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死体鑑定士、追放されたので魔王の遺体を育てます 〜勇者が殺した魔王を埋めたら、滅びた村に黒い花が咲きました〜  作者: swingout777
第4章 魔王を弔う者

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第34話 魔王の心臓

「勇者カイゼル、保護対象とする」


 白面神官の声が、戦場に響いた。


 その言葉は、あまりにも軽かった。


 けれど、その軽さの中に、この国の本質があった。


 聖女セレナを保護する。


 魔族の子どもを保護する。


 捕虜を保護する。


 反逆思想に触れた者を保護する。


 そして今、勇者を保護する。


 王国にとって、保護とは守ることではない。


 都合の悪い意思を奪うことだ。


 神官兵たちが、カイゼルへ向かって動き出した。


 だが、その足取りは鈍い。


 当然だ。


 彼らの目の前にいるのは、魔王を討った勇者である。


 王都で歓声を浴びた白銀の英雄である。


 昨日までなら、誰もその男に拘束札を向けることなど考えもしなかったはずだ。


 だが、白面神官の命令は止まらない。


「勇者様は、黒花の影響を受けています。聖剣の一時的異常、命令不服従、反逆者の言葉への反応。すべて、保護措置の対象です」


 カイゼルは、光を取り戻しかけた聖剣アステリオスを握っていた。


 その刃は、まだ完全な白銀ではない。


 灰色の中に、黒銀の淡い筋が残っている。


 魔王を殺す剣としてではなく、毒を切る鍵として一度だけ機能した聖剣。


 その刃を見つめながら、カイゼルは低く笑った。


「保護、か」


 声は、乾いていた。


「俺も、檻に入れるのか」


 白面神官は答えない。


 代わりに、神官兵の一人が白い拘束札を構えた。


 その手は震えている。


 カイゼルはその兵士を見た。


「投げろ」


 兵士は動けなかった。


「勇者様……」


「保護するのだろう。投げろ」


 兵士の顔が青ざめる。


 白面神官が苛立った声を出す。


「命令に従いなさい」


 兵士は目を閉じ、拘束札を投げた。


 札は空中を滑り、カイゼルの腕へ向かう。


 だが、その直前でベルクの大盾が割り込んだ。


 札は盾に触れ、白い火花を散らして地面へ落ちる。


「ベルク」


 カイゼルの声が低くなる。


「なぜ止める」


「保護ではないからだ」


 ベルクは大盾を構えたまま答えた。


「それは拘束だ」


「俺は王国の勇者だ」


「なら、なおさら拘束されるべきではない」


「裏切り者のお前が言うのか」


「そうだ」


 ベルクは短く言った。


「裏切り者になったから、ようやく言える」


 その言葉に、カイゼルは何も返さなかった。


 ミレイユがベルクの横に立つ。


「白面神官。今度はカイゼルを汚染扱い? 便利ね。都合の悪い人間が出るたびに、汚染、保護、審問。言葉を変えれば何でもできるの?」


「魔導士ミレイユ。あなたも拘束対象です」


「でしょうね」


 ミレイユは杖を掲げた。


「でも、私はまだ自分の足で立ってる。あなたたちの記録には、そう書いておいて」


 セレナも前へ出る。


 泥と血の跡が残る白い法衣。


 王国の望む聖女ではなく、名前を呼ぶ聖女。


「白面神官」


 彼女の声は静かだった。


「もう、保護という言葉で人を縛らないでください」


「裏切り者の聖女が、教会に説くか」


「はい」


 セレナは迷わず答えた。


「私は裏切り者です。人の名前を消す教会を裏切りました」


 白面神官の仮面の奥で、怒りが膨らんだように見えた。


 そのとき、彼はゆっくりと片手を下げた。


 神官兵たちの動きが止まる。


 白面神官は、カイゼルの拘束をいったん諦めたようだった。


 だが、それは引いたのではない。


 次の手へ移っただけだ。


「よろしい」


 白面神官は言った。


「勇者様の保護は後回しにします」


 カイゼルの眉が動く。


「後回し?」


「はい。優先すべき目的がございます」


 白面神官は黒花の村を見た。


 その視線は、リュシアでも、セレナでも、俺でもなく、共同畑の中央へ向いていた。


 魔王ゼルグレイスの墓。


 黒曜花が最初に咲いた場所。


「魔王の心臓を回収します」


 その言葉に、リュシアの顔から血の気が引いた。


 黒曜花が、一斉にざわめく。


 俺の胸にも、冷たいものが落ちた。


 魔王の心臓。


 王国が最初から狙っていたもの。


 王都魔道炉の永久核。


 聖剣強化。


 不死兵団。


 世界を支えていた楔の中心。


 それを、まだ諦めていなかったのだ。


 白面神官は続けた。


「黒曜花を焼却する必要はありません。根部汚染も失敗しました。ならば、核を取ればよい」


「核……」


 リュシアの声が震える。


