金字塔
「ふえー、話には聞いてたけど、実際目にするとすっげえな」
ジュリアが右手を庇のようにして、前方に望む巨大な建造物に感嘆した。
アシュタルト砂漠には「ピラミッド」と呼ばれる、山を模したような四角錐状の墓が点在する。
遥か昔より存在し、この大陸を治めたかつての王が自らの権勢を死後も誇るため、あるいは王を奉る名目で興した民の為の公共事業、などと諸説あるが、この四角錐状の墓が建てられた真の理由は未だ以て解明されていない。
ただ、今あなたたちの前に建つピラミッドに関して言えば歴史が浅く、このピラミッドはウシル大陸を護った英雄、軍師マグネスを祀る為に建てられた墓である。
軍師マグネスの死後、彼を信望したある豪商が、私財を尽くして築いたと聞く。この墓は、今では観光名所として知られ、実に様々なヒトが御利益を与るために訪れる。
「軍師マグネスって子供いなかったよね? 亡くなった後に祀り上げられちゃって、こんなの望んでたのかな?」
ワラビがピラミッドを望みながら呟いた。
マグネスは王族ではない。戦いに身を投じる前は、少年少女に歴史や数学を教える、穏やかな気性の教師だったと聞く。
言い換えれば平民だ。それが今や王と同等、いや、王を凌ぐ神の如き扱いである。確かに大陸を救った英雄ではあるが、この大陸のヒトが軍師マグネスに向ける視線は、些かオーバーだ、などとあなたも感じる。
「彼、生前はとても苦労したよう。国を想って献策しても、“こんなの戦いを分かっていない者の戯言だ”と無碍にされたりして。身分の低さから中々認められなかったようね」
「ようやく認められた時はもうお爺さんだったもんね」
「そこへいくとうちの先祖は幸運。ザイオニアの太子である剣士ヒートラがいたんですもの。死後に認められるというのも考えものね。彼、ここまでは望んでなかったでしょう」
「そうだね、お姉ちゃん」
勇者を先祖に持つ姉妹が、少し難しい顔をして頷いた。
そしてあなたたちがピラミッドに赴き、祭壇への階段を上る。
「ひぃ。歩き慣れてる私でも、これはちょっと堪えるかも」
「おいワラビ、上を見ろよ。まだまだ、先は長いぞ……」
ピラミッド北の中腹をくり抜いた所に祭壇はあり、その階段の長さにワラビとジュリアが参った。
祭壇に着き、あなたたちが祈りを捧げる。ワラビの心の病が早く治るように、と。しかし、
「ちぇ。ちゃっかりしてんなぁ」
「長い階段を上ってから参拝料をとるなんて中々したたか。さすがは軍師の墓」
ジュリアがぼやき、シスイが商売の上手さに感心した。あなたたちは参拝料として少々のお金を宮司に支払った。
「……軍師マグネスの墓は、本当は違う所にあるですよ」
「……?」
唐突に言った宮司の言葉に、あなたたちが首を傾げた。
シスイが訊ねる。このピラミッドはマグネスを祀る墓ではないのか。
「どういうこと?」
「いや、マグネスはメンネフェルの生まれでしょう? 元々遺骨と墓はメンネフェルにあったと聞きます。しかし、このピラミッドの建設に関わった誰かが、メンネフェルにあった墓を掘り出して遺骨をこのピラミッドに運んだみたいで」
ピラミッド普請に関わった誰かが、マグネスに遺族がいないことをいいことに遺骨を勝手に持ち出した。そう宮司が視線を落としてあなたたちに告げた。
メンネフェルでは墓のことなど一切聞かなかった。墓と言えば専らピラミッドを指し、メンネフェルに本当の墓があることなどあなたたちは知らなかった。
宮司の話が真実ならば、本当の墓は忘れ去られた所にあるのだろう。死地と骨を弄ばれたマグネスを、あなたが気の毒に思う。
思い出したかのように宮司が口を開く。
「……と、なぜこんな話を。普段ならこんな話、見ず知らずのヒトに絶対に話さないのですが」
「なぜ、私たちに?」
「さあ。あなたたちを見て、どうしてか、そう思い立ったのです。すみません皆さま、今の話は忘れるようお願い致します」
頭を下げた宮司。今のは墓に携わるヒトのみに伝わる、秘中の話のようである。
「どうだワラビ。お参りしてちょっとは変化あったか?」
「うーん、分かんない」
「そりゃそうか」
「ねえジュリア、下に屋台あるから何か食べようよ。キミ、お姉ちゃん、いいよね?」
軍師マグネスの墓は、何度も述べるが観光名所である。ピラミッドの周りには参拝客に向けた店が立ち並んでいた。
ワラビが急ぎ足で階段を下り、ジュリアもそれに続く。この元気な妹にシスイが微笑む。
あなたたちが各々食べ物を購入する。それから日陰を探し、通りの傍らに天幕が張られた休息所を見つける。
天幕の下であなたたちが休憩する。
「お姉ちゃん。まだお宝諦めてないの?」
焼きもろこしをかじりながらワラビが訊いた。
何を愚問を、といった風にシスイが、ミルク粥を食しながら返す。
「食べたら調査を開始。まずは中に入れそうな所を探す」
「もう。怒られても知らないよ。そう言えばさっきのご先祖様と剣士の話で思い出したんだけど」
「なに?」
「ジュリアのお家が魔道士と縁のあること聞いてるよね?」
「うん。前にジュリアから聞いた。貴方とジュリアが出会ったのも運命かしら。いずれにしろ世の中って狭いものね」
「その魔道士とね、剣士が」
「お、おいワラビ。それザイオニアの王様が隠してることじゃないか。それにうちの魔道士が可哀そうになる話だから」
その時、シスイが妹とジュリアを手で制し、
「興味深い話だけど後。みんな、あれを見て」
視線を通りに向ける。
その視線の先にいるのは、黒い装いをした男の後ろ姿。更に黒髪で、特徴は一致している。
「後を尾けましょう」
シスイがミルク粥を掻き込むように飲み干した。
***
「えっ? なんだい君たち?」
しかし、人気のない所であなたたちが声をかけ、振り向いた男は人違いだった。
肩透かしを喰ったあなたたち。だが一方でほっとするあなたたち。もしも奴だったら一悶着あっただろう。
ジュリアが、丸眼鏡をかける青年に頭を下げる。
「すみません、人違いでした」
あなたたちが立ち去ろうとするが、
「あっ、ちょっと待って。その格好、ひょっとして君たち戦士かい?」
「え、はい。そうですけど」
「やった。僕は何てツイているんだ」
黒い装いの丸眼鏡をかけた青年が、己の幸運に指を鳴らした。
「僕はダレックノル大学の助教授で“マルコ”って言うんだけど、君たち戦士に是非頼みたいことがあるんだ」




