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お参りを済ませ帰ろうとしたとき、ふと視界の右端に階段が写りこんだ。
「あれって」
私が気付く前にユウタはもうすでに気付いていたようだ。
「行ってみよう」
石階段はコの字を描くように下へと向かっている。
辺りは背の高い木に覆われているので外からは多分中の様子はあまり見えないだろう。
この神社の前は車往来の多い大きな通りになっているが
単に雑木林があるくらいにしか、私だって思わなかった。
「見て、なんかワクワクする」
ユウタが興奮するように、息を弾ませる。
そこには、大きな池の真ん中に赤く小さな社がぽかんと浮かんでいた。
「稲荷神社って書いてるよ?」
「うん。だって狐さまがいるしね」
池の真ん中にむかって、ゆったりと弧を描く様に橋が架けられており、
その橋の入り口の辺りに狐の象が鎮座していた。
「なんだか、雰囲気があるね」
別世界とも言えるかもしれない。
遠くに車通りの音がぼんやりと聞こえるけれど、
目の前に広がる風景からは想像も出来ないような音で
何か、切り離された空間にたたずんでいるような。
「こうゆうのがいいよね。いろんなことから解放されているような感じが」
「悪く言えば、現実逃避ってことでしょ」
「まあ、そうとも言うよね。でも、なんか外界と切り離された空間にいると自分の考えがちっぽけなことに思えるよね。なんでそんな事で悩んでいたんだろうって」
「ユウタって悩む事あるの?」
「ひどいな。人間だよ」
ユウタはすねたように私に顔を向けたが、すぐに大きく息を吸い込み深呼吸をしていた。
彼でも、悩むことがあるんだなとふんわりと私は思った。
いつだって、自由でへらへらと笑っている彼は何を思うのだろうか。
まあ、悩みというかストレスはあるのかもしれない。
今だって彼は仕事中なのだから。
だけど、そうゆう風に考えない限りそれを感じさせない彼はすごいなと
ある意味思っていた。
「神様って本当にいると思う?」
神社に来て彼はこう言うのだ。ではなぜ、わざわざ来たのか。
なんとなく軽口で返そうと彼の方を向くと、
見たことも無いような真剣な表情で私を見つめていた。
「八百萬の神って言うしね。私はいると思うよ。全てのモノに神が宿るって」
「そう言ってくれるのはナツだけだよ。信じるモノは救われる」
彼は呪文のようにそう唱えた。




