9
正直、ユウタのことはよく知らないし、わからない。
何処に住んでいて、本当はどんな仕事をしているのか。
彼女はいるのか。
『ユウタはなんでこの仕事やっているの?』
とはなかなか聞けない。
まあ、聞いても“お金のため”とかそんな感じで返答が返ってくるのだろう。この仕事なら。
だけど、なんとなくそれを聞いてしまうのが少し嫌だった。
こんな不毛な事に頭を悩ませるのが徒労に終わるのは見えているのだけど、
ただこの前一瞬見た、彼の目がなんとなく頭に残っていた。
私は今日も電話をかける。
周りから見たら少し可笑しく思われるのかもしれない。
だけど、そんな事はお構いなしに休みの度に電話をかけてユウタに会った。
彼が断ることは無い。だって仕事だから。
そんな私は五円玉を集めることが癖になっていた。
五円玉を見る度に、本殿の前で深々と頭を下げる彼が浮かんでは消えた。
「ナツの将来の夢はお店を持つこと?」
「うーん。わからない。まだそうゆうイメージが湧かないから。だけど、そう出来たら幸せなのかもしれないとは思う」
人が人のために出来ることなんて限られているけれど
何かをしてあげられるのって私はいいなって思う。
「例えば、通りすがりの人とか、もう会うことない人も一期一会って言うのかな?その中でも何か出来るってすごいと思う。今だってもう二度と戻ってこない瞬間だし、そんな時間を提供してあげられるっていいなって思うんだ」
そう言うとユウタは少し目を見開いた後にゆっくりと笑っていた。
夜風が心地よかった。
二人でいるけど、ほとんど手をつなぐこともない。
キスされたのは最初に会った一回だけ。
曖昧な関係だと思う。
普通だったらもどかしく思うような。
だけど、今の私にはぬるま湯に浸かるようで心地良かった。
「初めて見た。ナツのそんな表情。初めてナツに触れた気がする」
ユウタもすごく穏やかな表情をしていた。
うっすらと遠くから夜の街を眺める。
隣には二人寄り添うカップルの姿があった。私達も端から見るとこう見えるのだろうか。
だけどいつの間にかそんなことはどうでもよくなった。
彼といるのは何となく居心地がいい。
友達でも恋人でもなく兄弟でもない。
名前の無いゆらゆらとした、いつ消えてしまっても可笑しくないような関係。
だから、私が電話する限りはこのままずっと続いていくと思っていたのだけど案外終わりは呆気ない。
「俺、辞めるんだ」




