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ねこの国の勇者様  作者: かなぎ
一章
18/46

第八話 お仕置きの時間


 とりあえず、お仕置きに尻尾は外せないよね。耳触るのも捨てがたいけど……いやいや……尻尾の付け根を思いっきり触ってあげた方が効果的か……


 そんな妄想をしながら、片手でミケの頭を撫でつつ、私はタマの後を歩いていた。


「みゃーこ様……ひ、人が居る所では……恥ずかしい……ですよ……」


 ずっと撫でていたからか、ミケは恥ずかしそうにもじもじしながら、瞳をうるうるさせ、こっちを見ている。


 うん。この顔はいけない。こんな顔されたら落ちない人はいない。


「ミケが可愛いからつい、ね」


「みゃーこ様……」


「ミケ……」


 そう言いながら、頰を朱色に染めて見つめ合うミケとわた……


「何、人の事を放ったらかして二人の世界に入ってんねん! ほら! 着いたで!」


 1人と1匹の甘いムードは、もう一人の嫁によって打ち破られてしまった。

 意識が現実世界に戻って来たのなら仕方ない。そう観念した私は、辺りを見回す。


「なるほど。こう来たか……」


「こう来たか……じゃ、あれへんわ! そら家近いんやからここに戻って来るやろ」


 そう、ここはタマの家の前、厳密には石段の前である。当然と言えば当然の結果だった。


 流石に親御さんの前ではお仕置きできないよねぇ……残念。

 そんなションボリしている私にミケが更なる追い討ちをかけてきた。


「みゃーこ様、逆にどこに連れて来られると思っていたんですか……?」


 若干、哀れみも含まれていそうなミケの視線。

 そんな視線で見られては、私も「何も考えてませんでした」とは言えない。


「えーっと……星の見える……丘? とかかな?」

「みゃーこ様! 素敵です!」


 適当に答えたのに、ミケさんは即答&大絶賛。いつもと同じく目までキラキラして私を見つめている。

 流石にもうちょっと、疑ってのいいんですよ?


「このへん森と山しかあれへんのに、何言ってんねん」


 どうやら、もう一人のお嫁さんの心には響かなかった様子。普通こうだよねー。


「まあええわ。さっさと中入るで」


 そう言いながら、家の中に入っていくタマ。私とミケもそれに続いて中に入った。


「お邪魔しまーす……って真っ暗……?」

「本当に暗いですね。まあ私は見えますけど」


 それぞれの反応をする私とミケ。


「すぐ明かりつけるからちょっと待っとてな」


 そう言いながら、タマは形代と火打ち石、後はロウソクを取り出して準備を始めた。

 手際良く形代の上に火打ち石を置き、その隣にロウソクを並べていく。


 精霊術も魔法みたいな物だし、テンション上がるよね!そんな事を考えながら、その光景をドキドキしながら見守る私。


 タマが目を瞑っていよいよ始まる! と思った瞬間……


(コン)精霊術 火式(ヒシキ) 発火!!」


 タマの声と合わせる様に火花が起き、そして形代が燃え上がったと思うと、その火がロウソクに燃え移った。


 一瞬の出来事すぎて、呆然としている私。


「ほら、明かりついたで」


「じゃあ、その火のついたロウソクで何本かつけましょうか。一本だけだとみゃーこ様には暗いでしょうから」


 タマとミケは平然と別のロウソクに火をつけ始めた。

 まあ、こっちに住んでたら見たことぐらいあるか……でも、流石に早すぎじゃないかな……


「あっという間だったね?」


「ロウソクに火つけるだけやし、そら一瞬やろ」

「タマさんは、この国一番の火式使いですから。普通、混精霊術なんてできませんよ」


 うん。どうやらタマが規格外なだけの様だ。

 しかし、勇者の私が霞むぐらいハイスペックな嫁たち……って言うか勇者(わたし)って必要なのだろうか?

 そんなネガティブな事を考えていた私の頭には、ふと別の疑問が浮かんで来た。

 

「さっきの混精霊術ってなに? 難しいの?」


「混精霊術は2つの精霊に同時にお願いする精霊術です。今回、タマさんは火打ち石と火の2つの精霊にお願いしていましたから」


 ミケがそう教えてくれた。何時もの様に「でも、みゃーこ様なら10個ぐらい余裕できますよね!」とか言うオマケ付きではあったが。


 そんな光景をニヤニヤしながら見ていたタマ。


「みゃーこはん凄いんやなぁ」


 そんな事をニヤついたまま言い出した。正直、何か企んでいる様にしか見えない。

 タマの企みを阻止するべく、私はいきなりその辺に座っておにぎりを取り出した。


「そんな事をより! ご飯を食べよう! ご飯を!」


「みゃーこ様。そんなにお腹が空いていたんですね」

「みゃーこはんは、食いしん坊やなぁ」


 分からずに言ってるミケと分かって言ってるタマ。

 タマに「このドS猫め!」とか言いかけたが、相手のペースに乗せられてはいけない。


「ほら! 早く食べるよ!」


 タマは面白くなさそうな顔をしていたが、二人とも何とか座らせることが出来、私の要望通り、ご飯タイムが始まった。


 このおにぎり確かに美味しい。程よい粘りと適度な硬さが絶妙なハーモニー……ミケが熱く語る気持ちも分かるなぁっと思いミケの方を見てみると恍惚とした表情でおにぎりを食べている。

