第一話 北へ。
今回から三章開始です。
私は一人、森の中を歩いていた。
いや、正しく言うなら、森の中で一人迷子になっていた。
まだ、夜には早い時間のはずなのに、薄暗い森の中。
私の頭上、空を見上げると分厚い真っ黒ば雲が一面に広がっているのが分かる。
幸い雨は降りだしてはいないものの……時々、雷鳴が轟いている。
まあ、それだけなら一人で迷子になる事もなかっただろうが……
この森に入ってから、変な物が出てくるわ、常に私の進行方向から強い向かい風が吹くわ、「か〜え〜れ〜」っと言う低い声がその風にのって聞こえてくるわ……
「って、うるさい! 帰りたいのはこっちだよ!!」
つい、そんな大きな声を上げてしまう私。
はぁ……毎度毎度、どうしてこんな事になるのか……
そんな事を心の中で呟きながら、私はこれまでの出来事を思い返し始めた……
ーーーーーー
「今日から獲物を探しに、北に向かうからね♪」
ステラが私の嫁になった次の日の朝。
ごはん食べている時に、私の右側に座ったステラが突然そんな事を言い出した。
獲物って私の事なんだろうなぁ。どこ言っても見つからないと思うけど……
いや、すでに見つかってるとも言えるのか……
ステラの発言に私はいつもの様にそんな脱線した事を考えていた。
「へぇー、そうなんや」
そんな私の代わりに私の左側、ステラの正面に座っているタマが、当たり障りのない事を答えてくれる。
タマと神楽さんには昨日の夜にこっそり説明しておいたから心配ないかな。
ミケは…………ミケの間には言葉など必要ない…………はず……
まあ、単に下手に伝えるとミケが暴走して、ステラvs私とか言う最悪の結果になるからだけど……
まあ、危なそう空気になったらフォローすれば良いか……
そんな事を考えていた私。
「獲物って、動物でも狩るんですか?」
「そうだよ♪ 人げ「そういえば! ステラって今何歳なの?!」
いきなりの危ない空気を察知して……つい考えるより先に口が出てしまった私。
そして話を遮られたステラは驚いた顔をして、私の事を見ていた。
しまった! ミケじゃなくステラの話を遮ってしまった!! 殺される!!
既に遅かった。ステラは遮った本人である私の顔を無言のまま、睨む様にじっと見ている。
その視線に、私はまるで蛇に睨まれたカエルのように……何も言えず、体を硬直させてしまう。
そしてステラの体からは私に向けた強い殺気が……
あれ? 出てない……?
しかし、私の事を睨むように見ている目の色が、赤く染まって……
あれ? 染まってない……?
そんな事を思いながら、ステラの顔を見ていると、ステラの表情が…………いつもの満面の笑顔になった。
「みゃーこお姉さん、そんなに私とお話したかったの?
そんなに私の事好きなんだ?
ちょっと恥ずかしいよ♪」
目の代わりに頰が仄かに赤く、朱色に染めたステラがそう言ってくる。
何故か良い解釈をしてくれている……?
乗らなきゃ、このビックウェーブに!!
そう考えた私はさらに畳み掛ける言葉を続けた。
「そ、そうなんだよ!
ステラの事を見てたら、好きすぎて急に年齢が聞きたくなっちゃってね!
だから、ステラの年齢が聞きたいな!私!」
私の言葉に、先に反応を示したのはステラ……ではなく私の右側に引っ付いて座っているミケ。
どうも私のセリフが面白くない様で、頬っぺたを膨らまし、体を揺らして私にぶつかってくる。
「ほら、ミケちゃん嫉妬しちゃってるよ♪」
そんな余計な一言を言うステラ……とは本人には絶対言えないけど。
その言葉を聞いたミケはより一層強く体を揺らしてぶつかってくる。
「ミ、ミケ……ミケも大好きだから!
