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ねこの国の勇者様  作者: かなぎ
二章
35/46

第十二話 蜂の少女


 振り向いた私の目に入ってきたのは、黄色に黒のボーダーの入った服を着た、私よりも幼い1人の少女だった。


 いや、只の少女ではない。

 背中に4枚の羽が生えていて、頭からは2本の触覚の様な物が生えている。


 一見すると、蜂のコスプレをしている可愛い小学生に見えるが……

 明らかに殺気を放って居て、私の事を獲物を見る肉食獣の様な目で見ている。


 私はその少女を見て、本能的に悟った。


 まともに戦って勝てる相手ではない。

 下手に刺激しない様にしないと……


 そう考えた私は、その少女に向き合うと剣を抜かずに手をかけたまま、少女の出方を伺って居た。


 ………………


 ピリピリとした空気の中、数刻の沈黙が訪れた。

 少女は一言も発せず、その場に留まったままで……しかも何故か小首を傾げている。


 その空気に耐えられなかった私は、少女に対して話しかける。


「私に……何か……用ですか?」


 その言葉を聞いた少女は、何も言わずに私の顔を真剣な表情でジッと見つめたまま近づいてきた。


 私の体がビクッとなり、緊張が走った。


 が、先程とはどこか違う、何故か殺気を感じないその行動に、私が見守る事しか出来なかった。


 ゆっくりと私と触れ合いそうな距離まで近づいてきた、私の胸程の身長しか無い少女。


 いきなり右手を私の顔の方に伸ばして……


 私の顔から生えている忌々しい“髭”を……


 思いっきり引っ張った。


「痛っ?! いきなり何するの?!」


「あれ? やっぱり本物?」


 少女の突拍子も無いその行動に、私が思わず大きな声を開けてしまったが

 少女はそんな事は関係ないとでも言うかの様に、再度小首を傾げている。

 しかし、小首を傾げたいのはコッチである。


 突然、強い殺気を向けられたかと思うと今度は髭を引っ張られるとか……

 一体、何がしたいんだこの子は……


 すでに私の緊張は何処かに飛んでいってしまった様で、そんな事を考える余裕すら出来ていた。


 一方、少女の方は、今度は私の頭の方に視線を送って何か考えている様子。


「お姉さん、ちょっとしゃがんでくれる?」


 その少女の言葉に、私は心の中で“は?”となったが

 この少女は私より格上、従う方以外に無い。


 そう考えた私は、少女の前に跪いた。

 目の前では少女のひらひらとした黄色スカートが見えている。


 そして少女は、私の頭の方に手を伸ばしたかと思うと……


 今度は、私の頭の上に着いた“猫耳”を……


 思いっきり引っ張った。


「痛っ?!! さっきからなんなの?!」


「こっちも本物……

 お姉さん♪ もう立っていいよ♪」


 私は再度大きな声で抗議するが、この少女には届いていない様で、私に立つ事を促してきた。


 本当に何がしたいんだこの子は……


 そんな事を考えながら立ち上がった私は少女の顔を見つめる。

 その少女から、何故か殺気は完全に消えており、私に対して屈託の無い笑顔を見せているぐらいだった。


「キャハ♪ お姉さん、ごめんね♪

 人違いだったみたい♪」


「人……違い?」


 先程とは違う、まるで友達同士が話をしている様な雰囲気を醸し出している少女に

 私は困惑しつつも、そう聞き返した。


「うん。筋肉バカに、この辺に“人間”がいるって聞いたから“殺しに”来たんだけどねー。

 お姉さん、“人間”じゃないでしょ? 猫?」


 私の体に再度緊張が走る。

 “殺しに”と言う言葉を聞いて背筋がゾッとした。


 筋肉バカとは、多分あの男の事だろう。

 薄々勘付いていたが

 その言い方からして奴の仲間……

 その仲間のこの子が、私を殺す為に来た。


 返事を間違えると……

 この場で私は殺される……

 上手く話を合わさないと……


「う、うん。私は“人間”じゃなく、猫だよ?」


「だよねー。髭も耳も本物みたいだし……

 よく見るとお尻に尻尾も付いてるね?

 でも、お姉さんは変な猫だね?

 初めて見たよー」


「ははは……そ、そうなんだよね。

 昔から変わってるって言われて……

 多分、ゴリラの血でも混ざってるんじゃ無いかな?」


「ゴリラの血かー

 なら有り得る……のかな?」


 少女は少し疑問を感じている様だったが、何とか納得させる事が出来た様だった。

 ゴリラに似ていると言う事に感謝せざるを得ない。


「あ、そう言えば、自己紹介がまだだったね?

