第三話 遺跡と嫁と
私は今、2匹の蟻型と対峙していた。
いや、正確に言えば3匹。ただ、1匹は既に片側の足を全て失っており、置物も同然だった。
「さっきから、本当に鬱陶しいなぁもう!」
そう言いながら1匹に向かって走り出した。
近づいてくる私に、前脚を大きく振り上げる蟻型。
直前で小さく左に飛び、回避。そのまま駆け抜けざまに蟻型の足を2本へし折る。
さらに後ろからの気配に、振り向く事もなく、地面を大きく蹴ってバク転。もう1匹の蟻型の背後を取る。
「はい! 残念でした!」
そう叫んで足の付け根に竹刀を振り下ろし、足を纏めて叩き壊す。2本は折れたが、一本曲がっただけの様だ。
「一本仕留め損なった……まあいいか。」
これで、3匹ともまともに動けないしね。
そして間合を離しながら、ミケの隠れている方をチラッと見る。余裕なのがわかってるのか、私の視線に気がついて、手まで振ってる……
はぁ……っとため息を吐いた後、再度駆け出した。
今度は蟻型とは反対方向、ミケの方に向かって……
ミケは、いきなり近くに来た私を見てキョトンとしていたが、そのままミケを抱えあげてる獣道を走り抜ける。
「さあ! 逃げるよ!」
「倒さないんですか?」
「時間の無駄!!」
あの状態の蟻型を倒した所で、ゲームと違って経験を積めるわけでもないし!
獣道をどんどん走っていく。猫足のお陰でいつもより早い速度、移りゆく景色が結構楽しかったりする。
こっちの森も日本とあんまり変わらないんだね。木とか見たことある気もするし。
そして、やや上を見上げると木々の間から赤く染まりだした空が見えた。既に時刻は夕方に差し掛かっている様だ。
ここに来るまでに何度もあった蟻型との戦闘。初めは丁寧に足6本→首と狙っていたが、途中から面倒くさくなって、かなりお座なりになっていた。
さっきのは15匹目だっけ? まあ、どうでも良いけど。
そんな事を考えたり、景色を楽しんだりしながら、五分ぐらい走っただろうか。前方に見えたのは小さな川。
私は走るのを止め、ミケを下に下ろそうとしたら、ミケは……
涎を垂らして寝ていた。
「こら!! 起きなさい!!」
「ふぁっい! ごちそうさまでした!!」
しかも、ベタな夢まで見ていた。
そんな寝坊助ミケさんは辺りをキョロキョロしていたが、すぐにハッとなって、申し訳なさそうに謝って来た。
「ごめんなさい……寝てました……」
「知ってる。でも、良くあんな時に寝れるね?」
一応、逃げてる最中だったんだけど……
「みゃーこ様に抱きしめられてたら、気持ちよくて……つい……」
ミケは恥ずかしそうにしながらそう言っていた。
「まあ、いいか……お仕置きは後にして、先に寝床を探そうか。もう夕方だし」
「えっ……あ! そういえば、ここから川を少し上流に行った所に遺跡があるので、そこで休みましょうか?」
「遺跡? まあ、安全ならそこで良いよ」
話逸らしても覚えてるから意味ないよ? とは言わないで置いてあげた。私は優しいからね!
「みゃーこ様、どうかしました?」
おっと、顔に出ちゃってたみたい。気をつけないと。
「いや、なんでも、ないよ!」
若干カタコトになった私にミケは不思議そうな顔をしていたが、バレてないっぽい。
「? じゃあ、みゃーこ様こっちですよ」
今度はミケの案内の元歩き始めた。
10分程歩いた所に遺跡はあった。
いや、ミケがそう言っているだけで、私には岩と岩との隙間にしか見えない。
「入り口狭くない?」
これ、私でも這いつくばって入れるかどうかって所なんだけど…
大人の男の人とか絶対に通れないじゃん……
「そうですか? 余裕で通れますよ?」
そりゃ、あなたは余裕で通れるでしょうけど!
そう文句を言おうと思ったら、ミケは四足歩行でピャッと入って行った。
中から「みゃーこ様も早く来てください」とか言ってるし……
仕方ない……入るしかないか……
そう心の中でため息を付きながら、匍匐前進の様にして隙間の中へ。ギリギリ通れそうな感じ。
「生まれて初めて、胸が控えめで良かったと思ったよ」
「みゃーこ様? 何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
虚しくなるから何度も言いません。
そんなやり取りをしながら2mぐらい進むと、広い所に出た気がする。しかし真っ暗でよく見えない。
「ミケ、よく見えないから明かりつけてくれるかな?」
「あ、ごめんなさい! すぐにつけますね!」
そう言うと、ミケはごそごそしながら、何かを用意していた。
「序精霊術 火花」
そう唱えて火種を作っている様だ。
明かり点けてから呼んでほしかったんですが……まあ、猫は暗闇でも見えるって言うから仕方ないけど……
数分後、漸くロウソクに火がついて周りが見える様になった。正直言って体が痛い。
「お待たせしました!」
まず、上を確認し、高い天井だったので立ち上がる。
「うーん! 辛かった!」
体を伸ばすと、体がバキバキ言ってるのがわかる。
「お疲れ様でした!」
そう言ってくれたので、ミケの頭を撫でてあげた。ミケさんはご機嫌な様子。
そして周囲を見渡すと、結構大きい四角い空間。
天井は2mぐらいで幅5mぐらい? 奥行きはもっとありそう。
ミケは入り口横にあった石を押して、入り口を閉めようとしていた。ミケが押すにはちょっと大きい。
「手伝うよ。それにしても結構広いね。何の遺跡なの?」
「調査はしたらしいのですが、古い事以外よくわからなかったらしいです。ただ、こんな所が何箇所か見つかってはいますが……」
入り口を締め終わった私は「ふーん」っと言いながらまた辺りを見渡す。
古い事ぐらいなら私でもわかるなぁ、壁とか色んなところで崩れてるし。
少しの間、辺りを見渡していたが……
私に分かるわけないし、まあいいか!