ぶつかってこないで!」
「まあまあ、ミケはん。
あとでみゃーこはんにアーンしてもらい」
そんなフォローなのか何なのかよく分からない提案するタマ。
しかしミケは私の言葉ではなく、タマの言葉を聞いて体を揺らすのをやめ、タマの方を見てコクコク頷いている。
まあ、アーンぐらい良いか……
そう思いながら私は、ミケの頭を優しく撫でながら、タマに感謝の視線を送っていると……
「私にも、していいよ♪」
ステラも当然の様に話に乗ってきた。
私がステラにアーンしたいのが前提で、ステラはそれを許してあげるスタンスの様だ……
嫌だとか絶対に言えない。
見た目は可愛い小学生だし、アーンぐらいするのは嫌では無いけどね。
でも、こうなると当然の様に……
「じゃあ、ウチもしてな!」
そう言って、タマも話に乗ってきた。
2人にしてタマにはしない……なんて出来ないし、そもそもそんな意地悪するつもりないけどね。
「わかったよ。三人にアーンするから……
それで、ステラは幾つなの?」
脱線していた話を元に戻した。
元々、この質問自体が脱線を狙って発した言葉だったのだが……
私より年下なのかは、本当に気になっていたので改めて聞き直す。
「私が生まれたのは400年位前かな?
よく覚えてないよ♪」
少しの間、私も含めてその場にいるステラ以外の時が止まった……
え……? 400年前……?
合法ロリババア……?
えっ……?
シーンと静まり返るその場の空気……
私もステラの言葉を聞いて混乱して何も言えずにいたが……
それに気を悪くしたのか、ステラは目が座って……ピリピリした殺気のようなものが……?!
「ステラ! すごく若く見えるんだね!!
羨ましくて固まっちゃったよ!!」
その空気を打ち破るかの様に、大きな声で叫ぶように言い放つ私。
そしてステラは……
「何も言ってくれないからビックリしちゃったよ♪
思わず、みなごろしにしちゃうところだったよ?」
怖い事をサラッと言いながら、いつもの少女モードに戻っていた。
でも、400歳って……そこに何か秘密があるんじゃ……ステラの仲間の情報を何か聞き出せるかも……
そう考えた私は、もう少し踏み込んでステラに聞いてみることにした。
「400歳って、何「みゃーこ様!!」
そんな真剣な顔をして、ステラに問いかけていた所、ミケが話を遮って私の名前を呼ぶ。
良いところなのに……
そう思いながらミケの方を見ると……
「いつまで待たせるんですか?!
早くアーンして下さい!! はい!」
ミケは少し怒った顔をして、私にお箸を渡してきた。
まあいいか……ステラにはまた今度聞こう……
こうなってしまっては、ミケは言う事を聞かないだろうし……
この娘は、私の事となると周りが見えなくなるね……
まあ、好かれてるのはわかってるし、悪い気はしないけど。
そう考えた私は、少し苦笑いを浮かべてミケの提案に乗ってあげることにした。
「はいはい。心配しなくても、今からしてあげるよ」
こうして、私の3人に対するアーンタイムが始まった……
それに何故か3人にアーンしてもらったり、3人の嫁たちがお互いにアーンしあったりしていたが……
いつの間にこんなに仲良くなったんだろうか……
そんなある種のラブラブな空気を醸し出していた私たち。
「若いっていいのぉ……」
そんな特殊な空気に一人取り残されたのは、私の対面に座って、すっかり影が薄くなった神楽さん。
女子4人に囲まれて自己主張できる方が凄いか……
ちょっと可哀想かも……
「えっと……神楽さんにもアーンしましょうか……?」
気を利かせて私は、神楽さんにそう問いかけた。
しかし、当の神楽さんは目を瞑り、ただ首を横に振るだけだった。
でも、知っている。
私たちがアーンいる時の神楽さんは……自分もして欲しそうな顔をしていたのを……
神楽さんの名誉のため、言わないけど。
そんな事がありながら、ご飯を食べ終わった私たち。
ただ、朝ご飯を食べ終わったって言っても、まだ修行には少し早い時間。
なので私は自分の寝床に戻り、ミケと二人でゴロゴロしていた。
「今日の訓練憂鬱だなぁ……熱いの嫌だな……」
そんな独り言を呟きながらも、現実逃避をするかの様に、眠気が、襲ってくる……
お腹も膨れて心地の良い眠気……
ミケは既に私の腕の中で、スヤスヤと眠りについていた。
少しだけ……少しだけ……
惰眠を……貪ろうかな……
そんな事を考えて…………
意識が……どんどん遠くに……落ちて行く……
が、
突然、私の周囲を包み込むような冷たい……凍りつく様な空気と……
ピリピリとした強い殺気感じた私。
「えっ?! 何?! 敵襲?!」
そう叫びながら私は飛び起きた。
そして私の目の前に真っ先に入ってきたのは……
目が赤く、深紅に染まって……冷たく無表情で私を睨みつけるステラの姿だった……
「イツマデ……ネテルノ……?
