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darkness

 ソロンの依頼を受けたあなたたちは地下牢獄に進入した。

 地下はやはり暗かった。あなたたちが掲げるカンデラの灯のみが闇を明白にする。

 (よど)んだ空気に靴音が反響する。静かな地下内でそれだけが鳴るものだから、些か耳障りにあなたが感じる。


「あっ、ネズミ」


 カンデラを持つワラビが見つけた。しかしもういない。灯に照らされて直ぐに逃げたのだろう。


「こう暗くて誰もいない場所だとネズミでも恋しくなっちゃうね」

「おいおいワラビさん、オレがここにいるじゃないか。寂しいのなら、オレに恋しくなっても構わないぜ?」

「なに言ってんの君。まだドブネズミの方がましよ」

「ド、ドブネズミよりオレは下なのかよ。さすがにへこむぜ……」


 ワラビにふられて落ち込むテオをよそに、あなたが周囲に目を向ける。

 通路の壁は正方形に長方形、整然と組まれた様々な形の石によって構成されている。

 そして鉄格子を見つけた。過去、囚人を閉じ込めていたのであろう牢内には誰もいなくて、壁に掛けられた朽ちかけの鎖のみが乾いた寒さを匂わせる。

 歩くあなたたちの灯影が、壁と牢内を黒く塗り潰す。


「ワラビ、ちょっと照らしてくれ」

「うん。見える?」

「ああ。えっと、……あっ、そこを右、右だ」


 ジュリアが指で示し、あなたたちは右に入った通路へと進路を曲げた。


「地図もらっててよかったな」

「ホントだよね。あまり長く居たいと思わないし、ここ」


 地図を畳むジュリア。あなたたちはソロンから地下牢獄の地図を(もら)っていた。

 おかげで迷路のような地下内を迷うことなく進んでいた。だが、これにあなたは複雑な思いを抱いていた。

 普段は入れない地下のダンジョン。それはかの魔王の時代に造られた、陰惨ながらも歴史ある建造物である。

 目の当たりにすることで、その踪跡がより深く知れるだろう。また、こういった建造物には隠し通路が付き物だ。あなたはこの(うわさ)の施設に入れると聞いたとき、胸をときめかせていた。

 しかし実際は、渡された地図に沿って進んでいるだけ。地下牢獄を探検し、その(あかし)を心に刻みたがっていたあなたは、今の冒険にもどかしさを感じている。

 ソロンから特別な許可を得て侵入した。ワラビとジュリアもいて下手な真似はできない。けれど、

「なあみんな、普段入れねえ所にせっかく入ってんだからさ、真っ直ぐ進まずにちょっと探検してみねえ?」

 そんなあなたの気持ちをテオが代弁する。


「は? テオ君なに言ってんの。こんな所に何もあるわけないじゃん。あったらとっくに見つかってるし」

「おいおいワラビさん、分かってねえなあ。いいかい、普段なら入れない所の探検に意義があるんだ。ワラビさんもシャレた服屋の前を通りかかれば、買う気がなくてもついつい服を見ちゃうだろ?」

