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忘れ物は無いかと机の周りを整理していると、佐藤さんは「本当に淋しくなりますね」と顔に似合わないことを言っていた。
だけど、もしかしたらもっと今とは違う結論を私の中で出していたとしたなら、彼女とも今とは違った付き合いもできたのかもしれないなんて今更思ってしまう。少し残念だと。
「ありがとう」
佐藤さんは少し驚いていただけれど、にっこりと笑ってくれていた。
お世話になりました。という言葉と共に、廊下に出る。
「行くの?」
後ろからかけられた声に振り向く。最後に会うのはやっぱり斉田係長だった。
「はい」――私、笑えてますか?
「あっと言う間だね。この間新入社員として来たばかりだったのに。その時は電話ひとつまともにとれなかったのにね」
「はい」
「あっと言う間に大人になったね」
「はい」
「頑張れよ」
「はい…」
ありがとうございます。と言えなかった。まともに声が出なかった。
深々とお辞儀をして斉田係長の足が遠ざかるのを聞いた。
私はこの会社でよかったと思った。
何かを選べば、何かを失うことは分かっているつもりではいたけれど。頭では。
足音が完全に消えるまで、私はお辞儀をやめなかった。
※※※
実は、こうなる前から目をつけていたお店がある。
帰り道の商店街の一番端。
白の煉瓦造りのアンティーク調の壁に店内はモノトーンでまとめたシンプルなお店。
だけど、いつ見てもお店は満席状態。
ある時、求人広告が店の前に貼られているのを見て私は、辞表を出したその日に電話をかけた。
四十代くらいの男性だったと思う。物静かな人なのかと思いきや、かなりのおしゃべり好きのようで面接では根掘り葉掘り。これ以上はもう何も出ないという程の質問攻めにあった。
「接客業なんてしゃべれてなんぼだからね」
おっしゃるとおりなんて思っているもんだから、彼に言い返すことはできない。
不安じゃないと、言ったら嘘になる。
だけど、なんだか自分自身が少しずつだけど変化していくことが、なんだか面白い。
面接が終わって外に出ると、珍しく雪が降っていた。
――もし、今ユウタに会ったなら、彼は私を何と言うだろう。
そう思うと無性に彼に会いたくなった。ふと思い立ちそこから一番近い神社に向かう。
雪は風もなくしんしんと降り続いているからか、神社の屋根はうっすら白く染まりそんな寒い日にわざわざ参拝に来るような人は他に見あたらなかった。
本殿の前で手を合わせお辞儀をする。目を開けてふっと無意識に隣を見てしまう。なんだか今にも隣に彼がいるような気がしてしまう。
――ばかばかしいと思う。両手をコートのポケットにつっこんで足早に立ち去った。そんな気持ちで神社に行った自分が滑稽に思えて仕方が無い。なぜ、そんなことをしたのか自分でも不思議で仕方なかった。