「父の心臓を、まだ素材と呼ぶのですか」


「魔王の心臓は、王都を救う可能性を持つ唯一の資源です」


「資源ではありません!」


 リュシアが叫んだ。


 その声は、これまでで一番激しかった。


「それは、私の父の心臓です!」


 白面神官は、何も感じていないように答えた。


「魔王の、です」


 その言い方を、俺は何度も聞いた。


 魔王の遺体。


 魔王の血。


 魔王の心臓。


 魔王の。


 その一言で、人ではないものにする。


 父ではないものにする。


 死者ではなく、素材にする。


 リュシアは震えていた。


 セレナが彼女の背中に手を添える。


 グランが境界鍬を握りしめ、低く唸った。


「墓荒らしどころの話じゃねえな」


 ベルクは白面神官を見据える。


「魔王の心臓を取れば、黒曜花はどうなる」


「黒曜花の制御が失われます」


 白面神官は淡々と答えた。


「その後、王国管理下で再培養を試みます」


「村は」


「必要なら放棄」


「水脈は」


「王都を優先します」


「死者の記憶は」


「不要です」


 不要。


 その言葉で、黒曜花の花びらが震えた。


 まるで、死者たちが一斉に息を呑んだようだった。


 俺は魔王の墓を見た。


 心臓。


 そう言われて、初めて考えた。


 魔王ゼルグレイスの心臓は、今どこにあるのか。


 カイゼルに聖剣で貫かれた。


 その遺体を俺たちは棺に納め、アシュベルの共同畑へ埋葬した。


 黒曜花が咲いた。


 井戸が戻った。


 水脈が再起動した。


 古代循環碑が現れた。


 なら、心臓はまだ遺体の中に臓器として残っているのか。


 それとも、黒曜花の根に変わったのか。


 俺は膝をつき、魔王の墓の土に手を触れた。


 リュシアが息を呑む。


「レインさん」


「読む」


 俺は目を閉じた。


 土の中。


 黒曜花の根。


 魔王の遺体。


 その中心へ、鑑定を伸ばす。


 深い。


 これまでの鑑定とは違う。


 ただの死体ではない。


 ただの臓器でもない。


 世界の魔力毒を受け続けた王。


 その遺体が、土地と水脈と死者の記憶に溶け込みながら、別の形へ変わっている。


 視界に、ゆっくりと文字が浮かんだ。


【対象:魔王ゼルグレイスの心臓部】


【状態:死亡臓器としての形状、崩壊済み】


【現在状態:黒曜花根部循環核】


【分類:臓器ではなく、世界楔核】


【接続先:魔王遺体、黒曜花群、アシュベル水脈、旧リーベル水脈、王国西部地下魔力脈、古代循環碑】


【役割:魔力毒受容、死者記憶保持、浄化循環、土地再生】


【摘出可否:不可】


【摘出時結果:黒曜花群枯死、水脈再停止、魔力毒逆流、死者記憶崩壊、魔王遺体損壊】


【注意:心臓は、もはや一つの臓器ではない。村と水脈と死者の記憶に分散している】


 俺は、息を吐いた。


 白面神官の言う魔王の心臓は、もうない。


 いや、ある。


 あるが、それは臓器として取り出せるものではない。


 黒曜花の根。


 井戸の水。


 共同畑の土。


 死者の灯。


 古代循環碑。


 そのすべてに分かれている。


 魔王の心臓は、この村そのものになり始めていた。


「レイン」


 カイゼルが低く呼んだ。


「何が見えた」


 俺は顔を上げた。


 白面神官も、王国兵も、黒花の村の者たちも、全員が俺を見ている。


「魔王の心臓は、もう臓器じゃない」


 俺は言った。


「黒曜花根部循環核。世界楔核。魔王の遺体と黒曜花、アシュベルの水脈、リーベルの水脈、王国西部の魔力脈、古代循環碑につながっている」


 白面神官が声を上げる。


「反逆者の妄言だ」


「摘出は不可」


 俺は続けた。


「摘出すれば、黒曜花は枯れる。水脈は止まる。魔力毒が逆流する。死者の記憶は崩壊する。魔王の遺体も壊れる」


「それは、黒花側に都合のよい鑑定です」


「都合が悪いから信じないのか」


「死体鑑定士の言葉に、王国が従う必要はない」


 白面神官は神官兵へ合図した。


「掘削班、前へ」


 王国軍の後方から、黒い鉄の道具を持った兵士たちが出てくる。


 普通の鍬やつるはしではない。


 魔力で土を掘り返すための掘削具。


 その先端には、聖油が塗られている。


 墓を掘るためではない。


 墓を暴くための道具だ。


 リュシアが魔王の墓の前に立った。


「近づかないでください」


 白面神官は言う。


「魔王の娘リュシア。そこをどきなさい。あなたには、心臓部回収後、血族反応確認のため同行してもらいます」


「同行?」


「保護です」


 その言葉に、リュシアの瞳が冷たくなった。


「私は、もうその言葉を信じません」


 彼女は両手を広げ、黒曜花の前に立つ。


「父の心臓は、あなたたちの炉に入れるためのものではありません。父の心臓は、ここで死者を覚え、水を巡らせ、畑を生かしています」


「魔王の心臓で王都を救えるなら、それが正しい使い道です」


