよく見えなくなっていた。
雑草が揺れる場所を目と耳で追いかけていたが、風が強くて正確に位置を特定できない。
ガサッ
そんな時、突然私の右側の草が大きく揺れた。
私は慌てて剣でガードしながら右足に力を入れて横っ飛びをして避けようとした。
しかし、雑草が邪魔をして思った様に動けず、蟻型の前脚が腕に掠ってしまう。
「クッ……ここじゃ、やっぱり不利か……」
そんな事をつぶやきながら、蟻型の方に目を向けたが、既にそこに蟻型の姿はなかった。
「まずい……とりあえず、動かないと!」
私はそう叫ぶ様に言うと、蟻型の居るであろう場所に剣を構えながら、後ろ向きに移動を開始する。
そして、後ろに下がり続ける私と蟻型の追いかけっこが始まった。
後ろに下がっているお陰もあり、蟻型の攻撃は前側……私が剣を構えている方向に集中し、剣で捌く事が出来た。
しかし、蟻型もヒットアンドウェイを繰り返し、こちらが攻め入る隙を与えてくれない。
「このままだと、決着が付かない……何処か見晴らしのいい場所は……」
そんな時、“ドンッ”っと言う衝撃を背中に感じた私。
どうやら、考える事に集中しすぎて木にぶつかってしまった様だった。
ガサッ
「まずい!! 」
私は苦し紛れにその場で大きく飛び上がり、木の枝にぶら下がる。
そして私のいた場所では、“シュッ”っと言う音と共に空を切る蟻型の前脚が見えた。
「危ない危ない……」
そんな事を呟きながら胸を撫で下ろと、私はどう地面に降りようかと下を向いた。
「あ……よく考えたら、ここ見晴らしのいいじゃん。強襲も受けないし……」
そう上から見ると、蟻型の動きが手に取る様にわかった。
それに気がついた私は、下に降りるのをやめ、枝の上に上がる為、木の幹を蹴ってジャンプする。
「お、簡単に出来た!
流石、猫並みのバランス感覚!
って喜んでる場合じゃないね……
さっさとアレを始末してみんなを追い掛けないと……」
強襲が無くなり一気に緊張感がゼロになった私だったが、気を引き締め直す。
そして再度、蟻型の方に視線を向ける。
「おー、動いてる動いてる。無駄なのに……」
蟻型は、右に行ったり左に行ったりしながら動き回っているが、木の上にいる私には丸見えだった。
「………………そこ!!」
同じ様な動きを繰り返していた蟻型の動きを見計らい、私は勇者の剣を振り下ろしながら飛び降りた。
自分の全体重を乗せた剣が蟻型の脚を捉える。そして脚は、バキッ!!っと言う音と共に意図も簡単にへし折れた。
その手応えを感じた私はさらに蟻型の首を目掛けて剣を振り下ろす。
再度、バキッっと言う音と共に地面に転がった蟻型の頭部……
そして、蟻型は徐々に動かなくなっていった。
それを見届けてた私は、小さく息を吐いた。
「ふぅ……終わりかな」
少し、勝利の余韻に浸っていた私だったが、状況を思い出しハッとなる。
「って、勝利の余韻浸ってる場合じゃない!
ステラは……まあ、一人でも大丈夫だろうし、カヤ達を追いかけないと……
えっと、こっちから来たから……こっちかな……?」
そんな独り言を言いながら私はカヤ達が走って行った方を向いて走り始める。
遠くからゴロゴロと雷の音が鳴っているのが聞こえていた。
次回更新も一週間以内の予定です。