「ばか、遊びに来てんじゃないんだぞ。一人帰って来てないこと覚えてないのか?」

「覚えているさ。でもよ、“おつかい”だけこなしても面白くねえじゃん? 少しくらい寄り道でもして、楽しみを作んねえとな、ハハハ」


 ジュリアの言い分はもっともだ。この地下牢獄でソロンは怪我をし、あなたたちは行方不明者の捜索を頼まれている。

 しかし助かった。テオが代弁したことで、あなたの抱いていた物足りなさが幾分か解消された。

 とりあえずジュリアの言う事が正しいため、あなたがテオを軽く叱る。けれどこの好奇心旺盛な少年に、あなたが心の中で感謝した。


 ***


 そして、あなたたちは地図に印が付けられた地点、ソロンが番人とやらに襲われた場所に辿り着いた。

 地下牢獄の最深部。ワラビが掲げるカンデラの灯を下に、あなたたちが周囲を見回すが、

「何もいないね」

 目に映るのは誰もいない牢獄と、あなたたちの影ばかり。


「気をつけろよ。急に襲って来るかもしれないぞ」


 ジュリアが告げ、あなたたちが気を抜くことなく進む。その時だった。

 突然、――上から降って現れた鋭利な爪。これに反応したあなたが(とっ)()に盾を掲げて防ぐ。視界の外、頭上から翼を広げて現れた番人は、(あし)に備えた鋭い鉤爪(かぎづめ)であなたたちを強襲した。

 爪を防がれて番人が上へと退()く。翼、いや、飛膜を畳み、天井にぶらさがった姿は閉じた傘を連想させる。

 傘の石突に据わる紅き双眸(そうぼう)が、天井から静かにあなたたちを見つめる。


「なにこのコウモリ。すっごく大きいし」

「こいつか。キツネの兄さんを傷付けたってのは」


 『ヴァンパイア』。あのヒトの血を吸い、動物や霧など多種多様な姿に変化する、有名な怪物の名を冠した巨大コウモリである。

 性質は闇夜を早く飛び回り、肢の鋭利な鉤爪で獲物を切り裂く。場合によってはヒトすらも襲い、このコウモリは戦士会でも非常に危険な生物として認知されていた。

 しかし、この生物との遭遇にあなたは目を疑った。何故ならこのコウモリ、主に南の熱帯地方に生息し、ミネルバやザイオニアではまず目にしない生物だからだ。ドリフトティガーと違って放浪癖などない。

