梟雄不明
ニャンフンルルを発ってから二日経ち、あなたたちは南の町・メンネフェルに到着した。
メンネフェルは、かの魔王の時代、勇者たちに知恵と軍略を授けた軍師・マグネスの生誕地として知られている。
目的がなければ過去の偉人の足跡を辿り、想いを馳せるのもいいだろう。だが、あなたたちは逃げた外道の行方を追っている。
あなたたちはさっそく聞き込みを開始した。奴はナンナ教を説いて回った黒衣の美男子だ。もしも目にすれば必ずや印象に残るだろう。
「え? 若い男の僧侶? うーん、ちょっと見てないなぁ」
「ああ、あの可愛い顔した僧侶さんね。以前はよく見かけたんだけどねぇ」
「ここ最近は見てないな。それにしてもあんたら、よくフェネックをこんなに狩れたな」
しかし有力な情報は得られなかった。
あなたたちは街の人々に、奴を見ていないか尋ねた。だが街の人々は、口を揃えて「その僧侶の事は知っているが、ここ最近は見かけていない」と答えるばかりだった。
なお、あなたたちは聞き込みの傍ら、倒したキツネの毛皮を売った。スイープフェネックの毛皮は柔らかく、その手の商人に売れば高値で買い取ってくれ、あなたたちは多少の路銀を得た。
「ここには来ていないみたいだな、アンタ」
そして夕方。向かい合って座るジュリアがあなたに訊いた。
テーブルを囲むあなたたち。Paradise Lostの時とは違ってワラビとシスイも同席している。
目撃情報は得られなかった。しかし、半日にも満たない聞き込みで「いない」と断じるのは早計でなかろうか。
わざわざ二日掛けて赴いたのだ。いない事を確信するまで捜すべきではないだろうか。中途半端な調査で逃しては悔やんでも悔やみきれず、明日も捜すべきでは、といった旨をあなたがジュリアに伝える。
「だよなー、もうちょっと捜すべきだよなぁ。実を言うとあたし、今ニャンフンルルに戻りたくないし」
ジュリアがテーブルに突っ伏した体勢でぼやいた。
このぼやきにあなたも僅かに同意した。今あなたたちはニャンフンルルへの帰還に、気が進まないでいる。
理由は娼婦ローザの弟と妹に責められたことだ。悪くないのに悪者にされ、あなたたちは逃げるようにしてこの町に訪れている。
「でも、ぐずぐずはしていられない。あの腐れ外道、一刻も早く見つけて仕留めないと」
「分かってるよ姐さん。でも、……うーん、参った」
シスイの言葉に、ジュリアが溜め息を吐いた。
奴がもしこの街にいないとすれば、その足で更に遠くへ逃げてしまう。時間との勝負、シスイが言うとおり早く見つけるべきである。
また、奴自身の力も危うい。変身した奴は電撃を吐き、それにあなたは苦しめられている。
あなたたちは三度、あなたに至っては四度獣に変貌する者と出遭っている。が、エザナーンを始めとする大多数がそんな者に遭った事なく、奴が姿を変えたら、たとえ闇夜のエザナーンがいても無事では済まないだろう。
戻るべきか。それともここでまだ捜すべきか。正解の見い出せない二択にあなたが迷っていると、
「ねえキミ、ジュリア」
あなたの左隣に座るワラビが、俯きながら言った。
「私、帰った方がいいのかも……」
「はあ? ワラビ、何言ってんだおまえ」
「だって私、何の役に立ってないし……」
先のキツネとの戦い。ワラビは足が竦み、戦うことができなかった。
それをワラビは気にしていた。戦いの後もワラビは落ち込み、とても口数が少なかった。
いかがしたものか、などとあなたが悩む。ワラビの復調は未だ兆しが見えない。
「このままじゃジュリアとキミの足を引っ張るだけ。私、もうダメだよ。ごめんジュリア、私、ヒルダガル一緒に行けそうもない……」
「……ワラビ、あのな」
テーブルから体を起こしたジュリアが、隣に座る親友の両肩を掴み、自身に向かせたワラビの瞳を真っ直ぐに見つめて言う。
「自信を持て。おまえは誰よりも強い女なんだ」
「ジュリア」
「心配すんな。おまえの分くらいあたしがカバーしてやる。何度も言うけどよ、あたしにはおまえが必要なんだ。勇者の子孫にしてチビでばっつんで、無駄にもみが長くて、そんでズカズカとヒトの心に平気で踏み込んでくるおまえがさ」
「……ジュリアぁ」
「だからくよくよすんな。あんな野郎の薄汚え魔法なんかに負けんじゃねえ。おまえなら立ち直れるさ、ゼッタイ」
ジュリアは親友の復帰を、誰よりも信じていた。
この二人を見てシスイが、「ふっ」と嬉しそうに微笑する。
「ま、これはあたしが一度女王様に言われたことだけどさ」
「……ふふっ、ジュリア、ますますお姉様じみてきたね」
「は? やめてくれよ。姐さんならここにいるじゃんか、あたしそんなキャラじゃねえし」
「ふふっ。でもチビって言うな。デリカシーないのは分かってるけど」
「おまえ”殺助”みたいな成りしてることまだ気にしてんのか」
「“鬼天烈斎”さま~、なんて誰が言うかナリ! このギャル! 尖ガリ、ブタジュリア!」
ワラビが笑った。多少元気を取り戻したようである。
「ジュリア女王様にそんなこと言われたっけ?」
「ああ。おまえがカタリナでムラートさんと戦ってるときだったな」
「やっぱ頼もしいねあのヒト。そういえば元気かな? 司直のみんなとペルカララ島へ行っちゃったもんね」
「ま、あのヒト強いから心配は要らないだろうけど、でも従ってるアリのみんな、気を揉み過ぎててすこし可哀そうだよなー」
「自覚ないもんね。戦うの好きだし、男のヒト直ぐに誘惑するし。結局のところ女王様っていくつなんだろ?」
「訊いたら口ふさがれるぞ」
二人の会話の間隙を縫うように、
「……提案」
シスイがぼそりと告げた。
あなたたちが顔を向ける。特にジュリアは懐いている分、直ぐさまシスイに振り向く。
「明日、マグネスの墓に行かない?」
「え? 姐さん、マグネスって、この国じゃ“忠慎公”っても言われてる、あの軍師マグネスですか?」
「うん」
訊き返したジュリアに、シスイがこくりと頷いた。




