昔ながらの干からびた鹹味
「うっ。なんだこれ。す、すごくしょっぱい……」
ジュリアが好物の梅干しを食べたのだが、渋い顔をして嘆いた。
シスイに振り向くジュリア。いま食した梅干しは、シスイが所持していた物による。
ジュリアの顔は、あたしが知っている梅干しはここまでしょっぱくない、とでも言いたげである。
「姐さん、これほんとに梅干しなんですか? なんかしょっぱすぎて、腹がおかしくなりそうなんですけど」
「うん。昔ながらの製法で作られた梅干し。ジュリアが好きな梅干しは、今どきの減塩された梅干しのようね」
「なっ。そうだったんだ……み、みず」
ジュリアが水筒を取り出し、中の水をぐいっ、と飲んで一息吐いた。
東方より伝わる保存食・梅干し。東より参ったシスイが所持していたそれは、言わば本場であり、本場の梅干しを珍しがったジュリアが「食べさせてください」と試食に至った。
しかし、その干からびたウメの実にも色々あるようである。こちらでは減塩された物が普及しているようで、いずれにしろ古くより伝わる物はジュリアの舌に合わないようだ。
「確かにしょっぱい。でも、代わりにいつまでももつの。百年、二百年経った物でも食べて平気だった話を聞いたことがある」
「お姉ちゃん、私にもちょうだい。……うう、しょっぱいけど、このしょっぱさ久しぶり」
姉妹が揃って口に入れ、そして姉妹そろってその鹹味に口をすぼめた。
晴れた空の下、オレンジ色の砂地を歩くあなたたち。
あなたたちは南の町・メンネフェルに向かっている。理由は既に述べているが、逃げた奴を捜すためである。
あなたたちが歩くこの辺りもアシュタルト砂漠と呼ばれるが、この辺は全てがすべて砂地という訳ではなく、草や灌木があなたたちの周りには細々と生えている。
その、草と灌木が俄かにさざめき、
「……アンタ、姐さん」
「分かってる。キツネね」
取り囲まれたあなたたち。耳の大きなキツネが七匹、灌木や草からあなたたちを待ち伏せしていたかのように現れた。
『スイープフェネック』。フェネックと呼ばれる耳の大きなキツネの一種である。
この肉食のキツネは、別名「アシュタルト砂漠の掃除人」とも呼ばれている。顎と消化器系が強く、肉であれば生肉は元より、腐肉でも構わず漁るのだ。
死骸を徹底的にしゃぶり尽くす習性を持っていた。この獣が通った後に残る物は、噛み砕けなかった骨だけ。スイープ、つまり掃除の所以であり、そんな食性を有するからか、この獣の体格は恵まれていて大型犬と変わらない大きさを誇る。
この獣は常に群れで行動し、その群れという強みを生かした狩りも行う。獲物を取り囲んで背後を突くなどお手の物、ケースによっては一匹が囮となって獲物の油断を誘うこともある。
自らより大きな獣を狩ることもしばしばある。ヒトを襲うことも儘あり、このキツネは危険なモンスターとして知られていた。
なお一般にフェネックという種は、砂漠に生息する体の小さなキツネである。耳が大きな理由は放熱のためと言われている。
「アンタ、ワラビを頼む。姐さん」
「任せて」
矢を番えるジュリア。そして放たれた一矢が、一匹の胴体を貫いた。
すかさずシスイが手裏剣をかざし、矢継ぎ早に三つ投げる。これが一匹の前足、胴、眉間と刺さり、シスイがもう一匹を始末した。
二匹を片付けたジュリアとシスイ。これによって包囲の一角が解け、あなたたちがここから包囲を脱出しようと試みる。
しかし敵は怯むことなく追い、五匹があなたたちを囲み続ける。
「くっ、このキツネ速いな。逃がしてくれねえ」