 余程、このおにぎりが好きな様だ。


 そんなミケを見ていて、ちょっとイタズラ心が出てきた私。


「ねぇ、ミケ」


「何ですか? みゃーこ様」


「私と、そのおにぎり……どっちが好き?」


 ………………


 何故かミケが固まってしまった


「えっと、ミケ……?」


 ………………


「もしもーし?」


 ………………


「ミケさん?」


 ………………


「みゃーこ様です!! みゃーこ様に決まってるじゃないですか!! こんなおにぎり! こんなおにぎりなんて!!!」


 固まっていたかと思うと、突然大絶叫を始めたミケ。最後にはおにぎりを床にたたきつけようと大きく振りかぶり始めた。


「ストップ! ストップ!! わかった! ミケの愛は伝わったから! それは投げちゃダメ!!」


 私は慌ててミケに近づき、抱きしめながらそう言った。


「でも! でも!!」


「大丈夫! 大丈夫だから!!」


「ごめんなさい……こんなおにぎりとみゃーこ様を比べてしまうなんて……」


 そう言いながら、目に涙を溜めている。


「いや、私が意地悪な事を聞いちゃったから……ごめんね」


 そう耳元で囁きながら抱きしめた手に力を入れる。


「みゃーこ様……」


「本当にごめんね」


 そう言いながら今度は抱きしめたまま、ミケの頭を優しく撫でる。


「みゃーこ様……」


「ミケ……」


「いつまで続けんねん!!」


 放置され続けたタマの怒りの咆哮が辺りに木霊した。


 我に返ってパッと離れる私とミケ。


「あ……ごめん」

「ごめんなさい……」


「二人だけでイチャイチャするってどんなお仕置きやねん。家に連れて来た意味ないやん……」


 どうやらさみしかった様で、お仕置きは知らない間に成功していた様だ。

 

 こうして落ち着きを取り戻して再度ご飯を食べ始める私たち。


 そういえば、あれだけ大騒ぎしてたけど、タマの家族とか良かったんだろうか。


「そう言えば、家族はどうしたの?」


「寝てるんちゃう? 知らんけど」


 若干、まだお仕置き効果で剥れているタマ。

 まあ、「寝る子」と書いて「ねこ」と読むって言うぐらいだし寝てても不思議ではないか……


「家族といえば、タマさんって今日がお誕生日なんでしたっけ?」


「そうやで! 今日で2歳や!」


「おめでとうございます! 私まだ1歳なんでタマさんの方が年上ですね!」


 ちょっと心配だったんだけど、何だかんだ仲よさそうな二人。私はそんな光景を母親の様な気持ちで見つめていた。


 しかし現実は、2歳と1歳を嫁にして連れ回してる訳で、「おまわりさんこいつです」って言われてもおかしくないんだけども……


 そんなこんなで美味しくご飯が食べられて満足した私。満足すると別の欲も出てきてしまうわけで。


「久しぶりにお風呂入りたいなぁ……」


 そんな事をポツリと呟いてしまっていた。


「別に入りたいんなら入っても、ええで?」


「えっ?! あるの?! 入りたい! 入りたい!」


「この神社、昔からデカイ風呂が着いてたんや。使ってへんから汚れとるけど」


「今から掃除は、流石に無理だね……」


 上げた後に落とされるのは辛い。まあ、仕方ないか。そんな風に諦めかけてたが。


「ミケはんなら一瞬ちゃうの?」

「はい! 私の出番ですね!! 水洗いなら任せてください!! みゃーこ様の為なら死ぬ気で頑張りますよ!」


 暴走スイッチの入ったミケはそう言った後、何処かに向かって走って行ってしまった。

 そんなミケ見送りながらポカンとした顔をしている私とタマ。


「………………ミケ、場所知ってるの?」


「これで知ってたら、泥棒かストーカーやなぁ…………」


 ですよねー。


「………………追いかけますか」


「せやな…………」


 そう言いあった後、ため息を付きながら見合わせる1人と1匹。


 全く、すぐ暴走するんだから……でも、私の為を思ってやってくれてるから怒りにくいんだよねぇ……


 そんな事を考えながら、私とタマは暴走娘の後を追うべく、走って去った方に向けて歩き始めた。


次回更新は、1週間以内の予定です


今週は色々立て込んでて、いつもより間隔が開く可能性があります。


2018/03/01 誤字修正

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