ソンナニ……シニタイ……ノ?」
何故かよく分からないが、二度寝はステラ的には悪い事だったらしい……
ステラのその発言に、私は背筋をピンっと張って大きな声で返事をする。
「は、はい!! すぐ起きます!!」
「ハヤク…………ジュンビ…………コロスヨ?」
さらによく分からない事を言い放つステラ。
しかし、今にも襲い掛かって来そうな目をしているステラに私が反論できる筈もない。
「ステラ!! ごめんなさい!!
今すぐ準備をします!!
だから許してください!!」
そんな私の言葉を聞いたステラは、少し怒りが収まったのか、態度を軟化させ……
と言うより、既にいつもの少女モードに戻って、頰を膨らませていた。
「全くもー♪ さっきちゃんと伝えたのに♪
みゃーこお姉さんって、意外とだらしないんだね?
私がいないとダメなんだから♪
優しいお嫁さんの私が待っててあげるんだから
早くしてよ♪」
そう言って、何事も無かったかの様に元来た方向に歩いて行くステラ。
1人残された私……
いや、まだ寝ているミケを含めると2人か……
良く、あの殺気の中で寝れるなぁ……
ミケの鈍感力が凄いのか……
それとも私を信頼しきっているのか……
そんな、いつもの如く頭の中で別の事を考えていた私だったが……
今はステラの事を考えないと……
本当に狩られてしまう……
そう思いなおして、ステラの先ほどの発言を思い返した。
ーーさっきちゃんと伝えたのに♪
さっき……?
ご飯食べている時にステラ何か言ってたっけ……
ーーほら、ミケちゃん嫉妬しちゃってるよ♪
いや、違う違う……もっと前……
ーー今日から、獲物を探しに北に向かうからね♪
あ……もしかしてこの発言って……
“北に行ってきます宣言”じゃなく
“北に行くから付いてこい宣言”だったのか……
ステラの中では、私がついて行くのは決定事項なんだろうな……
嫌とか言えるわけないし……
仕方ない……皆んなに説明しないと……
そう考えた私は、まず寝ているミケを起こして状況を話す事にした。
こうして何故か私たちは、北に向かう事になったのでした……
ーーーとある場所
「見張りをつけておいて正解でしたよ。
ここまでお馬鹿さんだとは思いませんでしたが……」
執務室の様な四角い部屋の奥……窓に背を向ける形で椅子に座っている“顔立ちの整った腕の6本ある男”は、そう呟きながら、机の上の物ーー淡い緑色をした球体から目を離した。
「まあ、生き残りの可能性もゼロでは無いですから
すぐ殺してしまうよりは、生かして仲間の元に案内させるのも……手ではありますね」
そう独り言を言いながら、顎に手を当てて“うんうん”と頷いている男。
「しかし、小型だけでは少し心もとないですね……
クーヘンはいますか?」
そう、誰に言うでもなく部屋の中に向けて話しかける男。
「はっ、ブラン様、ここに。」
すると、6本の腕を持つ男改め、ブランのの目の前の天井から、黒装束に身を包んだ12、3歳の少年が、天井からゆっくりと降りて来た。
そんな少年改めクーヘンを見て、ブランは少し呆れた顔を浮かべている。
「どこにいるんですか……貴方は……」
「ここの天井、心地良いので……」
そう恥ずかしそうに言うクーヘンを見て、ブランは、小さくため息をつく。
「まぁ、いいでしょう。
彼女らを監視してください。
くれぐれも……特にステラには気づかれない様に……」
「心得ております」
そう言うと、今度は糸を伝って天井にゆっくり登って行くクーヘン。
ブランが上を見上げると、既にその姿はなくなっていた。
が、今度は別の場所から……ブランに対し強い視線が注がれていた。
「そんなに睨まないでください。
然るべき時に、貴方にはお願いしますので」
ブランがそう言うと、視線が緩まるのを感じる。
「それでは念のため、主に報告しておきましょうか」
そういうと、ブランは立ち上がり部屋の出口の方に歩き始める。
「そうそう、貴方も暇ならこの部屋の掃除でもしておいてください」
ブランはそうとだけ、部屋の中に対して言うと、ドアを開けて部屋から出て行く。
「ハッ!」
誰もいなくなった部屋には、そんな女の声が響いていた……
次回更新は一週間以内の予定です。




