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今でも時々、ユウタの事を思い出す。
お風呂にぼんやりとつかっている時だとか、
道端に小さな社を見かけたときだとか。
私にも、オーラというものが見えるならば彼は紫色だと思う。
華やかだけど、どこかに影があるような。
昔の人は紫色は高貴な色と認識していたらしい。
今では色で位を分けることなんてほとんどないけれど、
紫色が似合う人は男性でも女性でも
どことなく、他とは違って見えるように感じる。
それが悪い意味ではなく、
放っている空気が違うというか。
今でも私は彼の事をそんな風に思い出していた。
いつもの現実に戻った私は、真っ先に上司に『辞表』を持っていた。
そんな書類を書いたことがない私は
インターネットで検索しながら
手書きで封筒に入れる。
まさか私が辞めるとは思っていなかったのだろう。
特に目立つことなく、文句の一つも言わずこつこつと事務作業にあったていた私が
いきなり書類を持って行ったことに対して
上司や同僚はかなり驚いたらしい。
「加納くん。いきなりどうしたんだね」
上司は目をまんまるとして両手で書類を差し出した私を凝視していた。
「いえ、書類の通りです。引き継ぎは行いますので。大変お世話になりました」
感情を入れることなく静かに答える。
「加納さん。なんかあったの?」
同僚から好奇と様々な感情が入り交じった目で見られながら自分の席に戻ると
隣の席で仕事にあたっている、佐藤さんが可愛らしい表情で私の方をまじまじと見ていた。
「特に何もないよ」
「でも、いきなり辞めるだなんて」
まつげを伏せながら佐藤さんは小さく囁く。
こうゆう女の子がモテるんだろうなと、彼女を見てなんとなく思った。
「やってみたいことがあるんだよね」
「え……」
特に嘘をついている訳ではないし、人に嘘をつくのが私は得意ではない、
だけど、これ以上とやかく言われるのも面倒なので彼女が何か言う前に私は仕事を始めた。
朝のメールのチェックから、昨日、やり残していた書類に目を通して。
「加納さん」
その時にふいに名前を呼ばれた。




