第七話 ミケvsタマ
「はい、みゃーこちゃん。アーン」
「アーン」
「みゃーこちゃん美味しいですかー?」
「うん! おいしー!」
ワタシの言葉に頭をなでて答えてくれるミケさん。
ワタシがねこになって、2日、私とミケは神楽さんの家の近くの丘の上でご飯を食べていた。
神楽さんの家で日がな1日ゴロゴロして
ミケさんにご飯を食べさせてもらって
頭もなでてもらって
なんて幸せなんだろう……
「みゃーこちゃん、ずっと一緒に暮らしましょうね?」
「うんー! 暮らすー!」
ミケさんより小さい子ねこになってしまって、むずかしい言葉とか思いうかばなくなってしまったけど……
幸せだからいいよね!
「ええわけ、あるかーーーーー!!!!」
ワタシが考えているのことに、そんな怒りのツッコミを入れてきたタマ。
「みゃーこはん、どないしてもうたんや!!
強くなりたい言ってたんとちゃうんか!!」
「私のみゃーこちゃんをイジメない下さい!」
怖い顔をしながら、ワタシに詰め寄ってきたタマに対し、ワタシの前に庇う様に立ちはだかったミケ。
「ミケはんもミケはんや!
みゃーこはんを甘やかしてから
すっかり子猫化してもうてるやんか!!」
「みゃーこちゃんは、私の妹なんです!
甘やかしても良いんです!!」
タマの怒りに、よく分からない応戦をしているミケ。
「もう我慢の限界や!!
口で言っても分からん馬鹿にはお仕置きや!!」
そう言って、怒りの表情で形代と火打ち石を取り出すタマ。
「馬鹿?! 私のみゃーこちゃんになんて事を!!」
今はミケさんに向けられたセリフだとワタシ思うなー。
「ミケはん、アンタの事や!
混精霊術 火式 発火!!
からの……炎纒姿!!」
形代に火がついたと思った瞬間には、あっと言う間に炎を纒った姿に変わったタマ。
「えっ……タマさん、いつの間に3種類一気に使える様になって……」
そんなタマを、唖然とした顔をして見ていたミケ。
「ずっと遊んでた馬鹿なミケはんとは違うわ!
ウチはここ2日、神楽はんに色々教わってたんや!」
「なっ!? 一度ならず二度までもみゃーこちゃんを馬鹿にして!!」
そう言いながらも、ミケは左足を少し後ろに下げ、タマの攻撃に対して身構える。
今のは明らかに、“馬鹿なミケはん“って言ってたよねー
怒りの論点がずれては居るが、もう誰にも止める事の出来ない、一流精霊術師同士の戦いが始まった。
まず初めに動いたのは、既に炎を纒った姿のタマ…………ではなかった。
「完膚なきまでに叩きのめしてやるから
さっさと精霊術使ったらどうや?」
タマはその場から動かずに棒立ちのまま、そんなミケを見下した発言をする。
「なっ! 後悔しても知りませんよ!」
そう言いながら、ミケは形代と水筒を取り出して、精霊術の準備を始めた。それをタマはただ見ているだけだった。
「限精霊術 水式 水纒姿!!」
ミケがそう唱えると、体に水の玉が集まり、水を纒った姿に変わった。
「これで、タマさんに勝ち目はありませんよ!
火が水に勝てるわけないですからね!
私に精霊術を使わせた事を後悔させます!」
形成逆転。勝負は決まった様な物だ。
そんな感じすらするミケの態度と言葉。
「へー? なら、ごちゃごちゃ言わずにさっさと撃ってきたらどうや?」
そんなミケを目の前にしても、タマは余裕のある態度を崩さず、ミケを見下す姿勢を崩さない。
「人の事、馬鹿にして!
じゃあ、遠慮しませんよ!!
限精霊術 水式 水簾!!」
初めて自分の事を馬鹿にしていると認めたミケ。
ミケがそう唱えると、大量の水がタマの上から降り注ぐ。
タマが全身に纒った火が消える……そう思った瞬間。
「限精霊術 火式 蛍火!!」
タマが頭上に向けそう唱えたかと思うと
重力で落ちてきた水からタマをかばう様に無数の小さな火が現れる。
そして、ジュッ!と言う水が蒸発する大きな音が辺りに木霊し……発生した水蒸気でタマの姿が見えなくなった。
「やったの?!」
そんな言ってはいけない事をフラグ発言をするミケ。
そして、水蒸気が周囲に拡散し、徐々にタマの立っていた場所が見える様になって来た……
そこには、タマが炎を纒った元気な姿が……?!
うん。知ってた。
さっきのフラグだし。
そんな事を心で言っている私を他所に
「何や? そんなもんか?」
タマは、蚊にでも刺されたかな? 鬱陶しいな。
そんな余裕のある態度のままだった。
「えっ……?! て、手加減しただけです!」
対するミケは勝利を確信していた表情から一転、焦りを感じているのが手に取るようにわかった。
「次は本気で行きます!!
