第七話 お米の大切さ
「ここはお猫大権現って言う神社で、この国を創造した猫神様の一人、イザニャミ様を祀る場所なんやで」
今は西の空が青から赤に移りゆく時間。私とミケはタマの有難いお話を聞いていた。
とは言っても、ミケは既に知っているだろうから、主に私に対しての説明だけどね。
しかし、ここ寺じゃなく神社だったんだ。っていうか、そもそもこっちの世界にも神社があったのか……
そんな風に意識が別の方向に飛んでいる私を他所に、タマの説明は続く。
「で、この猫の石像は、イザニャミ様を模して作られたと言われてるんや」
そう言いながら、タマは猫の石像を手で指し示した。
石の猫は石の台座の上、猫には少し高く、丁度私の胸のあたりに置かれている。
あぁ、これって西郷隆盛像とか、坂本龍馬像みたいな歴史的有名人の銅像的な物だったのか。てっきり、招き猫かと……
「左手を挙げているのがイザニャミ様。右手を挙げているのがイザニャギ様と言われているんですよ」
私がイザニャミの石像を繁々と真剣な顔をして眺めていたからか、ミケがそう教えてくれた。
そして左手を挙げた招き猫と右手を挙げた招き猫を想像する私。
あれってどっちかが客を招いて、もう片方はお金を招くんだっけ?
それにしても、イザニャミ様にイザニャギ様とか、日本神話ぽい。
「ざっくりと言うとこんな感じやで。本当はもっと長い話なんやけど、そこまで興味ないやろ?」
タマさんは、よくお分かりのご様子。
「うん。もう十分だよ。ありがとう、タマ」
私はそう言いながらタマの方に笑顔を見せた。
そんな様子を見ていたミケは納得がいかないのか、タマの後ろで「私もさっき説明したのに……」とか言いながらムスッとした顔をしている。なので
「あぁ、ミケもありがとうね!」
そう言いながらミケの方も見て笑顔を作ってあげた。
「いえ! みゃーこ様の為なら私は何でもしますよ!!」
その一言で顔の周りに花を咲かせたかの様な笑顔になるミケ。
やっぱりこの子はちょろインだ。ちょっと発言が重いけど。
「所で、みゃーこはんとミケはんは何しにここに来たんや?」
そう言えば、説明してなかったっけ。
そう思った私はタマに、今までの経緯を説明した。
「かくかくしかじか」
「かくかくしかじか。で分かるわけないやろ」
うん。知ってた。言ってみたかっただけだし。
という事で、ちゃんと説明し直した私。
「なんや。みゃーこはん、勇者やったんか。ただのゴリラかと思ったわ」
「ゴリラじゃありません!! 私のみゃーこ様は人間ですよ! 人間!」
私が反応する前に、ミケが怒りの声を上げる。
しかし、なんだこの意味の分からないゴリラ推しは……逆にこっちに世界のゴリラに興味が湧いて来たよ。
「まあまあ、今は思ってないからええやん。取りあえず、その純白の玉を取りに行こか。あっちでええんやろ」
相変わらずノリの軽いタマはそう言うと一人で勝手に歩き始める。
私も特に異論はなかったので付いて行こうとしたが、ミケは納得が言ってないご様子で……
「番いになったのが間違いだったのでしょうか……」とブツブツ言いながら下を向いていた。
ミケは基本的に真面目だからなぁ。ミケの気持ちも分からなくはない。
そう思って、ミケの頭を手でぽんぽんと優しく叩いてあげる。
そうすると、ミケは一瞬ビクッとなったが、私の気持ちに気が付いてくれたのか、嬉しそうな顔で私の顔を見ていた。
うん。ご機嫌が治ったようで何よりです。
そうこうしながらの中心部まで移動した私達一行。しかし、やっぱり規模が小さい集落だからあっと言う間に着いてしまう。
まあ、口に出しては言わないけど。面倒くさく事になるし。
「ここやで。猫神殿!」
そう言われて到着したのは、時代劇に出てきそうな木製のただの一軒家。
いや、猫神殿と書かれた暖簾が掛かってるからお店ぽい。
「ここってなんかの店じゃない……?」
店で売ってる様な物をこんな辺鄙な集落まで? と住んでる人が聞いたら追い出されそうな、かなり失礼な事を考えていた私。
「せやで。この村唯一の食堂や」
「へっ? 食堂? 食堂でなんで純白の玉?」
「まあ、見てたらわかるって。じゃあ早速……「私が貰ってきます!!」
タマの話を遮って、ミケはそういうや否や、勢いよく店の戸を開けて中に入って行った。
その勢いに唖然としたまま取り残される私とタマ。顔をお互いに見あって二人で苦笑い。
「…………で、みゃーこはんはどうすんの?」
「いや、私は外で待ってるよ」
例に漏れずこの家も小さい。入ろうと思ったら屈むとかしないと入れなさそう。
「じゃあ、ウチは様子見てくるわ」
そう言って、タマも店の中に入ってしまい一人取り残された。
なんとなく上を見上げると、先程まで青色と赤色に染まっていた空は、所々に星が瞬いており、赤と黒のコントラストに包まれ始めていた。
明るい照明とか、排気ガスとかもないからか、こっちは星がよく見える気がする。
夜空と言うには少し早い空。
これで知ってる星座があったら驚くんだけどね。でも、そもそもどっちが北なんだろ?
