第五話 信じて良い人
草むらを入ってすぐの所にミケは居た。
今にも振り下ろさんと大きく振りかぶられた蟻型の両前脚。その先はミケが……
「ミケッ!!!」
気がついたら私は、そう叫びながら飛び出していた。
振り下ろされ、ミケとの距離をどんどん縮めている蟻型の足。
私は、ミケと蟻型との間に割り込む形で飛び込んで、前方回転受け身の様にミケを抱き抱えて転がった。
ザクッ!!!
私を襲う激痛。蟻型の攻撃が、転がった事でちょうど蟻型の前に来ていた私の足に命中したようだった。
「くっ!!」
そう言いながら私は倒れ込んだまま、竹刀を横に降る。
力の入っていない攻撃、ただ怯ませる事はできた。
「ミケ、大丈夫?」
「みゃーこ様……!」
そう言いながら、抱きついてくるミケ。
よかった。本当に……良かった……
ミケを地面に下ろし、立ちふさがるように竹刀を構えた。左足からは気を失いそうになる激痛。でも、今はそんな事どうでもいい。
「ミケ、逃げなさい」
足をやられた私には、走って逃げる事は出来ない。ミケの足なら逃げ切れる。それにミケが逃げる間、蟻型を引きつける事ぐらいは今の私には出来る。
「でも……」
「いいから!! 早く行きなさい!!!」
その大声にミケは覚悟を決めてくれた様だ。奥歯を噛み締めながら、何も言わずに、元来た道へ戻って行った。
そして私は蟻をジッと、睨みつける様な目で見つめ……
「さあ、死ぬ気で来なさい!!」
蟻型は2本の足で立ち上がり、私に向かって四方から攻撃を繰り出してくる。
いつもなら簡単に避けれるスキの多い攻撃。でも右足が上手く動かない今の私には、それは十分な攻撃だった。
右側から来た2本の足を竹刀で弾き、後ろに後ずさる……
ガスッ!
「あがっ……」
左の脇腹から痛みが走る。
そんな、痛みを堪えていた私に、追い討ちをかける蟻型。
「くっそ!!」
カンッッ!カンッッ!
迫って来た足を、竹刀を左右に振って弾き返す。
剣道において足捌きは基本中の基本。
その基本が出来ない私に勝てる様な勝負では無い。
やっぱりこの足じゃ分が悪い。
このままじゃ……防戦じゃ持たない……攻めないと……
そう思い、右足を踏み込んだ。
が、足に激痛が走り、力が入らない。
カンッッ!!
そんな非情な音を立てて、いとも簡単に弾かれた私の攻撃
マズイ!
その瞬間、見えていたのは蟻型が背を縮め頭をこちらに突き出そうとしていた姿
竹刀でガードを……!!
慌てて、竹刀を下げようとしたが間に合わない。
ドガッッッ!!!
「ぐっっ!」
蟻型の強烈な頭突き、私は後ろ弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
立たなきゃ……!
起き上がろうとするが、地面に叩きつけられた痛みに、起き上がる事は出来なかった。
そして蟻型がこちらに向かって歩いて来ていた。
まるで弓で仕留めた鳥を拾いにくる猟師の様な……笑顔の溢れる顔をして。
ロボットなのだから、そんな筈は無い。
でも、私には、恐ろしい笑顔をしている様に見えた。
だんだん靄ができた様に目が霞んでいき、辺りがやけに静かになっていった。
蟻型の「ザッザッ」という足音がやけに明確に聞こえる。
まるでその音は、死刑台を登る私の足音……
目の前が、真っ白になった……
あぁ、私、死ぬんだ……
そう覚悟を決めた、その時だった。
「限精霊術 水式 波濤!!!!」
突然、辺りに響く大きな声……
それと同時に私の目の前を大き水の塊が通り過ぎて行った。
そして辺りが落ち着きを取り戻した時、目の前には、何も居なくなっていた。
「みゃーこ様!!!」
突然の声に我を取り戻した時には、既にミケが私に抱きついていた。
「ごめんなさい……蟻型との距離ができるまで撃てなくって……本当に遅くなってごめんなさい……そして助けてくれて、ありがとうございました……」
抱きついたままで、泣きながら、私にそう言ってくるミケ。
ミケに抱きつかれて、死ななかった、いや、生きていると実感する瞬間だった。
あぁ、いつもの……私の大事な可愛いミケだ。
「こちらこそ、助けてくれてありがとう」
そう、いつもの様に頭を撫でた。
その返事かの様に、ギュッと抱きしめ返してくるミケ。
「うっ……」
「えっ……あっ!! 血がすごく出てるじゃ無いですか!! すぐに治しますっ!」
そう言われて足を見てみると、私の足の下には血で水溜りができていた。
「ありがとう……じゃあ、任せたよ。よろしく」
急に安心して力の抜けた私は、仰向けに寝転がった。青い空が見える。
信用して良い人がいる。
安心できる人がいる。
やっぱりこっちの世界はすごく居心地がいい。
そんな事を考えていると、辺りが霧で覆われて、周囲には蛍の様な光が浮かんで来た。
下から見上げて見ても綺麗……
こっちの世界にも蛍っているのかな?
居るんなら、ミケと一緒に見に行けたらいいな
「極精霊術 水式 天照の水癒」
そんな綺麗な光景の終了の合図が聞こえた。
でも、それは、ミケの声だから……
私にはとても耳障りの良い合図……
あたりの景色が白くなっていき、私の周りに集まってくる蛍。
何度見ても、とても幻想的な……美しい風景。
ミケの力に包まれ、体の痛みがひいていき、疲労感さえも消え去っていった。
「みゃーこ様! どうですか?!」
「うん、もう平気だよ。ありがとね」
上半身を起こした私は、そう言いながら、今度はミケの事を抱きしめた。
「そういえば、謝らないと。さっきはごめんね?」
「??? あっ!! 思い出しました!! 本当に漏れるかと思ったんですからね!!」
そう言って私からパッと離れたかと思うと、ぷんぷん怒り出すミケ。
そんな光景が、可笑しくて……
「ふふっ」
そして幸せすぎて……
「なんで笑ってるんですか!! 私は怒ってるんですよ!!」
「ごめんね。ミケがあまりにも可愛いから、つい……」
「なっ?! い、いきなり何を言うんですか!! 褒めても、何も出ませんよ!!」
ミケがいて本当に良かった。
そう思いながら、私は、青く透き通った空を見ていた。
「どこを見てるんですか!! 聴いてますか?! 無視しないでください!!」
週末と言ったな、あれは嘘だ。
言いたかっただけです。ごめんなさい。
次は土日のどっちかに更新予定です。
2018/02/03 誤字修正
2018/02/28 誤字修正




