第十一話 チート物語始ま……
次の日の午後。ミケを膝の上に乗せた状態で黙想をしていた私は、薄く桃色をしたモヤモヤっとする物を感じられる様になっていた。
それはそうと、ミケが膝の上にいる理由は……
「いやです! 私は、みゃーこ様が私の色に染まってくれないなら、ここから動きません!!」
とか言い出して、タマも渋々納得したと言う経緯があるが……
まあ、猫に膝の上に乗られるのは私としても大歓迎だし……
脱線はここまでにして、本題。
「うーん……何か桃色をした霧に様な物が見える様な見えない様な……
でも、青色も混ざってる気もする……」
目を閉じたまま、誰に言うわけでも無くそう呟いた私。
「おぉ、少し感じる様になって来た様じゃの」
私の呟くが聞こえていたのか、私の事を見守っていた神楽さんがそんな事を言ってくれた。
「これが、自分の気なんですか?
もやもやしてよく見えませんけど……」
「桃色が見えたのならそうじゃと思うがの。
ここにいる他の者の気も見てみると良い」
神楽さんそう言われ、辺りに意識を向けてみる。
直ぐに少し離れた所に濃い赤い気を感じ取ることができた。
あの辺りにタマがいたからあの赤い気はタマかな……
なぜか青みも帯びているけど……
そして、そこから少し離れた場所に、薄い虹色の気を感じる。
あれが神楽さんか……神楽さんって虹色の気を持っているんだ……
しかし、こっちも全体的に青い……
「なんか……タマと神楽さんぽいのは見えました……
ただ全体的に青い様な……って青色が濃くなりだした……?!」
話している最中にどんどん青い靄が私の目の前まで迫って来ていた。
「桜お嬢さん!! 中断するんじゃ!!」
「えっ?! ひゃぁ!!」
黙想を辞めた私の目に飛び込んで来たのは……
頬っぺたを膨らまして怒っているミケのドアップ。
驚いて悲鳴を上げてしまった私……
「みゃーこ様!!
私は? 私は見えないんですか?!」
ミケさんは仲間外れにされてご立腹の様子……さっきから見えていた青いのはミケだったのか……
「いや……ずっと青いのが見えてたよ?」
そう言い、心の中では、“何か分からなかったけど”と付け足した私。
「なら! ちゃんと言ってくださいよ!!
私はみゃーこ様に構って欲しいんです!!」
ミケは構ってちゃんモードに入っていて、ちょっと面倒くさい感じがする。
仕方ない。ちょろイン的な感じで誤魔化すか……
そう考えた私は、少し悲しそうな顔を作りミケの事を見つめた。
「私とミケとの間に言葉なんかいらないと思ってたけど……
違うの……?」
「みゃーこ様……」
私の言葉を聞いたちょろインさんは目をウルウルさせて私の事を見つめ返していた。
こういう時のミケはちょろくて楽……
いや、今回はなんか様子がおかしい気が……
「そんなこと言っても騙されませんよ!!」
脱ちょろイン宣言をするかの様に、ミケはそう叫びながら、再度頬っぺたを膨らまして私を睨んでいた。
こうなってしまってはどうしようもない……放っておこう。
早々に諦める事にした私は、お茶を濁す為に取り敢えずミケの頭を撫でて、話をそらすことにする。
「そう言えば、神楽さん。さっき何で中断させたんですか?」
唐突に話をそらされたミケは一瞬ムッとした顔をして何か言いかけたが、私が頭を撫でていたせいか言葉発する事はなかった。
「あのままだと、また猫になっておったからのぉ……」
あぁそういうことか。
ミケは“それで良かったのに……”とか、呟いているけど今、猫になると色々マズイ。
タマ的な意味で……
なので、ミケが何か言いだす前に、さっさと話を進めてしまおう……
「分かりました。それで次はどうすれば良いんですか?」
「自分の気を感じながらそれを制御する感じじゃの。
そうじゃのぉ……まずは、指先に集める様にしてみると良い」
「指先……」
そう呟くと私は、再度目を閉じて自分の気を感じ始める。
お……今度は、すんなりとモヤモヤが見え始めた……
んで、指先……指先……
人差し指だけを立てた状態で、ゆっくりと手を自分の前に突き出してみる。
あとは……指先に集中する感じかな……
そう考えて私は指先に意識を集中させた。
そうすると、見えていた桃色のモヤモヤがその指先の方に集まって行く感触があった。
「なんか集まってきました!!」
意外にあっさり出来た事に、少し興奮し大きい声で神楽さんに報告する私。
「ほう……桜お嬢さん、そのまま維持するんじゃよ。では、タマお嬢さん、話した通りに……」
「分かったで」
神楽さんとタマはそんなやり取りをして、タマが何かの準備を始めた。
何やってるかは分からないけど……
でも、私ってもしかして才能あるんじゃない?!
