誤解の果て
あなたたちはこの街で出会った少年ライフとポミオに、昼食を奢るつもりでいた。
だが二人は、「女のヒトに金出させるなんてカッコ悪い真似できかっよ」と抵抗し、自分たちが食べた分くらい自分たちで払う、と金を支払おうとした。
あなたたちはこの少年二人に苦労を掛けている。麻薬中毒者、すなわちヤク中の二人は暴れたりし、戦士会まで運ぶのに手こずった。ライフなんかは引っ掻き傷を付けられ、そんな少年たちに格好付けられては気が済まなかった。
それなので、ジュリアが「お姉さま」の権限を使って諭し、少年二人を納得させた。こうしてあなたたちは昼食代を奢り、別れ際に二人は「ヤク中を見つけたら捕まえるぜ」とあなたたちに一肌脱いだ。
それからあなたたちは奴の捜索を再開した。
しかし見つからなかった。難民街を隈なく探し、匿われていそうな所もあたったが、外道の姿を発見することはできなかった。
日が暮れてあなたたちが本日の捜索を打ち切る。そして、
「ごめんください」
ジュリアが尋ねた。最後にあなたたちは、昨日ローザを届けた病院に再び訪れた。
「あら、昨日の」
ちょうどロビーにいた、昨日も会った年配の看護婦があなたたちを認めた。
ロビーには診察を待つヒトのための椅子が並べられている。病院の規模は大きくなく、診療所と言った方が適当かもしれない。
奴はジュリアに左手を射られ、シスイに首を斬られた。重症であり、治療が不可欠だろう。
昨日訪れたことにより、あなたたちはこの病院を後回しにしていた。だが、一日経った今なら現れたかもしれない、と思って今に至る。
なおこの町には、他にも数軒病院があるが、それらは既に訪問している。尋ねたが、現れなかった、との回答を得ていた。
「看護婦さん。あのモートって僧侶、来ませんでしたか?」
「ああ、来てないわね」
「そうですか。すいません、ありがとうございます」
「しっかし本当かいあんたたち。あの僧侶さんが犯人だ、なんて」
看護婦が反問し、口をへの字に曲げた。
「あの僧侶さん若いのに立派じゃないか。それを悪く言うなんて、わたしゃ信じられないね。それに一体どうしたらあんな血を吸い取られたようになるんだい? 悪いモンスターに襲われた、って方が自然に見えるんだけど」
腕を組む看護婦。あなたたちは昨日、ローザを重体に陥れた犯人はモートだ、と答えている。
しかし医者と看護婦は信じようとしなかった。奴は表向きは立派な聖職者である。かなり前からナンナ教の布教に努めていたらしい。
しかも顔が良い。それにローザの症状だ。失血した彼女だが、目立った外傷はなく、そんな彼女の血を失った容態に医者と看護婦は疑問を抱いた。
あなたたちは魔法による失血の旨を説いたが、奴が唱えたのは過去に存在を抹消された魔法である。医者看護婦ともに魔法に明るくないこともあり、あなたたちの主張は認められなかった。
奴は信用を得ていた。エザナーンですら半信半疑であり、いくら説いても奴の非道が明るみに出ない限りは無理だろう。
「……信じてください。本当なんです」
「そうかい。ま、もしウチに来たら知らせるよ。Paradise Lostに知らせりゃいいのかい?」
「はい、お願いします」
ジュリアが頭を下げ、奴を見つけたら知らせるように頼んだ。
しかし、あなたたちはこの後に思い知る。慕われている人物を非難するのが、いかに困難かであることを。
ローザから話を聴きたかった。ジュリアが続けて尋ねる。
「看護婦さん、ローザさんに会いたいんですが」
「……彼女、まだ寝てるわよ。意識が回復しないから、会ったって無駄だと思うけど」
看護婦は邪険な目をして言った。
やはり、とあなたが肩を落とす。回復を願ったが昨日の今日である。しかし、
「じゃあ、見るだけでも出来ませんか?」
食い下がるジュリア。奴の本性を知っているのはあなたたちと彼女だけ。無駄と言われても一目見ておきたく、あなたたちが面会を申し出た。
一度は断った看護婦。だが熱心に頼むジュリアに折れたか、決して起こさず安静にさせておくことを条件に、あなたたちは面会を許された。
病院の最も奥、ローザが眠る病室にあなたたちが静かに向かう。すると、
「うっ、う……ローザねえちゃん」
「おい泣くな、泣くんじゃねえ」
彼女の妹と弟と思しき二人の子供が、病室の前で悲しんでいた。
「……えっ、だれ?」
「だ、誰だお前ら!」
あなたたちが現れたため、弟が気色ばんだ。
弟と妹は幼かった。年齢にして十にも満たないだろう。
弟が、怯える妹を庇いながらあなたたちを睨んでいる。
「ごめん、怪しいもんじゃない。あたしらはお姉さんとお話ししたかったんだけど、……また日を改めるよ」
幼き敵愾心を前にし、ジュリアが息を吐いて答えた。
この二人がいては見るのも叶わぬだろう。子供を脅かす訳にもいかず、あなたたちが振り返り、この場を後にしようとする。
しかし昨日、奴は倒れたローザに向かって、この二人を奴隷として売る、と確かに吐いた。
子供を魔の手から守らなければ、とジュリアが、子供二人と視線を合わせるべくしゃがみ込み、
「なあ君たち、モートって僧侶知ってる?」
「う、うん」
「ああ」
「いいか? あたしがこれから言うこと、絶対に守ってくれ。……あの僧侶の言う事は聞くな。あいつは一見正しそうに振るまってるけど、本当はすごく悪い奴なんだ」
騙されないようにと、モートの本性を説く、が――。
「はあ!? ふざけんなこのブス! あのヒトすげえいいヒトだぞ!」
「そうだよ! ローザねえちゃんと仲良いし!」
幼い二人にとっては余計な狭匙であり、ジュリアの忠告は聞き届けられなかった。
反撃を浴びたジュリアが言い返す。ただこの二人が、奴に騙されて欲しくなくて。
「頼む、聞いてくれよ! 君たちのお姉さんをあんな目に遭わせたのはあいつなんだ!」
「嘘つけ! あのヒトがそんなことするもんか!」
「あのヒトを悪く言うなんて許せない! 帰って!」
「そうだ帰れ! 姉ちゃんが目を覚まさないのはお前らの所為だろ!」
これ以上はいられない。看護婦に言われたこともあり、あなたがジュリアを無理やり引っ張った。
大人しく従ったジュリア。子供二人に非難され、あなたたちが逃げ出すように立ち去る。
「なあ、間違ったこと言ってないのに、……悔しいよ」
病院から出て涙ぐむジュリアの右肩を、シスイが励ますように手を置いた。
こうして夜が更け、あなたたちがParadise Lostに戻った。
見つからなかった旨を報告した。するとエザナーンから「南の“メンネフェル”に行ってみたらどうだ?」と提案された。
メンネフェルはここから二日ほど歩いた所に建つ町である。モートはこの町でも布教活動を行っていたらしい。
あなたたちはこの提案に従った。エザナーンには、もし奴を見つけたら絶対に油断するな、と注意を促し、あなたたちは翌朝、南へ旅立った。