 この紅き眼を持つコウモリをあなたたちが注視していると、

「うっ。ま、また来たのか」

 奥から男の声が聞こえたため、これにあなたたちが目を向ける。


「貴様らは、いつかの戦士……」

「あっ」

「キツネの兄さんが言ってた奴だ。確か、ウィルガスト家のシモンだかって言う」


 あなたたちは男を覚えていた。路地裏で中年の男を痛めつけていた若者の一人である。

 そしてソロンから捜索を頼まれていた件の貴族だ。名はシモンと言っていた。

 驚いたのが彼の身なりだ。中年の男を痛めつけていたときは、若者らしい服を着こなし、(きょう)(まん)な自信に満ちあふれていた。それが見る影もなく落ちぶれている。

 服は汚れ、髪は脂っぽく、顔も(ほこり)に塗れて黒ずんでいる。しかも、

「メ、メメメ、メシア様に、救って頂いたのに……」

 頭を抱え、何かぶつぶつと独り言を言っている。正直、かなり危ない印象だ。


「捕まったら、殺される……う、うわあぁっ」

「待ちやがれ! ……うおっ!?」


 奥へ逃げ出した男をテオが追いかけようとするが、番人ことコウモリが天井から降りてテオを阻んだ。

 天井に戻るコウモリ。このコウモリを倒さなければ先に進むことは敵わない。


「飛んだぞ!」

「速い!」


 ()(しょう)したコウモリにジュリアとワラビの声が木霊する。カンデラが照らす光からコウモリが逃げ出した。

 闇に身を潜めたコウモリ。早く見つけなければ。ワラビがカンデラを高く掲げて探すが、

「あっ!」

 それをコウモリが狙った。闇より音もなく躍り出たコウモリが、ワラビの持つカンデラを叩き落とした。

 ふっ――、と消えた光。あなたたちが暗闇に引きずり込まれる。


「くっ、見えねえ! どこだ!?」

「ワラビ! 早く松明を!」

「う、うん!」


 四方八方すべてが闇。テオの叫びが響き、ジュリアがワラビに火を()けるよう急かす。

 あなたたちはパニックに陥った。この状況では敵の姿を見つけるどころか、仲間の姿すら確認できなかった。

 一刻も早く光を取り戻さなければ、あなたたちは成す(すべ)なく鉤爪に刻まれる。焦るワラビが急いで火神(アグニ)の呪文を唱え、火を点けようとするが、

「あぐに……きゃあっ!」

 点けた時だった。ワラビの悲鳴が反響した。


「や、やだ! ちょっとやめて!」


 松明が落ち、その光が、尻をついて己を手で庇うワラビを照らす。

 コウモリが翼に爪にと、ワラビを執拗(しつよう)に痛めつけていた。しかしワラビは松明に火を点けることには成功した。

 視界を取り戻し、落ちた松明をジュリアが拾う。それと同時、

「このコウモリめ! ワラビさんにしつけえぞ!」

 テオがワラビを助けるべく剣で突くが、この突きをコウモリがひらりとかわし、

「あづっ!」

 肢の鉤爪でテオの顔を鋭く掻く。


「いってえぇぇ!」

「おいテオ!」

「テオ君!」


 叫んだあなたたち。テオが顔を覆い、膝を屈した。

 覆う手から血がぽとぽとと垂れている。かなりの出血で、かすり傷では済んでいない。

 そしてコウモリが退き、闇に再び姿を(くら)ます。


「また逃げやがった! ワラビは無事か!?」

「うん、私は何とか。……テオ君、助けてくれてありがとね」


 自分の代わりに負傷したテオにワラビが謝った。

 厄介な敵だ、などとあなたが感じた。コウモリはまさに神出鬼没。暗闇という安全地帯から奇襲を仕掛けては、直ぐに闇へ逃げ込む。

 更に、灯を狙う知性まで持っている。灯を失えば光を頼るしかないあなたたちには打つ手がない。

 このコウモリはソロンが怪我をするのも無理はない強さと嫌らしさを備えていた。一度退いて体勢を立て直すべきか、などとあなたが考えると、

「……待てよ、こんな使い方想定してなかったけど、いけるんじゃないか」

 ジュリアが打開策をひらめく。


「アンタ、コウモリを引き付けてくれるか?」


 あなたが盾を構えて前に進んだ。

 後ろではワラビとジュリアが、蹲るテオを庇うように固まり、さらに狙われないよう体勢を低くしている。

 あなた一人だけが闇に向かって突出したような構え。間もなくしてコウモリが、闇よりあなたに襲い掛かる。


――“燐光(りんこう)は昔日を(しの)び、彼方(かなた)へと想いを寄せる”

  “忘れられぬ貴方よ、(けが)れ、(かえ)らぬ不肖への嬖愛(へいあい)、何よりの幸せ(なり)

  “建酉(けんゆう)の月に宮より参らむ”――


 コウモリが爪や翼であなたを攻め立てるが、盾を構えるあなたがそれらを防ぐ。

 効果ないと悟ったか、コウモリが姿を晦ますべく闇へと逃げる。しかし、その尾をあなたが強引に捕らえ、

「手を重ね、見合えると望み! ――“玉兎(ルミネセンス)”!」

 近付いたジュリアが魔法をコウモリに唱える。


「放していいぞアンタ! あとはあたしに任せてくれ!」


 ワラビに松明を渡したジュリアが、弩の弦を引いて矢を番えた。

 コウモリが闇に逃げる。しかし闇の中では、(きら)めくような淡い光が羽ばたいており、

「暗闇に隠れても、その光があればまる分かりだな!」

 その淡い光に向かってジュリアが矢を放つ。


 玉兎(ルミネセンス)とは、対象を(ほの)かに光らせる魔法である。

 暗い場所でも明かりをとれるように、とジュリアは野営に備えてこの魔法を覚えた。だがこの性質をジュリアは応用し、コウモリに光を付着させた。

 闇に浮かぶ光こそがコウモリの潜む場所。そうしてもう一度矢を放ち、コウモリが地に落ちる音が聞こえる。

 あなたたちはコウモリに勝利した。しかしテオの顔の傷が深く、あなたたちは探索及び男の追跡を諦めて地下牢獄から退いた。


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