本当に大怪我しても知りませんからね!!」
ミケはそう叫ぶ様に言うと、瞑想を始めた。
タマを中心にした地面の所々ヒビが入り、そのヒビから青い光が漏れ出して行く。
そして青い光は徐々に強く、濃く、そして地面全体へと広がっていく……
その光は目を開けていられない程に強くなり、地面全体に広まりきった。その時……
「極精霊術 水式 水界!!」
ミケのその言葉が掛け声になり
光が水に変わり、辺りの木々や石、地面など共に、天に向けて、放出される。
そして、気がつくと太く、天高く聳え立つ水の柱がそこにはあった。
「いや……いくらなんでもやりすぎ……」
今まで黙って見ていた私だったが、思わずそう呟いてしまっていた……
あれじゃ……
下手したら、タマ死んじゃう!!
「ミケ!! やりすぎ!! 止めて!!」
「極精霊術 火式 天火!!」
私が子猫になっているのも忘れて、そう叫んだのとほぼ同時に、そんなタマの声が木霊し、あたりは水蒸気と熱風が吹き荒れた。
「熱っ!! 一体何?!」
私が声のする方ーータマのいた方向を向くと
そこ以外は土が抉れているのに対し、タマの周囲1mは元のままで……
タマも先ほどと変わらぬ状態で立っていた。
「今のが……ミケはんの本気か……?
はぁ……弱い……」
溜息まで吐き、心の底から残念がっている様に見えるタマ。
対するミケは、唖然としていて言葉すらで出ない、いや出せない様子。
「じゃあ、もうええな。
一瞬で終わらせたるわ!!」
そう言うと、タマは一気にミケとの間合いを詰めた。
唖然としていて反応が遅れたミケ。慌て腕を体の前でクロスさせる防御体制を取るが、何処か余裕のある雰囲気が出ている。
「クッ! で、でも水が火に負けるなどあり得ません!!」
それを聞いたタマは、顔が歪むぐらいの笑みを見せ……
「それなら……良く味わいや!!」
そう言うと、タマはそのままミケに……
抱きついた。
「自分から火を消しに来るなんて、タマさんは何を考え、って熱い! やめっ!! 熱い!!」
驚いた表情を見せたものの余裕のあった
ミケの言葉が悲鳴に変わっていく。
「水は水でも熱湯になったらどないなるんやろうな!
ほら! どんどん温度上げるで!!」
「熱い!! 本当にっ、やめて!!
熱いからっ! 熱いからっ!!!」
「降参するんか?」
「します! 熱っ!!
降参っ! 降参しますっっっ!」
ミケの悲鳴にも似た必死のギブアップ宣言が辺りに響いた。
それを聞いたタマは満足した表情を見せると、ゆっくりミケから離れ、体に纒った火を消した。
それとほぼ同時に、ミケは崩れ落ち、膝をついた。
二人の勝敗が決した瞬間だった。
しかし、タマからは勝利の喜びは感じられず、寧ろ悲しそうな目でミケの事を見ていた。
「全く……」
そう呟くいたタマはミケに背を向けてる形で、私の方に歩き始めた。
顔はいつに無く真剣な表情をしている。
「所で……みゃーこさんは、いつまで、猫で居るおつもりなんでしょうか?」
あ、素の状態のタマ……
敬語なのが逆に怖い。
「いや……猫も良いかな……なんて……」
「へー、そうなんですか。
つまり“強くなりたい”と仰っていたのは嘘だった。
そう仰るんですね。
なるほど、なるほど」
そう話しながら、タマは私のすぐ目の前まで来ていた。
「いや、そういうわけじゃなくて……」
「あの言葉を聞いた時
私はどれ程、嬉しかった事か……
そんな私の気持ちを踏みにじるんですか。
そうですか。そうですか。
それは、嘸かし楽しいでしょうね」
そう言っているタマの顔は一見穏やかに見えるが
目には涙が溜まっていて、私の事を睨み続けている。
「いや……ご、ごめんなさい……」
そこでタマは一度、私から視線を外し
「はぁぁぁ」と大きく、長いため息を吐いた。
そして、再度私を睨む様な目で見つめたかと思うと何かを持った手を大きく振りかぶった。
その手の何か……えっ?! ハリセン?!
「なら………………」
そこで一呼吸置き、私の頭に向けてハリセンを振り下ろした。
「さっさと人間に戻りなさい!!!」
バシッーーーーーーー!!!
ハリセンの良い音が、あたりに響く。
ただ、音の大きさとは違い痛みは殆ど無い。
が、気が遠くなる感覚が……私を襲う……
「私の神社に伝わる“対魔のハリセン”。
起きた時は、全てが元どおりです」
そんなタマの声を聞きながら……
私の意識は、深い闇に落ちて行った……
次回は、一週間以内の予定です。
2018/03/18 誤字修正