精霊術の才能がなくて今までは、ミケとタマに遅れを取ったけど……
これからはチート主人公がこの世界を救う物語が始まる!!
「混精霊術 火式 発火!!」
そんな、今後の壮大な今後のストーリーを妄想していたが、突然、タマの声が響き渡りそして……
「あっっっっつぅ!!!!」
バタンッ!!
突然、右手の人差し指に焼ける様な痛みを感じて、私は手を振り回して後ろに倒れてしまう。
「何?! いきなり?!」
倒れ込んだままの私の目のは、ちょっと赤くなった人差し指と、それを見て残念そうに首を横に振る神楽さんとタマの姿。
ミケは私が倒れこむ時に膝から飛び降りた様だ……さすが猫なだけはある……
「桜お嬢さん……制御が甘いのぉ……」
「みゃーこはん……まだまだやで……」
「えっと……状況が理解できていないんですが……」
そんな二人を見て私は困惑気味にそう答える。
「ちゃんと自分の制御できておれば、タマお嬢さんの火では熱さは感じないはずじゃ」
「そうやで! みゃーこはん!!
さあ、もう一回やるで!」
どうやら、才能がない私のチート物語は始まらない様です……
「えっと……流石に、やけどしちゃうから……
ね! ミケ!!」
そう言いながら、ミケの方を向いて、ミケに助けを求める私。
「この前、熱々のおでんを美味しそうに食べてたじゃないですか!
みゃーこ様なら熱いの、余裕ですよね♪」
そう言いながら、久々のキラキラした目で私を見つめているミケ。
これは、皮肉で言ってる訳ではなさそうだ……
でも、美味しそうに食べてはいないんですが……
「みゃーこはん……ミケもああ言ってるし、観念したらどうや?」
「でも……熱いのは……」
まだ心は折れておらず、観念したくない私は最後の抵抗を試みるが
「そうなんや……
みゃーこはん、その髭、良く似合ってるもんなぁ……
そら、しゃーないなぁ」
タマのその一言にあっさり折れた私の心。
「いや……やります……」
「は? みゃーこはん、何やて?
全然、聞こえへんねんけど?」
タマはニヤニヤしながら、私の方を見ている。
このドS嫁め!!
とは言えずに、今は、タマの要求を飲むしかない。
「やります! 強くなる為にやりますよ!!
ええ!! 例え、身体中を燃やされてでもやりますとも!!」
ヤケクソになった私は、そう大きな声で叫ぶ様に言った。
「みゃーこはん! よう言ってくれたわ!」
「流石、私のみゃーこ様!」
そんな言葉を合図に、スパルタ教育が始まったのであった……
ーーーそして数時間後
今日の訓練を終えた私は、丘を神楽さんの家とは反対側に降った先にある川に来ていた。
今日はミケがご飯を作ると言い出したので、今は一人だ。
「ここに来た理由? もちろん、手を冷やす為ですよ……」
そう、誰に言うでもなく、そう呟きながら赤く少し爛れている人差し指を川の水に浸していた。
今日のスパルタで、”指先がちょっと熱いけど我慢できなくはない”レベルには成れたけど……
「正直、明日の事を考えると憂鬱……はぁ……」
そんな日曜日の夕方の様な気持ちになって大きなため息が出る。
「いくら、強くなる為とはいえ、こんなスパルタはちょっと酷いよねぇ……」
そんな事を考えながら、川の水を見ていると、飲めるぐらい澄んでいて、小魚が泳いでいるのも見える。
ちょっと入ってみようかなぁ……
毛繕いで綺麗にしてもらっているとは言え、偶には水浴びをしたいし……
そんな事を考えながら空を見上げると、先程まで赤みを帯びていた空は漆黒の部分を増して来ている。
流石に、一人では不用心な時間か……
水浴びは今度にして、そろそろ帰らないと。
そう考えた私が手を水に付けるのをやめ、立ち上がろうとした、その時……
「みーつけた♪」
突然、私の後ろから聞きなれない女性の声が響いた。
いや、声だけではない。
声と同時に強い殺気の様な物を感じた私は、勇者の剣に手をかけて、殺気の主の方へと振り向いた。
次回更新は、一週間以内の予定です