 私はステラ♪ お姉さんは?」


 突然始まった自己紹介。

 “桜 都子”とかいって良いものなんだろうか……

 いや、今は少しでもリスクを避けるべきか……


「ステラさん……ですね。

 私は、みゃーこです」


 私はそう言って、ステラさんに向かって軽く会釈をする。


「キャハ♪ 鳴き声の名前って可愛いね♪

 みゃーこお姉さんの事、なんか気に入っちゃた♪

 特別に私の事、“ステラ”って呼び捨てで良いよ♪」


 そんな楽しそうな表情で私に話かけてくるステラさん。


「いや……それは悪いっていうか……

 なんて言うか……」


 流石に、私を殺しそうとしている人に馴れ馴れしくは出来ない……

 そう思っていたのだが……


「…………エ? ナニ?」


 一瞬してステラさんの雰囲気が冷たく、憎悪に満ちていく。

 目も怒りに染まるかの様に赤くなり、殺意の篭った表情で私の事を捉えて居るのを感じた。


 その一瞬の出来事に、私の思考は完全に停止してしまい。何も考える事が出来なくなっていた。

 いや正しくは、何も考える事が出来ないのではなく、頭の中はーー殺されるーーその言葉だけで埋まっていた。


「ソンナニ……シニタイノ?」


 先程の感情の篭った言葉とは違う、無機質で冷たい言葉が私に投げかけられる。

 恐怖に襲われる私は、一言の言葉を口から捻り出すのが精一杯だった。


「ス、ステラ……」


「うんうん♪ 初めからちゃんと呼んでよ♪

 みゃーこお姉さん、てっきり死にたいのかと思って、ビックリしちゃったよ?」


 冷たく凍りつきそうな雰囲気が

 一瞬にして元のほのぼのとした空気に置き換わる。

 あっという間の出来事だったが、私はホッと胸を撫で下ろした。


「ご、ごめんなさい……

 あんまりこう言うの慣れてなくて……」


 元々ボッチな私は、慣れてないのは本当の事……嘘ではない……


「みゃーこお姉さんは、恥ずかしがり屋なんだね♪

 私は優しいから、許してあげるよ♪」


 先程と同一人物とは思えない、屈託の無い笑顔を私に向けるステラ。

 ただ、憎悪に満ちたあの顔が頭に浮かび、私の緊張は解れる筈もなかった。


「あ、ありがとう。ステラ……」


「いいよいいよ♪

 みゃーこお姉さんは、私のお気に入りだし♪

 じゃあ、私はそろそろ獲物を探しに行くね♪」


 そう言って、飛び立とうとするステラ。


 獲物とは多分、人間(わたし)の事だろう……

 お気に入りと言われるのは怖い気もするが

 漸く、この緊張から解き放たれる……


 そう安堵の表情をしていた私だったが……


 グゥゥゥゥゥゥゥ……


 突然、大きな、お腹のなる音が辺りに響き渡った。

 その音の主は……ステラの様だった。


「キャハ♪ お腹なっちゃった♪」


 そう言いながら、少し恥ずかしそうにしているステラ。

 こう見ていると、普通のコスプレをした女の子にしか見えない。


 そんな事を考えている私を、ステラはマジマジと真剣な顔で見ていた。


「ところで……みゃーこお姉さんの家って近いよね?」


 突然、そんな事を聞いてきたステラ。

 私は今、剣以外の荷物を何も持っていない。

 そう思うのは当たり前といえば当たり前だった。


「う、うん。遠くはないけど……」


「良かった♪

 じゃあ、今日はみゃーこお姉さんの家に泊めてもらうね♪」


 “ご飯を食べさせて”は想定していたが

 “家に泊まる”とくるとは想定外。

 しかも、ステラの中では、決定事項の様だ。


 どうにか断りたいが、言葉を選ばないとさっきの二の舞になるのは明白だし……


「でも厳密には……私の家じゃなく、居候みたいなものなんだけど……」


 そんな、考えた私の出せた精一杯の言葉……


「ふーん。そうなんだ♪

 でも、みゃーこお姉さんも私の事を

 友達だからって説明して

 お願いしてくれるでしょ?

 それに……」


 いつの間にか私と友達になっていたステラは

 そこで一旦、言葉を切った。

 表情が冷たく凍りつく様な物に代わりに

 口が裂けるのではないかと言うぐらいの笑みを浮かべた。


「それに……断られたら

 殺しちゃえば(・・・・・・)良いし……」


 それを聞いた私は、何も言う事が出来なくなっていた。

 

「じゃあ、みゃーこお姉さんのお家に行こ?

 私、お腹が空いちゃった♪」


 そんな私に対して、ステラは楽しそうに満面の笑みを浮かべ、そう言っていた。


 神楽さんには申し訳ないけど……

 私が全力で説得するしかないか……


「うん。ステラ、こっちだよ」


 私は、ステラにそう言うと、丘の方に向けて歩き始める。

 その横をステラは4枚の羽で飛んで付いて来る。


「みゃーこお姉さんのお家、楽しみだ♪」


 楽しそうにそう言うステラ。


 私は、この後の展開を想像し、最悪の事態を回避する方法を考えていた。



次話投稿は一週間以内の予定です。


2018/03/02 誤字脱字修正

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