第八話 擬猫化進行中
「みゃーこさん、正気に戻りましたか?」
「はい……ご迷惑を……おかけしました……」
場所は“良い景色が見えそうな丘”の上。
気がついたら人間の姿に戻っていた私。
そして今は、敬語モードのタマの前に正座をして、お説教を受けてる最中だった。
「私は悪く無いもん」
そんな冷たい空気が漂う中、ミケは空気を読まない発言をして、そっぽを向いてしまい、更に場の空気が冷えたのがわかった。
それを見たタマは、目を瞑り小さく息を吐き出したかと思うと、懐から形代と火打ち石を取り出した。
「混精霊術 火式 炎纒姿……」
そして、そう小さく呟くと、右手だけに炎を纒い、その右手をミケの方を向けた。
「ミケ……良く聞こえなかったので
もう一度言ってもらっていいですか?
誰が悪くないんですか?」
そう言われ、ミケはタマの方に顔を向けたが……
「えっ……あ……もう熱いのは嫌……辞めて……辞めて……」
タマの炎に気がついたミケは、そう言いながら恐怖の表情でカタカタ震えている。
そんなミケを見ても、表情を崩さずにじっとミケを見つめるタマ。
「で、誰が悪くないんですか?」
「私が……悪かったです……
だから……熱いのはもう嫌……嫌……」
そうカタカタ震えたままで非を認めたミケは、下を向いて俯いてしまった。
「全く……」
ミケが非を認めたのに満足したのか、小さくそう呟くと手についた炎を消し、私の方に向き直った。
「それでは、みゃーこさん。
もう一度、ちゃんと聞きますが
“強くなりたい”って仰っていたのは嘘だったんでしょうか?」
「いえ……嘘ではございません……」
そう、伏せ目がちに私は言ったが、タマは、より険しい表情になったのが見て取れた。
「みゃーこさん。
ちゃんと私の目を見て仰って下さいませんか?
そうやってまた嘘をついて、私の気持ちを踏み躙るおつもりなんですか?」
「嘘じゃ……嘘じゃないです!!
強くなりたいです!!
タマさんの為に強くなりたいです!!」
「本当ですか?
みゃーこさんの事信じていいんですか?」
「も、勿論です!
タマさんのご期待に答えれる様に頑張ります!!
だから、信じてください!!」
「分かりました。」
目を瞑り、私の言葉を噛みしめるようにうんうん頷いたタマは、そう言ってくれた。
それを聞いた私は安堵し、息を漏らした。
でも、タマは怒らすとミケと違う方向で怖い。
いや、むしろタマの方が数倍怖い。
そんな余計な事を考えていた私に
「それじゃ、みゃーこはんをもう一度信用するわ。
けど、それを治すんわ、みゃーこはんがちゃんと行動で示してくれてからやな」
いつもの調子に戻ったタマは、そう言いながら、何かを手渡して来た。
そしてそれは……
猫耳カチューシャだった。
「えっ? 猫耳がなんでここに?」
なんでこれ着けて無いのに、タマやミケの話が理解できてるの?
いや、ちゃんと頭に何かついてる感覚があるよ?!
混乱しながらも、そう考えていた私は頭の上に手を伸ばす。
私の手にふわっとした物があたったが、同時に、頭の上の何かに触れられた感触があった。
「えっ? これ……何?」
触っていると、なんか微妙に擽ったい。
「みゃーこはん、それ耳や」
「えっ……? 耳?」
「せや。みゃーこはん自前の猫耳やで
自分で見てみたらええ」
タマに手鏡を渡された私は手鏡を覗き込んだ。
まず顔を見て……いつもと同じ顔……じゃない!!
「何で髭が生えてるの!!!」
そう、私の鼻の下あたりから長い髭が左右に3本ずつ、真横に生えていた。
「えっ? そっち?!」
「そっち?! じゃないよ!
私、これでも女の子だよ!!
そんな顔に髭なんて!!!」
既に猫耳の事なんか忘れて、髭を抜こうと引っ張ろうとする私。
「あ、辞めといたほうがええで……」
「いや、辞めない!!
こんなドラ○もんみたいな髭要らないよ!!」
そう言いながら一本の髭を引っ張った。
「痛い!! 痛い!!
でも、負けるか! ふん!!」
私は痛みに耐えながら、何とか髭を抜くことが出来、安堵の表情を浮かべた。
そして、私の手には悪しき猫髭が1本……
いや、ここからが勝負だ!
「よし! 次!!」
そう気合いを入れ直し、私は再度鏡を覗き込んだ。
そして、そこにはさっきより1本減った、6本の猫髭が横にピョンと生えていた。
「って6本?!
なんで?! 減ってないの?!
抜いた! 私、抜いたのに?!」
「だから辞めときって言ったんや……
それ……抜いても生えてくるで……」
鏡を見ながら大きな声で叫ぶ私に、呆れた表情のタマがそう言って来た。
「何で?! タマのせい?! タマのせいなの?!」
興奮して我を忘れた私。
そう言いながらタマを掴んで前後に強く揺すっていた。
「みゃーこはん! 落ち着いて!
苦しいって! ギブギブ!!」
そんなタマの悲痛な叫びに私は冷静さを取り戻す。
「あっ……ごめん……」
「ケホケホ……いきなり何すんねん……
みゃーこはんの自業自得やっちゅーの」
タマは少し怒った表情で私の事を見ていた。
今、タマのご機嫌を損なうのは非常にマズイ。治してもらえなくなる……
そう考えた私は、タマを上目使いで見ながらタマにお願いをする。
「所でタマさん……一つ相談が……」
「治せへんで」
私のささやかなお願いは聞く前に即答で断られてしまった……
いや、まだだ! まだ終わらんよ!
「何で?! 髭だけで良いから治してよ!!」
私の心の底からでた、必死の叫び。
そう、それは、タマの心にも響いて……
いや……これまずいヤツだ……
私のセリフを聞いたタマは、涙が溢れ出した目で私の事を睨んでいた。
「みゃーこさん……
私はさっき“ちゃんと行動で示してから”と
言いましたよね。
それなのに、何故、私の気持ちを踏み躙る様な事を言うのでしょうか?
あぁ、そうですか。そうですか。
そんなに私の事がそんなにお嫌いなんですね。
なるほど。わかりました……」
そう言って、私に背を向けて立ち去ろうとするタマ。
「タマさん! 違います!
私はタマさんのことを愛しております!!」
「離してください。
そんなこの場を取り繕う安っぽい言葉は要りません」
タマの足に縋りついている私とそれを振り解こうととするタマ。
ミケならコレでいけたのに……
とは思わなかったよ?
「ま、待って下さい! 強くなります!
私は強くなって、タマさんを守ってあげたいのです!!
その時まで、この咎は付けたままで……
そう! タマさんが認めてくれるその日まで、私はこれを付けています!」
そんな私の叫びが今度は届いたのか、ミケの足が止まった。
「本当……ですか……?
今度こそ信じて……良いんですか?」
「勿論です! 私も信じてもらえる様に頑張ります!」
その言葉を聞いたタマは、笑みを浮かべ、顔も緩んでいくのがわかった。
「全く……みゃーこはんは、しゃーない子さんやなぁ」
こうして……私は
6本の猫髭と猫耳(自前)を
手に入れたのだった……
「所でみゃーこはん、猫耳はええんか?」
「もう良いよ……髭に比べたらカチューシャと大差ないし……」
次回更新は一週間以内を予定してます。
2018/02/18 誤字脱字修正




