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トライ・ステップ! -this story is game fantasy-  作者: 豚煮真珠
QUEST12. 歩む果ては何処へ
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no answer no choice

 美しき歌声でヒトを惑わし、その巨躯を駆ってヒトを海へと沈めてきた万鈞たる大海牛が、

「うあっ!」

 口から噴出した泥をジュリアに浴びせ、

「あうっ!」

 後ろより切り込むワラビを、櫂の如き尾鰭で払い()けた。

 叩かれたワラビが砂泥に滑り込む。


「わ、ワラビ! 大丈夫か!?」

「な、なんとか。痛いけど……きゃあっ!」

「ううっ!」


 身を強張らせるワラビとジュリア。あなたたちの意思疎通を阻まんと、海牛がまたしても咆えたのだ。

 野獣の大音声が鼓膜を(つんざ)く。先の誘った歌など忘れるくらいに。この声に耐えてあなたが斬りかかるが、これを海牛が牙で受け止めた。

 そして、海牛が顎をしゃくり、この押し返す力にあなたまでもが倒される。


 サイレン。神話のセイレーンに(なぞら)えたモンスターであることは前述したが、警報の意も併せ持っている。

 胴長の体型に胸鰭と尾鰭、短い毛に覆われた外見から、温暖な海に()む人懐っこい生物・ジュゴンの一種では、と言われている。だが上顎に立派な牙を備えることから、氷の海に棲む厚い脂肪に覆われた肉食の海獣・セイウチの一種では、とも言われている。

 いずれにしろこの生物はヒトを捕食する。海の()(くず)へと化したヒトは数知れず、船乗りなど海に従事する者に最も恐れられている。

 またこの生物は、賢い事でも知られ、ヒトを陥れる(すべ)()けている。先の歌などは最も良い例である。


「くっ! ダメだアンタ! 詰まって撃てなくなっちまった!」


 立ち上がったあなたにジュリアが、引けない引金を引きながら窮状を訴えた。

 泥を被ったことで弩が壊れてしまった。敵のしたたかさにあなたが渋面を浮かべる。

 そもそも海牛はあなたたちを挑発している。口を開いて見せた人頭、あれは誘ったのだ。いま更にジュリアの矢を封じ、海牛の術中に(はま)った事と、それを退ける力がなかった事をあなたが悔やむ。

 もう弩は使えない。この現況を苦慮したあなたが、不承ながらも決断する。


「ワラビ! 早く!」


 泥まみれのジュリアが、同じく泥まみれの親友を呼んだ。

 悔しいが引き際だ。そう決断したあなたが、海牛を挟んで対面にいるワラビに退却の合図を送った。

 ジュリアの矢は通じぬとは言え、皮膚を赤く染めている。僅かではあるがダメージを与えていると見ていいだろう。また、海牛の気を()らすには充分役に立っており、これがこれから見込めぬとなると、強大なる海牛に正面から立ち向かわなければならない。

 (りょう)としたワラビが、海牛を大きく()(かい)してあなたの元へ走る。

 バシャバシャと音を立ててワラビが泥を蹴る。しかし、

「あうっ!」

 ぬかるみに足を滑らせ、尻もちをついて転ぶ。


「や、いやっ」

「ワラビ!」


 思わぬ親友の窮地にジュリアが目を大きく開いて叫んだ。

 立ち上がれずにいるワラビ。泥がまるで底なし沼のように右脚を食っている。

 早く逃げなければ。ワラビが脚を抜こうとするが、その焦りもあって引き抜けずにいる。そしてこれを見逃す海牛ではなく、尾鰭をくねらせて胸鰭を掻き、ワラビにじっくりとにじり寄る。