そんな事より!
私にはやる事があったのだ!
そう思いミケの方を向き直る。ニヤニヤしながら。
「えっと……みゃーこ様……? なんで……しょうか……?」
そう言いながら、後ずさるミケ。
「ん〜? なんもないよ〜? ただ…………ね!」
そう言って猫足の瞬発力を生かしてミケに一気に近づき、ギュッっと前から抱きしめる。
「あわわっ、みゃーこ様!
いきなり……何を……?!?!」
その言葉に私は
ゆっくり、そして、はっきりと、こう答えた。
「さっき、寝てた、お仕置き!!」
そして、抱きしめたまま尻尾を優しくムニムニする!
「なっ! や、やめてください! くすぐったい! みゃーこ様! くすぐったいです!!」
なんか聞こえた気がしたが、聞こえない。
「聞こえない!
これはお仕置きなので何も聞こえない!」
そう言いながら、10分程堪能させていただきました。
嫌がられると思ったから自重してたけど、ずっと触りたかったんだよね。
堪能し終わった私はホクホクの笑顔。対するミケさんは……
「うぇーん!! もうお嫁に行けません!!」
泣かせてしまった。うん。お仕置きだったけど、ついやりすぎたかな? 仕方ないなぁ……
「私とは番いなんだし、もう私のお嫁さんでしょ?」
その言葉にピタッと泣き止むミケ。
「えっ……あ、そうですね……えへへ♪ 私もう、みゃーこ様のお嫁さんでした♪」
そう言って、モジモジしながら私にもたれ掛かってくるミケ。
ミケさんがちょろイン属性までゲットしました。いや、それは元々かな?
「それにしても、お腹すいたねぇ」
「はい! お嫁さんの私に! みゃーこ様のお嫁さんの私に任せてください!! すぐに準備しますね!!」
なんか、いつも以上にやる気満々なマイワイフ。若干、申し訳ない気もするけど、本人は嬉しそうだしいいか……
そんな楽しそうにご飯の用意をしているミケを眺めていたら、突然、形代を取り出して精霊術の準備を始めた……?!
「ちょっと待って! こんな所で何使うの?!」
「えっ? 飲む為の水を出そうかと……」
飲み水に使われる四大精霊さん……
「川の水じゃダメなの? 私汲んでく「ダメです!! みゃーこ様には、お嫁さんの私が出した水を飲んで欲しいんです!!」
即答だし、若干危ない発言だし……
「あ、ハイ。そうですか。」
私はそうとしかいえなかった。
そして、今日のご飯は、笹の葉に包まれたおにぎりとお漬物。あと、ミケの出してくれた水。
おにぎりとお漬物は家から持ってきたそうで、私のお嫁さんは中々優秀でした。
おにぎりを食べ終わって、自由行動の時間。とは言っても、この部屋には何もない。
なので私は竹刀の手入れをしていた。ミケは私の膝の上で丸くなっている。
「うーん……流石に竹刀の負担が大きいか……」
竹刀のつるの部分を見ていると亀裂などはなかったが、ササクレがいくつも出来ていた。
あれだけ金属を叩いたんだから、当たり前だよねぇ……この竹刀がいつまで持つか分からないし、戦闘は出来る限り避けないと……
木刀とかあれば良いんだけど、そんなことを考えていると、ある疑問がふと頭に浮かんできた。
「そう言えば、何で途中からあんなに敵が出てきたんだろうね?」
「わかりません。けど、大きい音には敏感と聞いたことはありますが……」
「ふーん…………
そういえば、誰かが爆音轟かせてたねぇ……」
私のその発言に、ミケは一瞬ビクッとしたかと思うと、私の膝から逃げる様に降りた。
「わ、私、も、もう、寝ますね! おやすみなさい!」
そう言って、そそくさとロウソクを挟んで私と反対側に行くと、丸くなって寝始めた。
あ……逃げられた。お仕置きはさっきしたからもうしないのに……でもまあ、とんだトラブルメーカーなお姫様だこと。
そんな事を考えながら、寝ているミケをみて微笑んだ。
さて、さっさと手入れを終わらせて、明日に備えよう。
こうしてこっちの世界に来て3日目の夜が暮れて行く……
次回更新も一週間以内の予定です。
2018/02/28 一部修正
2018/03/01 誤字脱字修正
2018/03/14 消し忘れ修正