「あっ! ジュリア!」
ワラビが叫んだ。あなたたちを囲む五匹のうち二匹が、ジュリアに襲い掛かった。
砂地をウサギのような軽快さで蹴るキツネ二匹。そして一匹が飛び掛かるが、これをジュリアが上体を反らしてかわし、
「姐さん!」
続いて飛び掛かった一匹の胴を、シスイが横から蹴り飛ばすことで阻止した。
ジュリアが腰から鎖を抜く。シスイは既に苦無を握り、面を被っている。
「姐さん! まずはこの二匹さっさと片付けよう!」
「承知」
「アンタ! 直ぐに片付けるからそれまでワラビを守ってくれ!」
ジュリアとシスイが、戦えないワラビの防衛をあなたに任せた。
あなたが剣と盾を構え、残るキツネ三匹の前に立ちはだかる。
「あう。キミ、私も戦う……」
後ろのワラビが短刀を構えた。
だが、ワラビの小さな体は震えており、その構える姿も腰が引けている。
恐怖に打ち克とうとしていた。しかし敵は危険で知られるモンスター。今のワラビではたとえ一匹でも太刀打ちできないだろう。
無理をするな。そのような旨をあなたがワラビに伝える。
そして三匹が一斉に飛び出した。
砂地を駆ける三匹。この三匹は後ろのワラビを歯牙に懸けず、あなたに突き進んでいる。
あなたにとって最も避けたい事態は、キツネがあなたを無視してワラビを狙うことである。一直線に走るキツネ三匹に、これ幸い、とあなたが感じる。
しかし、流石は危険と称されるモンスター。想定を上回る速さにあなたが戸惑う。
距離が縮まるにつれ、三匹が二乗三乗と指数関数的に加速する。ジュリアとシスイはよくもこんな速い獣を相手に出来る、などとあなたが焦る。
そして牙を剥き、飛び掛かった一匹。この鼻をあなたがかろうじて盾で撃ち払うが、もう一匹の牙が、あなたが剣で斬るよりも早く、あなたの腕に噛みついた。
更に残る一匹が、あなたの右腿に喰らい付く。
「キミ!」
二匹に食い付かれるあなたを見てワラビが叫んだ。
これはまずい、とあなたが感じる。既に述べているが、最も避けるべき事態は敵がワラビに牙を剥くことだ。
喰らい付かれているあなただが、まだ耐えられる、などと我慢する。そんなあなたの心配を、腿に喰らい付く一匹が察したように、
「えっ、あ、いや……」
ワラビに鋭い視線を向け、これにワラビがたじろいだ。
「や……」
そしてあなたから離れたキツネが、じりじりとワラビに歩み寄る。
怯えるワラビを、値踏みするように見るキツネ。これにワラビが腰を抜かし、短刀を落としてしまう。
もはや危険はない。そう察知したキツネがワラビに走る。これを阻止せんとあなたが振り向くが、
「――“必殺、死燹蜂”」
そこへ疾風の如く追い付いたシスイが、妹に迫る一匹を強襲した。
シスイは側転し、全体重を乗せて苦無を刺した。その体ごと叩きつけたような一刺しに一匹が絶命する。
「アンタ! 遅れてごめん!」
あなたの腕に噛みつく一匹の胴を、ジュリアが鎖の錘で撃った。
腕から離れた一匹。この頭にジュリアが鎖を叩き付け、一匹が血を撒き散らして倒れる。
残る最後の一匹はあなたが仕留めた。こうしてあなたたちは七匹のキツネを駆逐した。
「キミ、私が戦えれば噛まれなかったのに……。ごめんなさい……」
だが、恐怖を克服できなかったワラビが、己の情けなさに涙を落とした。
膝を突いて謝るワラビ。これにあなたが傷の手当てを受けながら頭を悩ませた。
※スーパーに売ってる物ではない自家製の梅干しを始めて食べた感想はこれでした。異論は受け付けませんのであしからず。




