第二話 勇者だという嘘
なかなか帰ってこない神楽さん。
ただ一人で考えているとすぐマイナス側に振れてしまう……
なので私は、気を紛らわせる為、部屋の中をキョロキョロと見回して居た。
特に私の目を引いて居たのは、さっき勇者の剣が置いてあった棚に置かれた機械?の様な四角い箱。
前面には矢印の様な金属と、12個の文字が書いてある。
12個の文字に矢印だから時計なのかな?
近付いて見たい所なんだけど、体動かせないし……
先の闘いで負った傷は酷く、体を起こしただけでも痛みが走ったのだ。
無理してまで立ち上がって確認しようとは思わなかった。
そんな時、神楽さんが歩いて行った方から、足音が聞こえて来た。
ただ、他の人を連れて来たのか話し声?というより、叫び声の様な物が聞こえてくる。
「はにゃせ!!!
私はまだ負けてないーー!!!!」
なんかどっかで聞いたことある声な気が……
私は入り口の方に目を向けて、目を凝らして見ていた。
そうすると、入り口の方からは、神楽さんぽい大きな影がだんだん近付いて来て、その影が光が届く範囲に入りはっきり見える様になって来た。
神楽さんは小さな2つ何かーーひとつは足をジタバタさせ、それとは対照的にもうひとつ大人しくしているーーを肩に担いでいるのが見える。
「ちょっとは大人しくせんか!
ほれ、桜お嬢さんにお届け物じゃよ」
そう言って、投げる様に私の前に置かれた2つの物体。
その物体、いやその二人は、私が今一番会いたかった二人だ。
「ミケ!!! タマ!!!」
「みゃ、みゃ、みゃ」
「みゃ?」
ミケが猫みたいにみゃみゃ言ってる。あ、この子、元々猫だった。
「みゃーこ様!!! みゃーこ様!!!」
そう言って、私に抱きついてくるミケ。
体に力が入らない私は、座ったままミケ片手で抱きしめるようにしながら頭を優しく撫でた。
「みゃーこ様!! 心配したんですよ!!!
みゃーこ様まで居なくなったら!!
私! 私……うぅぅ……」
そう言って、私に抱きついたまま、泣き始めてしまうミケ。
「ごめんね……心配掛けてごめんね……」
そんなミケの頭を撫でながらそう囁いた。
「みゃーこはん! ウチも心配したんやで!」
ミケの隣に居たタマも私に抱きついてくる。
タマの事だから、ミケに先を譲ってくれてたのだろう。
「タマも、心配掛けてごめんね……」
空いたもう片方の手で、タマの頭を優しく撫でながら、タマにそう呟いた。
「ほっほっほっ。年寄りは退散するとしようかのう」
今まで入り口近くに立っていた神楽さんだったが、気を使ってさっき来た道を戻って行った。
私はその背中に心の中で感謝しながら見送った。
そして暫くの間、ミケの頭を撫で続けていると、落ち着いたのかミケは寝息を立て始めた。
色々合ったから精も根も尽き果てて居たのだろう。
「そう言えば 、なんでここが分かったの?」
ミケを起こさない様に声のトーンを落としながら、タマにそう質問をした。
「連れ去られた時、ずっと影で見てたんや……」
そう答えた時の伏せ目がちになりながら、恥ずかしそうにしているタマが可愛くて
「多分、出てきても大丈夫だったと思うよ」
そんな事を言いながら、くすりと笑っていた。
「ミケはんがしきりに
“食べられる! 殺される!”って言ってんや……」
それで良くここに来ようと思ったなぁ……
とか考えていたが、それはまた後でいい。今は……
次の質問をしてもいいかを確認する為、ミケの方を見た。
ぐっすり寝て居て、起きる気配はなさそうに見える。
そして私は、今一番気になっている質問をタマに投げかけた。
「それで…………ミケのご両親は?」
「探しても見つからなかったんや……」
見つからなかった事は、生死不明……って事かな……
最悪の結果ではないけど、それに近いには変わりはないか……
そんな事を考えていると、今度はタマの方から質問をしてきた。
「ところで、みゃーこはん……」
