第十一話 死闘の末
タマの村から出発して1日半が過ぎ、ミケの住んでる町までもう少しの所まで戻って来た私たち。
帰り道は行きが異常に見える程順調で、蟻型に一匹も出会わないぐらいだった。
「ふぁぁぁ〜帰りは何も無かったね〜」
大きなあくびが出るぐらい、完全に気が緩みきっている私。
「こんな事は初めてですね。普通は道中に2、3匹は合うものなんですが……」
そう言ったのはミケ。手を顎の辺りに当てて小首傾げている。
「じゃあ、行きに帰りの分もエンカウントしちゃったんだね」
行きに2、30匹は倒したもんなぁ……
「なんや、あれ!」
突然、タマが大きな声を出し、何かを指差した。
タマの指の方に注意を向ける私とミケ。そこに見えたのは、真っ黒な煙が天高く上って行く光景だった。
「あれって街の辺りじゃ……」
「とりあえず、行ってみましょう!!」
ミケの声を合図に走り始める私たち。街の門は直ぐに見えて来たのだが……
「門に……穴が……空いて……」
ミケがそう呟く。
そう、門には馬車でも通れるんじゃ無いかと言う穴が空いており、中からは無数の蟻型が蠢いているのが見えた。
「…………えっ?」
「なんや……これ……」
私とタマは呆然としてしまい、言葉を失っていた。だが、ミケだけは違った。
「父上! 母上!!」
私が気がついた時には、ミケは凄い勢いで駆け出していた。
あまりの光景に反応が遅れてしまった私。
「タマ、行くよ!」
「わかったで!」
門の穴を通った先は更に酷い光景だった。
直下型地震でも起こったのかと言うぐらいに倒壊している家々。
遠くからでも聳えて見えたミケの家も、見るも無残に崩落してしまっている。
「ミケ!!」
蟻型を上手く交わしながら、走り去るミケ。当たり前だが私の声など聞こえていない様だった。
そして私とタマの方にも蟻型が群がってくる。
小回りの効くタマは兎も角、体の大きい私は蟻型をなんとかしないことにはミケを追うことが出来ない。
それに蟻型が更に群がって来てタマが追えなくなるのも時間の問題だろう。
「タマ! 先にミケを追いかけて!!」
「…………ここは任せたで!!」
流石、察しの良いタマは一言で私の意図を理解して、ミケの事を追いかける為、走り始めた。
よし、後は!!
「私が相手になってやる! 死にたい奴から前に出て来なさい!!」
そう言いつつ、私は目の前に居た蟻型に乗る様にジャンプし、首を体重を乗せて突き刺した。
四、五十匹は居そうな蟻型の群れとの戦闘が始まった。
足を狙う時間はない! 一撃で仕留めていかないと!
左右から同時に突撃を仕掛けてくる蟻を後ろに下がって避け、一匹の首に竹刀を叩き下ろす。
前方の蟻は左右の足を大きく振り体に傷をつけられたが、怯まず懐に入り竹刀を頭に突き刺す。
そんな、傷付く事も厭わない鬼気迫る戦いを繰り広げる。
10分程戦った頃には、蟻型の数は半分ぐらいに減り、私の体も蟻に付けられた傷で数箇所から血が滴っているのがわかった。
こんな傷すら今は生温く感じる。
そう考えていた時、蟻型の動きが一斉に停止した。
「怖じけずいたの?! じゃあ、その道を開けなさい!!」
そう言うと、蟻型が一斉に動き出し中央に道ができた。
ただ、それは私の為ではない事は直ぐに分かった。
それは、強い殺気を感じたから。
例え、目を瞑っていても感じることができるだろうその殺気は……私の元にどんどん近づいて来ていた。
その殺気に体を動かすことのできない私。
そして、それーー殺気の持ち主が現れた。
ゆっくりと、そしてサバンナ歩くライオンの様に堂々と、蟻型で出来た道を歩いて来た。
そこに現れたのは人、いや、男性に昆虫が混ざった様な姿。筋肉が浮き上がる程の体格で、背丈も私よりも大きい。
その男は私の周りで物言わぬ屍と化した蟻型を見回し、目を細めて、呟いた。
「ほう……これは思わぬ収穫だな」
「貴方がやったの?!! 何が目的よ!!」
私は怒りで我に返り、気がつけば叫んでいた。
「お前に話す義務はないな」
男の素っ気ない返事。
私は怒りに我慢ができなくなり、竹刀を構え直し、男の事を睨みつけた。
「安心しろ。もう用事は済んだ。ただ、望むなら相手になってやろう」
そんな、私を見下した言葉。
私は考えるより先に、走り出していた。
猫足を使った全力の加速、そして全体重を乗せた大きな一撃。
まるで興味が無いと言った顔をしたまま、それを避ける素ぶりすらしない男。
「な、め、る、な!!!!!!」
そして男に渾身の一撃が炸裂する。
が……
「なっ!!」
私のその一撃は相手を怯ませることすら出来ず、左手一本で最も簡単に止められてしまっていた。
「さっきの光景を見て、多少は期待していたのだが……なっ!」
そう言いながら軽く振るわれた男の拳。
ただ、それは私にとっては腕でかばうことすらできない一撃。
私は何をする間も与えられず、気がつけばその拳は私の鳩尾に吸い込まれていた。
私に聞こえたのはバキバキと骨が折れる嫌な音。
「ガッ……ハァ……」
口の中には血が溢れ、吐き出してしまうほどの痛み。
そして、意識がどんどん薄く……遠くに……
「蛮勇な人の娘よ。次会うのを楽しみにしているぞ……」
私が最後に聞いたのは男の声だった。
今回で一章は完結です。
次回投稿は、いつも通り一週間以内を予定しています。
※いつもより少しお時間を頂く場合があります
2018/02/08 誤字脱字修正、ルビ追加
2018/03/02 誤字脱字修正




