第三話 緑の宝石と精霊術
タマが寝てしまった後、私は座った状態で一人考え事していた。
敵の事、この世界の事、精霊術の事、私には知らない事が多すぎる。
今まで、楽しい事にばかり目を向けていたから……当然といえば当然だ。
「じゃじゃ馬娘さん方は寝てしまったのかのぉ?」
そんな時、席を外していた神楽さんが戻って来て、横並びになる形で私の隣に座った。
「先程は、お気遣いありがとうございました」
再会を邪魔しない様にと、席を外してくれた事に対するお礼。
私はそう言いながら顔を神楽さんの方を向いて、頭を下げる。
「ほっほっほっ。ワシは外の空気が吸いたくなっただけじゃよ」
そう少し戯けて見せる、神楽さん。
「でも、じゃじゃ馬娘ってことは、この娘達何かやらかしましたか……?」
私がそう聞くと、神楽さんは前を向いたまま、苦笑いをしていた。
「外に出たワシに、“みゃーこ様を返せ!”と言いながら、いきなり左右から精霊術を放って来ただけじゃよ」
その話に、顳顬の辺りが痛くなって来た私。
私の命の恩人に何やってるんだ、あの娘達は……
「それは……すみませんでした」
「でも、大切にされておるみたいじゃの」
私の謝罪を打ち切る様なそんな言葉。
第三者から言われるとちょっと気恥ずかしさを覚えてしまう。
「今回はちょっと大切にされ過ぎですけどね」
なので、つい戯けた言葉が出てしまう。
「でも、2人の精霊術を相手に良く無事でしたね」
精霊術使いとしての実力は確かな2人、そんな言葉が出てくるのも当然だった。
「ほっほっほっ。あんな物、コツさえ掴めばどうって事ないもんじゃて」
伊達に長生きはしておらんよ。と付け加えながらそう言った神楽さん。
“コツさえ掴めば”
その一言は私の心に響いた。
強大な敵が現れた今、少しでも強くなる為に
大切な家族を守る為に、それは私にとって必要な事だ。
「もし、可能でしたら、そのコツを私にも教えてもらえませんか!!」
気が付けば、大きな声を出して神楽さんにお願いしていた。
声を出した時、胸の辺りから痛みを感じたが、今の私にはどうでも良かった。
「これこれ、落ち着きなさい。
じゃじゃ馬娘さん達が起きてしまうじゃろ。
それに」
ミケとタマの方を気遣いながら、そう話した神楽さんは、そこで一拍置き、
真剣な表情で私目を見て言葉を続けた。
「桜お嬢さん。お主は精霊術は使えん。
いや、正しくは言うなら、使ってはいけない」
私にはその言葉が理解できなかった。
使えないのなら、才能の問題だろう。
でも使ってはいけない?
ミケとタマは普通に使っているのに……?
「理解出来ないと言った表情じゃな。
桜お嬢さんは、この世界の者ではないじゃろ?」
「はい。そうです」
そう答えながら私は小さく頷いた後、神楽さんを見つめていた。
「体から出ている気の色が白いんじゃよ。
この世界に住む者は、産まれながらにして気に色がついておる」
「??? それと何の関係が……?」
突然出てきた気の色の話に、更に私の理解が追いついていかなかった。
「精霊術は気の色が濃くなる程、強い力を発揮できるんじゃ」
そこまで聞いて、私の中でさっきの話とつながり、理解する事ができた。
「つまり、気の色が白い私には使う事が出来ないと……
それじゃあ、使ってはいけないって言うのは……?」
私の言葉に神楽さんは一度目を瞑り、小さく呼吸をした後、私に問いかけてきた。
「お主は、緑色の石を見た事があるかの?」
緑の石……?
