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「斉田さんは人生に悩んだりしないんですか?」

私は目の前に置かれたグラスの中の梅をマドラーでぶすぶすと突き刺しながらそう聞いてみた。

「常に悩んでるよ。そんなに悩んだりしない男に見えるのかな」

「そうですね」

そう言うと彼は乾いたように笑った。

でも実際そうなのだ。

いつもスマートになんでもてきぱきとこなし、周りにも微笑んでる彼は悩みなどなさそうというか

読めないタイプに思える。

それでも、恐らく彼は色々考えているのだろうけれども。


「私、これでも結構悩んでたんですよ。色々。仕事のこととか、これからのこととか」

目の前の梅が良い感じにグラスの中に混ざっていたので

横に居る彼を覗いてみた。

「それで、結論が出たの?」

「はい」

「そっか」


「…はい」



※※※


斉田係長はそれ以上、私には何も追求してくることなく

ただ、お酒を飲みながらたわいも無い話をして別れた。

こんな風に彼と話しをしたのはいつぶりだったのだろうと、私はふと思った。

昔はかなりがむしゃらに仕事をしていた。

周囲に迷惑をかけながらも自分なりに結果を出そうと思ってじたばたしていた。

だけど、今の部署に所属されてから

熱が冷めたように、自分のことを遠巻きに見てる第三者のような気分になって仕事をしている自分にいつか気付いてしまった。


少しアルコールの回った頭で家までの帰り道を少し遠回りして帰ってみる。

そういえば、あのチラシを見つけた所にはもうなにもなかった。


今思うと『ユウタ』という人がいたのかどうかも

なんだか遠い夢のように思えてしまった。


係長とは、名前のつく間柄ではない。

あえて言えば『上司と部下』という関係性でしかなくそれ以上でもそれ以下でもないと私は思っている。

その中でも気心が知れていて、ただそれだけ。

だからこそ私が言った後、何も言わなかったのだと思う。

係長はしっかりと『私』と言う人間を見て、評価してくれていた。

だけど、私が憧れてやまないのは『ナツ』なのだ。


シャッターでしまった商店街はしんと静まりかえっていたけれど、近所の人が集まっているのだろうか。

店の上部分にだけシャッターがかけられた飲食店はがやがやと人で賑わい“プリマドーンナ…”と陽気な歌声が聞こえた。

ガラスに映る私は、あの頃の私よりもしっかりと私の目を見ていた。

それがなんだか少しだけ嬉しかった。


だからなのか、その日は久しぶりに夢を見た。

大好きだったおじいちゃんは、私を優しく見ていた。

なぜだかわからないけど、涙が出たところで目が醒めた。


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