若干、言いずらそうにしているタマに違和感を覚え、私は出来る限り優しく聞いた。
「何かな?」
「連れ去られる前、何であんな所で倒れてたんや?」
そうか……タマとミケはあの男に出会ってないのか……
そう考えて、少しホッとした。
その反面、私の心が針で刺されたかの様にチクッとした気がした。
そして感じるのは、恐怖心。
私には、絶対に勝てないであろう敵……
「言いたくないんなら、別に無理して言わんでもええで」
黙って俯いてしまったからか、タマは私を気遣い、そんな事を言ってくれた。
また会うかもしれないから……
伝えないわけにはいかないよね……
そして私は語り始めた。
タマと別れた後のことを。
現れた敵の事、私との実力差
そして最後の一撃……
神楽さんにしたのとは違い
包み隠さず全てを。
そして私が話し終えた時、シーンとした空気が漂っていた。
その中には、気まずさも含まれている様に、私は感じた。
「勇者のみゃーこはんでも勝てん敵か……」
そんな中、タマがそんな事をポツリと呟く。
“勇者”
その一言に込められた思い
今の私には重すぎる……
「ごめん……」
そして、気が付けば私はタマに対して謝罪の言葉を口にしていた。
「謝らんといてや、ちょっと冗談が過ぎたわ」
そう慌てた感じでそう言うタマ。
でも、私はそれを否定する。
「ううん。嘘ついてた様な物だし……
私、勇者じゃない。だから、ごめん……」
「…………何でや?」
タマの眼光が鋭くなり、私を捉えているのが分かった。
「私、弱いし。
それに、勇気だってない。
私に……勇者の資格なんて無い」
私の心から溢れ出てしまった思い。
自分の逃げ道を作るための言葉。
でも、タマはそれを見透かしてか、鼻で笑った後
私の目を真剣な目で見つめていた。
「あんな事、冗談で言ってしまったウチもウチやけど……」
タマはそう前置きした上で話し始めた。
「強い、弱いは勇者と関係ないと思うで。
強い奴=勇者なら、その男が勇者か?
違うやろ?」
いつもにもなく、更に真剣な雰囲気になったタマ。
私の目をジッと見つめたまま、言葉を続けた。
「それに、嘘をついていたって思うのなら
最後までその嘘をつき通して欲しい。
嘘は嘘だとバレないと、嘘にならない。
そして、勇気が有るか無いかは
本人以外には分からない事。
本人以外に嘘だとは分からない
勇者だと言う嘘。
全てはみゃーこさんの気持ち次第だと
私は思う。
それに……」
タマはそこで一旦、言葉を切り
ミケの方を見て更に言葉を続ける。
「それに、ミケの為にも、勇者を続けてあげて欲しい。
例えそれが、みゃーこさんの中では嘘だったとしても……」
そこでタマの表情が緩み、いつもの雰囲気に戻ったのが、私にも分かった。
「柄にもなく、色んなこと言ってもうてゴメンな。
ウチだって、みゃーこはんの事、頼りにしてるんやから」
「ううん……こっちこそ、情けないこと言ってごめん……」
全ては私の気持ち次第……
急に勇気が出る訳でも無いけど
大切な家族ーーミケとタマの為にも
私には、“勇者だと言う嘘”をつき通す責任が、あるのかも知れない。
それが、今の私に出来るか分からないけど
逃げずに、もう少しだけ頑張ってみても罰は当たらないか……
「あーあ、久々に普通に喋って疲れたわ」
考え事をしている私を他所に、そう言いながらノビをするタマ。
でも、私はタマのそのセリフを聞き逃さなかった。
「ふーん? “久々に普通に”ってことは……
いつものその喋り方は“普通”じゃ無いのかなぁ?」
しまった。っと言う顔をして、口に手を抑えているタマ。
「な、何のことやろ……
あ、ウチ疲れたから、もう寝るわな!
みゃーこはん、おやすみやで!」
そう言うと、そそくさと離れて丸くなるタマ。
「タマって……普段が猫を被ってて
さっきのが素の姿なのでは……」
私のそんな言葉は、誰にも届かずに、部屋の奥に消えて行った。
次回投稿もいつも通り1週間以内を予定しています。




