ぼうふら野郎ども
「ジュリアお姉様。奢るって、“Paradise Lost”のメシっすか?」
「ああ。どした?」
「マジかよ。お姉様、俺らここ苦手なんですよ。他の店にしませんか?」
「えっ。でももう頼んじゃったからなぁ。あとお姉様はやめろ、やめてくれ」
ジュリアを「お姉さま」と慕う少年、ライフとポミオが、ひそひそ声で店の変更を頼んだ。
あなたたちは難民街で出くわした麻薬中毒者二人の拘引を、この少年二人に手伝ってもらった。それで御礼としてこれから昼食を、この少年二人に奢る。
あなたたちが今いる店。この昼間は食堂の名は「Paradise Lost」と言う。
「おい、ここは悪ガキが来るところじゃねえぞ」
「うわっ」
「闇夜のエザナーン」
奥から前掛けを着けたエザナーンが現れ、ライフとポミオが肩を窄めた。
「Paradise Lost」は、戦士会ニャンフンルル支部の営業所なのだが、半分はエザナーンが趣味で開いている食堂でもある。
睨むエザナーンが少年二人を委縮させる。エザナーンは一線を退いたとは言え、かつてその名を轟かせた歴戦の猛者だ。この砂漠で知らぬ者の方が珍しい。
対する二人はケツの青い少年。体格、貫禄、年季、全てが桁が違い、そんなエザナーンに睨まれる二人をあなたが気の毒に思う。
呼び捨てで呼ばれたエザナーンが、ライフとポミオに向かって顎をしゃくり、
「“さん”を付けやがれ、このボウフラ野郎ども」
目上の者に対する礼儀を、罵りを交えて教え込んだ。
「なあお前よ、名前、ポミオって言ったか?」
「はっ!? な、なんであんたが俺の名前知ってんだよ」
「あ? 口の利き方がなってねえクソ餓鬼だなぁ。てめえら二人、ここで叩きのめしてやってもいいんだぞ?」
「……すいません、勘弁してください」
「ヘッ。“ラジーン”がよ、お前のことでぼやいてんだよ。定職に就かず毎日フラフラフラフラしやがって、ってな」
「叔父さんが、っすか」
「そうだ。お前ラジーンとは仲良いんだろ? あいつも昔は頼りねえところあったが、今じゃ一人前の立派な戦士だ。お前、叔父さんの顔に泥塗ってんじゃねえよ」
「……はあ、すいません」
ポミオが叱られた。あなたたちが麻薬の聞き込みをしたとき、ポミオが戦士の叔父がいる、と言っていたことをあなたが思い出す。
ますます委縮し、借りてきたネコのような二人。そんな少年二人を見下ろすエザナーンが、
「ま、こいつらに協力して“ヤク中”をここに運んだことは褒めてやる」
「…………」
「お前らよ、暇を持て余してるなら戦士になったらどうだ? なるんだったら俺が面倒見てやろう」
二人を誘い、厨房に戻って行った。
街のヒト達によると、若き頃のエザナーンは、それはもう手が付けられない程の悪たれであったらしい。
少年二人を、かつての自分に重ね合わせたのだろうか、などとあなたがエザナーンを慮る。
「くそっ、偉そうにしやがって」
ライフが憎しみの言葉をつぶやくが、それはエザナーンに向けてではなく、下を向いて言った。
「ごめんなお前ら。おじさんにはあたしから謝っとくからさ、店変えようか?」
「……いや、大丈夫っす、お姉様」
「お姉様が奢ってくれるなら喜んでご一緒させて頂きます」
「ふっ、ははっ、よかった。あとお姉様はやめろ」
少年二人が、ジュリアに気骨を見せた。
苦手を克服するべく敢えて居座った。ボウフラ野郎と言われ、その通りな自分が悔しいのだろうか。
これを機に、不良と後ろ指を指される毎日から脱却できればいいが、などとあなたが思う。
「にしてもお姉様」
「ん?」
「ワラビさん、一体どうしちまったんすか?」
「仲良かったですよね? ケンカでもしたんですか?」
入口の方で、シスイの後ろに隠れるワラビを見て二人が訊いた。
その距離はあなたとジュリアから遠い。少年二人が勘違いしてもおかしくはない。
「ケンカなんかしてないよ」
「えっ。じゃあ別に仲悪いとか、そういうんじゃ?」
「ないない」
「なーんだ。じゃ、俺ちょっと行ってくるよ。ワラビさん可愛いから一緒にメシ食いたいし」
「あっ、おい、よせ」
もうエザナーンから叱られたことを忘れ、ポミオが軽い足取りでワラビの元へ向かった。
だが知らなかった。ポミオはワラビの前に立つ、危険な匂いの香る女の存在を。
ポミオが手を上げ、ワラビを呼ぼうとするが、
「……へっ?」
それは一瞬だった。ポミオの顔の直ぐ右を、高速で何かが通り過ぎたため、彼が足を止めた。
直ぐさま振り向けば、――カッ、という音と共に、壁へ刺さった手裏剣。殺意の籠もった威嚇を受けてポミオが腰を抜かす。
「次は外さない。近付く者は殺す」
「ひっ、ひいっ」
ワラビの前に立ち塞がるシスイが、次の手裏剣を懐から取り出し、この殺気立った脅しにポミオが這う這うの体で逃げ帰った。
これを見たライフが尋ねる。聞き込みの時はいなかった、明らかに危ない雰囲気を漂わせる女について。
あなたが頭を抱える。やりすぎである。ジュリアは苦笑いしているが。
「お姉様、なんですかあのヒト。すげえ怖いんですけど」
「だからよせって言っただろ。あのヒトは殺し屋だぞ」
「殺し屋!?」
「二人ともワラビに近付くなよ。あのヒトが殺しに来るぞ」
「ひえっ」
ジュリアが少年二人を脅かした。
慄く二人。殺し屋はないだろう、などとあなたが頭を抱える。
しかしジュリアが、シスイの後ろで怯える親友を見て思い出す。ワラビをあんな風にしたあいつは絶対に許さない、と歯軋りし、
「……お姉様」
「お姉様まで怖い顔して。どうしたんですか」
そんな形相のジュリアに、少年二人がうろたえながら訊いた。
「……え? ああ、何でもない」
「本当っすか?」
「ああ。ごめんごめん」
ジュリアが憎しみを噛み殺し、二人に対して笑みを浮かべた。
もし本当のことを話せば、この少年二人は捜索に加わってくれるだろう。
麻薬中毒者の拘引を喜んで引き受けてくれた。しかし、奴は怪物に変身する力を持っている。戦士でもないこの二人を巻き添えにする訳にはいかない。
「さあ座ろう。二人とも、足りなかったら追加で頼んでいいからな」