日の沈む方向から考えるとあっちが北っぽいけど、日が沈む方向が西とは限らないし……
そんな事を考えながら、少しの間、空と星を見ていると店の扉が勢い良く開いた。
「みゃーこ様! お待たせしました!」
そう言って出てきたのは元気いっぱいのミケと、それを見て苦笑いしてるタマ。
「あ、お帰り。ちゃんと貰えた?」
「勿論ですよ! 今から食べる分も含めて4つも作ってもらいました!」
ん? 食べる? 4つ?
当初の目的忘れてる?
と混乱している私を他所にミケは話を続けた。
「はい! みゃーこ様の分ですよ!」
そう言って私に渡されたのは柔らかくて、丸くて、大きな物だった。
「えっと……これ……何?」
混乱していた私はそう聞き返すにが精一杯。
「へっ? 純白の玉ですが……」
うーん……なんか話が噛み合ってない。どうした物か……そう考えていた時、見るに見兼ねたタマが助け舟を出してくれた。
「それは、ここの名物料理の丸いおにぎり。通称、純白の玉やで」
いや、意味がわからない。言葉は理解できるけど、意味がわからない。
「ただのおにぎり……じゃん? ミケの家でも作れる……じゃん?」
側から見るとかなり間抜けな返答をしたと自分でも思う。でも、そのセリフはミケの逆鱗に触れた。
「なんて事を言うんですか! このおにぎりは、ここの名物料理! 一般のご家庭で作れるわけがないじゃないですか! 再現レシピとかで作っても所詮は偽物ですよ! 偽物!」
「わかった! 言いたい事は分かったから! ミケさんその辺にしといて! それ以上言うと、色んな方面から怒られる!」
よく分からない発言をしつつ、宥めようとしたが、ミケさんは止まらなかった。
「それに! ここのお米はコシヒカリですよ! コシヒカリ! 私の家のとは味が違うわけですよ!」
ミケが自分の家のコメの品種を言うんじゃないかとヒヤヒヤしながら、私はタマに助け舟をを出そうとしたが……
「きょうも星が綺麗やなぁ」
と独り言を言いながらタマは明後日の方向を向いていた。
そしてタマに見捨てられた私は、5分程ミケのお米談義を聞かされる事に。
言ってることはよく分からないけど、ミケに白米に対する愛情は伝わったよ……
それで、今朝とか家から米を持って来てまで炊いてたのか……うんうん。
ミケの話をまともに聞かずに、勝手に納得してうんうん頷いてしまった私。やっちゃった! と思った時には遅かった……
「みゃーこ様!!!!!」
「あっ、ハイ!」
ミケの後ろでは、タマが半笑いでニヤニヤしている。後でお仕置きしてやる!
と思ったが、今はそれどころではない……
ミケは真剣な顔をしてこっちに詰め寄って来ていた……
「えっと……何でしょうか……」
私の目の前まで来たミケは突然……全開の笑顔になった。
「やっと、お米の大切さを理解してくれたんですね!!」
「えっ…………っと、そうだよ! 私のお嫁さんであるミケのおかげだよ! ああ、ミケの話を聞いていたら、この素晴らしいおにぎりを早く食べたくなって来ちゃった!! 早く、移動して食べよう!!」
私は一瞬あっけに取られたが、チャンスとばかりにまくし立てた。
うんうんと頷いたタイミングが絶妙だったようだ。ちゃんと聞いてなかったけど。
「あ、そうですね! 早く食べましょうか!」
ミケによる試合終了の合図が出た。何とか判定負けに持ち込めたようだ。
そんなやりとりを見ていたタマはミケの後ろでチッと言う顔をしている。あの猫、本当に私の嫁なのか……?
「じゃあ、食べれそうな所に案内するわ。こっちやで」
そう何事も無かったかのように、しれっと先導を始めるタマ。
そんなタマを見ながら、私は凄く悪い顔をしていたと思う。何たって後でお仕置きしないとだからね!
「みゃーこ様、どうかしましたか?」
「いや? 何でもないよ?」
こうして、私とミケはタマの後に続いて歩みを進めた。
次回投稿は、一週間以内の予定です。
2018/03/04 脱字修正