私は少し考えた後、蟻型の中から取り出した緑色の宝石の存在を思い出した。
何かの役に立つかもと思ってポケットの中に放り込んだんだっけ……
私はポケットの中を探し、緑の石を取り出して、神楽さんの方に見せた。
「これですか?」
「まさか、これを……精霊術を使ってはおらんか?」
慌てた表情で私の顔と石を交互に見ている神楽さん。
「いえ、これを手に入れる前に、
精霊術を使おうとしましたが
その時はうまく出来なかったので……」
私のその一言は神楽さんを安心させる事ができた様だ。
胸に手を当てて表情が緩むのがわかった。
「それを手に入れた後なら使えていたじゃろうな」
私はその呟く様な言葉を聞いて、黙ったまま、その石をジッと見つめていた 。
「…………」
これがあれば、私にも精霊術が……
そんな気持ちが伝わったのか、神楽さんは諭す様な口調で話し始めた。
「桜お嬢さん、それは使ってはならん。
その石を使う事で精霊術を強化する事ができる。
桜お嬢さんでも、精霊術を使える様になるじゃろう。
しかし、その石を使い過ぎると、己を滅ぼすんじゃ。
ワシが生まれた“ねずみの国”の様に……」
「滅ぼす……?」
滅ぼすと言う不穏な単語に、私の表情が引き締まったのがわかった。
「そうじゃ。滅ぼすんじゃ。
その石の力を知った時、ねずみの国には革新が起こった。
強化された精霊術を使って、国は豊かになり
どんどん大きくなっていった。
その時の住民は皆幸せそうじゃった」
懐かしさと悲しさの入り混じった神楽さんの表情が、そこで一気に曇った。
「ただ、それは長くは続かなんだ。
始まりはほんの些細な事じゃった。
ただの住民同士の喧嘩。
すぐに収まるだろう。皆がそう思っておった。
しかし、その皆の思いとは裏腹に……
そこから伝搬する様に……
まるで欲望に溺れるかの様に……
住民達が理性を失い始めた。
国に溢れる残虐行為……
それを止めるはずの兵士達もまた、同じじゃった。
止める人が誰もいない。
いや、皆が共犯者となって行われる残虐行為の数々。
国が滅ぶまでそう時間、はかからなかった」
そこで、神楽さんは一度小さくため息を吐き、更に言葉を続ける。
「子供だったワシは
親のお陰でその国から何とか逃れる事ができた。
じゃが、現実は非情じゃった。
滅ぶ直前に行われていた残虐行為に
他の国の者達は恐怖し、そして忌み嫌い……
鼠であるワシを受け入れてくれる所はなかった。
だから……」
そこで言葉を区切ったかと思うと、今度は私の顔を真剣な表情で見たかと思うと
「桜お嬢さんはその石を何があっても使ってはならん」
そう、ハッキリと、そして強い口調で言い切った。
「………………」
この石が有れば精霊術が使えるかも知れない。
でも、それは大切な2人を傷付けてしまうかも知れない行為。
折角、少しでも強くなれるかも知れないと期待したのに……
そう考えていると、つい手に力が入り、石を強く握り締めてしまっていた。
「だが、桜お嬢さんの白い気には、可能性が秘められておる」
私が黙ったままだったからか、神楽さんは私を諭す様な優しい口調で話し始めた。
「白は何の色にも染まっていない色。
一見、何の価値もない色に見えるが
全ての土台となる色じゃ。
あっちのじゃじゃ馬娘達は強い赤色と青色を持っておる。
その2人の色をお主の白の上にのせる事が出来れば……
真価を発揮できるはずじゃ」
ミケとタマの力を借りる事で……
私が、ミケとタマの色に染まる事で……
真価を発揮できる。
「まあ、お互いの信頼感が無ければ不可能だろうがの。
そこを心配する必要ないじゃろ?」
勿論だった。それだけは、自信がある。
真価を発揮できる出来ないは置いておいても
二人に対する信頼感だけは絶対の自信が私にはあった。
「はい!」
その返事を聞いて神楽さんは嬉しそうに微笑んだ。
「いい返事じゃ。何にしても明日じゃな。
まず、じゃじゃ馬娘が起きたら怪我を治してもらうと良い」
話に夢中になりすぎて、自分の怪我を忘れていた私。
不思議なもので、意識するとなんか痛くなってきた。
「そ、そうでしたね。イツツッ……」
そんな痛がっている私を見て苦笑いを浮かべている神楽さん。
「今はゆっくり休みなさい。それじゃ、おやすみ。」
そう言うと少し離れた所で背中をこちらに向け横になる、神楽さん。
「おやすみなさい」
私はその背中に向けて、感謝も込めた挨拶を送った。
本日二話目
次回更新は一週間以内の予定です。