 今のワラビはクモの巣に捕らわれた獲物も同然。ひたひたと近付く海牛を前にワラビが、

「キミ! ジュリア! 助けて!」

 あなたと親友に助けを求める。


「待ってろワラビ!」


 飛び出したジュリアにあなたが、ワラビを助けるよう言い渡した。

 そしてあなたが剣と盾を構える。ジュリアが助けるまでの間、あなたが海牛を食い止めるしかない。

 絶対に止めなければ、などとあなたが海牛を追い抜かし、クマを超える消炭色の巨躯に果敢と立ち向かう。


 海牛が仰け反るように上体を起こし、あなたに胸鰭を打ち付けた。

 これは耐えた。が、続いて海牛が首を上げ、あなたの構える盾に白い牙を突き立てる。

 あなたの盾は薄いながらも鉄板を貼った代物だ。しかし牙はそれを軽く突き破り、胸元まであと僅かと迫った牙に、あなたが肝を冷やす。

 けれど驚いている暇はない。手を出すべくあなたが、盾を放して剣を両手で握る。


 そして渾身の力を込め、海牛の頭へ剣を振り下ろした。

 倒れろ、などとあなたが願う。が、海牛は首を逸らして直撃を避けた。

 あなたの剣は海牛の胴に食い込み、ジュリアの矢と同様、皮は赤く染まるが肉には届かない。この堅さにあなたが剣を引き、とても正面から勝てる相手ではない、などと臆してしまう。

 後ろの二人は。あなたが後ろを見やると、ジュリアはまだワラビを引き抜けずにいて、この隙を海牛が突く。

 海牛が身を翻したのだが、これをあなたは臆して後ろを見やった為に見逃した。前に視線を戻せば、背を向けた海牛があなたに櫂の如き尾鰭を殴り付けた。


「アンタっ!」

「キミ!」


 砂泥を転がるあなた。この海の方へ吹き飛ばされたあなたを海牛が追う。

 寄せる波があなたに被る。そして近付いた海牛が、あなたを更に海へと転がすべく押した。

 海牛はあなたを海に引き摺り込む気だ。二人に助けを求めようとするが、被る波があなたの発声を阻む。

 塩辛い水をあなたが飲まされる。しかし、海牛が突如として止まった。


 すかさずあなたが立ち上がると、海牛が(うずくま)っていた。

 低い(うな)り声を上げる海牛。明らかに不調であり、これにあなたがワラビを引き抜くジュリアを見た。

 今になって効いたのだ、ジュリアが海牛の気を引く際、(ひそ)かに混ぜていた聖母錯乱(シギュン)の矢が。あまり期待していなかったため、運が良かった、などとあなたが冷や汗を掻く。

 仲間に敬意を覚えながらあなたが、落とした剣を拾って海牛の頭を叩き斬る。


「キミ!」

「アンタ!」


 ワラビとジュリアが駆け寄る。まさに薄氷を踏む思いであなたたちは海牛に勝利した。


「危なかった。キミ、ジュリア、ありがとう」

「間一髪だったな。よく勝ったよ、ホント……」


 三人そろって泥まみれのあなたたちが息を吐いた。


――キュゥゥ……


「なにこの鳴き声?」

「……あっ! おいアンタ、ワラビ!」


 あなたたちの前に、果てた海牛の()(おぼ)しき幼獣が現れた。

 幼獣がよちよちと親に寄り、しきりに鳴き声を上げている。まるで起きない親を「起きて」とせっつくように。


「うわあ、かわいい……。ねえキミ、どうしよう?」


 二人が始末をためらった。

 しかし、この幼獣とて成長すればヒトを喰らう。今以上の手を付けられない存在に成り得る。

 危険な芽は早く摘み取った方がいいだろう。それにこれは報酬でもある。あなたたちは危険を冒して強大なモンスターに挑み、そして倒したのだ。

 このような言い方は(はばか)れるが、幼獣も殺して金にするべきだろう。同情など損である。


「……ほら、あっち行って」


 ワラビが刀を振って幼獣を追い払った。

 始末できなかった。あなたは幼獣を見逃すことにした。

 矛盾は分かっている。あなたたちは親を殺している。それにあの幼獣、親を失って生き延びれるだろうか。

 はっきり言えば偽善。子供だからと見逃すなんて虫の良い話だ。それに得られる物は得なければ、後で必ず後悔するのが世の常である。

 逃しておきながら悩むあなた。戦士の(おきて)に従えば始末するべきだ。


「……ねえ、キミは間違ってないと思うよ」

「そうだよアンタ。子供くらい逃したって気にすることないって」

「キミのそういう優しいところ、私好きだから」

「あたしも。ふふ」


 責めるあなたを、二人が慰めた。


たまにこういう選択肢をプレイヤーに選ばせるゲームってありますよね。

私的にはこんな選択に正解などない、と思っているのですが、見逃す方が正解みたいなゲームには製作者のエゴを感じてしまいます。

初めは罪悪感を覚えつつも幼獣を始末する話で考えていました。それ故の題名です。


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