ユレルココロ
「ジュリア、私と一緒にマグネスが秘した財宝を見つけましょう」
「ジュリア、私の友達なんだから、墓荒らしなんてバカなことしないよね?」
シスイとワラビに挟まれ、ジュリアが悩んでいた。
「ジュリア、貴方、私に助けられた事を忘れてないよね?」
「は、はい、もちろん」
「ちょっと! なに恩着せがましいこと言ってんの! ジュリア、このドロボーの言うことに耳を傾けちゃダメ! このドロボーはジュリアを悪の道に引き摺り込もうとしてる、言うこと聞いちゃったら、悪の道から引き返せなくなるよ!」
「はは……」
詰め寄る姉妹に、ジュリアは苦笑するしかなかった。
シスイはジュリアをとても気に入り、当てにもしている。頼られると弱いのがジュリアである。
親友と、その姉であって窮地を助けられた恩人。どちらに付くべきかジュリアが迷う。そして、
「アンタ―、助けてくれー」
結局は決められずにあなたの元へ逃げる。
「あっ」
「逃げた」
すかさず姉妹が、実に息の合った様子であなたの元へ駆け寄る。
ジュリアがあなたの後ろに隠れ、姉妹の矛先があなたに向く。
「キミ、軍師マグネスの墓にはまだまだ隠された蔵物が眠っていると聞く。発掘できれば富も名声も思いのまま、さあ、私と共に探しましょう」
「キミ。キミのことだから大丈夫だと思うけど、お姉ちゃんの言う事みんなデタラメだからね」
「デタラメじゃない。理由は知らないけど、マグネスの墓は発掘が進んでいない。この考古学者の間で囁かれている真実を、貴方如きがデタラメなどと言えるの?」
「何が考古学者よ、お姉ちゃん只のドロボーじゃない。私、お姉ちゃんがお菓子を買ってあげる、なんていって樹海に引き摺り込んだこと忘れてないんだから」
「ふっ、過ぎたことをうじうじと。遠出してる時点で気付くべきでしょう」
「うっさい! このヘンジン、ドロボー!」
やいのやいの、と言い合う姉妹に、あなたも苦笑せざるを得なかった。
それから、くすんだ色の草を僅かに生やす、乾いたオレンジ色の大地を、あなたたちが半刻ほど歩いた所で、
「……うん? なんだあの穴?」
ジュリアが見つけた。すり鉢状の大きな穴を、あなたたちは認めた。
「アリジゴクの穴みたいだね」
「にしては大き過ぎないか……?」
ぽっかりと空いた穴を前に、ワラビとジュリアが疑問をつぶやいた。
穴は一見アリジゴクの罠のよう。しかし、それにしてはあまりにも大きい。
人ひとりがすっぽりと収まるくらいだ。いずれにしろ近付かないのが得策と、あなたたちが大きく迂回して穴を避けるのだが――。
「……違う。思い出した。この穴、アリジゴクじゃない」
不意に告げたシスイに、ジュリアが「えっ?」と訊き返すと、
「気を付けて。モンスター」
「えっ、なに、モンスター? ……わあっ!」
突如として穴から現れた生物に、あなたたちが驚いた。
あなたたちが身構える。穴から這い上がるその生物は、ヒトに匹敵する大きさを持ち、その短い両腕の先には、鉄すらも切り裂きそうな爪を携えている。
突き出た先の赤い鼻をひくひくと動かし、その小さな両眼はあなたたちを認めている。
『グラトニー』。暴食の名を冠する、この地方に現れる獰猛なモグラである。
このモグラは非常に危険なモンスターであり、縄張りには絶対に近付かないよう人々には呼びかけられている。
何が危険かと言うと、名が示す通りの暴食ぶりが挙げられる。そもそもモグラという生物は、胃袋が半日空っぽであると餓死すると言われており、このモグラはその食欲を満たすためにヒトですら襲う。
獲物を見つければ、両手の鋭利な爪で息絶えるまで切り刻む。下手なクマより遥かに恐ろしいモンスターで、このモグラの餌食になったヒトは数知れない。
なお、このモグラはモグラではあるが、穴掘りがあまり得意ではない。トンネルを形成するなどモグラらしいことはせず、むしろ地上に出て積極的に狩りを行う特徴を持つ。
そのためか、通常モグラは目が利かないが、このモグラの目は機能している。
「ジュリア、ワラビ、下がって。このモグラは、私とこのヒトで倒す」
既に仮面を被り、臨戦態勢に入っているシスイが、妹とその親友を下がらせてあなたを指名した。
盾を構えるあなた。傍らにはシスイが立ち、さて、彼女が握る勝算とは。
「キミ、少しの間でいい。前に出てモグラを引き付けて」
常人なら尻込みする危険な指示だが、守ることを役目とするあなたが前に踏み込んだ。
どしっ、と腰を落として盾を構え、この盾に寝そべる格好のモグラが、あなたに突進して右手を叩きつけた。
鋭き爪に、鉄の削られる音が響き、この重い衝撃をあなたが踏ん張って耐える。すると、立ち上がったモグラが両手を振り上げ、あなたが構える盾を力ずくで除けようとするが――。
――“親愛なる父友なる子、聖霊は信仰擲ち尊ばん”
“其の崇める神は真の神か。イデアと相反す、確かなれど不確かな存在”
“何を云う。届かぬ標と眩きこそ神。たとえ偽りとも我らを照らせ”――
「――“十”」
盾を構えるあなたの後ろから強烈な光が放たれた。
光を浴びてモグラが怯む。この隙にあなたが剣を抜き、モグラの頭を叩き斬る。それから後ろを見やると、シスイは手を組んでいた。
手を組むシスイは魔法を唱えた。彼女が唱えた魔法「十」とは、目が眩む程の閃光を放つ護身魔法である。
シスイの手の組み方はワラビと似ている。だが少しだけ異なり、妹のワラビが両手を組んで人差し指を立てるのに対し、姉のシスイは、握る右手から立てた親指を左手で握り、左手の人差し指を立てている。
「キミ―」
「姐さーん」
モグラが倒れ、ワラビとジュリアがあなたとシスイに駆け寄った。
快勝に喜ぶ二人。あなたも危険と喚起されているこのモグラに、ここまで楽に勝てるとは思ってもいなかった。
シスイが仮面を外す。そして、
「キミ、お疲れ様。造作もなかったね」
笑顔を初めてあなたに見せた。
「キミとなら安心できる。さあ、先に行きましょう」
汗を払うようにシスイがかぶりを振った。
にへっとした柔らかい笑みで、この笑顔は妹と似ていた。なによりも、笑うんだ、などとあなたは感じた。