「違います」


 リュシアの声は震えていなかった。


「王都が救われるべきだとしても、父の心臓を奪っていい理由にはなりません」


 セレナがリュシアの隣に立つ。


「私も同じです」


 白面神官が仮面を向ける。


「裏切り者の聖女が、王都の民を見捨てるか」


「見捨てません」


 セレナは答えた。


「だからこそ、心臓を奪う方法ではなく、循環を戻す方法を探します」


「悠長なことを」


「死者を素材にする国が急いだ結果、王都は枯れたのです」


 ミレイユが杖を掲げる。


「王都魔道炉を止めずに、毒だけこっちへ押しつけるつもりなら、何度でも同じことになるわ」


 ベルクも大盾を構える。


「魔王の心臓を奪えば、村も王都も救えない」


 白面神官は吐き捨てるように言った。


「汚染された者たちの理屈だ」


「違う」


 カイゼルの声がした。


 全員が彼を見る。


 カイゼルは聖剣を握っていた。


 まだ刃は完全には戻っていない。


 だが、先ほど毒を切ったときの黒銀の光が、かすかに残っている。


「少なくとも、聖剣は毒を切った」


 彼は低く言った。


「魔王の心臓を斬らずに、毒だけを切った」


 白面神官が即座に言う。


「勇者様は一時的に黒花の影響を」


「黙れ」


 カイゼルの声が、戦場を切った。


 白面神官が言葉を止める。


「俺はまだ、黒花の村を認めたわけじゃない」


 カイゼルは俺たちを見た。


「レイン、お前を許したわけでもない。魔王ゼルグレイスを正しいと認めたわけでもない」


 リュシアの表情がかすかに痛む。


 だが、カイゼルは続けた。


「だが、あの箱は違う」


 彼は封印輸送箱を指した。


「俺の知らないところで、魔王の血を凱旋聖血などと呼び、死者を混ぜ、王都の毒を詰めた。そんなものを勇者の戦場へ持ち込んだ」


 白面神官が冷たく言う。


「王国のためです」


「違う」


 カイゼルは言った。


「王国の記録のためだ」


 その言葉に、王国兵たちがざわめく。


 カイゼル自身が、白面神官の言葉を否定した。


 勇者が、王国の記録を疑った。


 それは、凱旋の終わった勇者が初めて踏み出した、一歩だったのかもしれない。


 白面神官はしばらく黙っていた。


 やがて、低く笑った。


「勇者様。残念です」


 その声から、敬意が消えた。


「あなたは、もう象徴として使えない」


 カイゼルの目が細くなる。


「本音が出たな」


「本音ではありません。判断です」


 白面神官は神官兵へ合図した。


「勇者カイゼルを拘束。黒花の村へ同調した危険人物として処理する」


 王国兵たちが動揺する。


「勇者様を?」


「本当に?」


「そんな命令……」


 白面神官は叫ぶ。


「聖教会権限である! 従わぬ者は反逆と見なす!」


 神官兵の一部がカイゼルへ向かう。


 だが、王国兵たちは動けない。


 勇者を捕らえる。


 その命令は、彼らにとっても耐えがたいものだった。


 カイゼルは予備剣を構えた。


 だが、同時に聖剣を握る手が震えている。


 敵は黒花の村だけではなくなった。


 王国の内部が、彼を切り捨てようとしている。


 ベルクが一歩前に出た。


「カイゼル」


「何だ」


「今なら、下がれる」


「俺に黒花の村へ入れと言うのか」


「少なくとも、白面神官に拘束されるよりはましだ」


 カイゼルは苦く笑った。


「敵の村へ逃げ込む勇者か」


「もう凱旋は終わった」


 ベルクの言葉に、カイゼルは目を伏せた。


 痛いほどの沈黙。


 ミレイユが言う。


「カイゼル。今だけは意地を張らないで。あなたが捕まったら、王国は全部あなたのせいにするわ」


「俺のせいだろう」


「全部ではない」


 セレナが静かに言った。


「あなたが選んだ罪はあります。でも、あなたに背負わせて隠そうとしている罪もあります」


 カイゼルはセレナを見る。


「俺を許すのか」


「まだ許せません」


 セレナははっきり言った。


「でも、あなたを素材にする王国を見過ごすこともできません」


 カイゼルは、わずかに目を見開いた。


 素材。


 その言葉が、彼に刺さったのだろう。


 魔王の血。


 死者の結晶。


 兵士の遺体。


 そして勇者の凱旋。


 すべてが、王国のための素材にされる。


 彼も例外ではなかった。


 神官兵の拘束札が飛ぶ。


 ベルクの盾が受け止める。


 ミレイユが青い光で札を焼かずに弾く。


 グランが境界鍬で地面を叩き、黒花の村境界に一か所だけ隙間を作った。


 リュシアが黒曜花へ手を添える。


「攻撃意思のない者を拒みません」


 境界が淡く開く。


 道ができた。


 黒花の村の内側へ。


 カイゼルはその道を見た。


 ほんの数歩。


 だが、その数歩は、彼にとって王都から魔王城までの旅より遠いのかもしれない。


 勇者が、黒花の村へ入る。


 魔王の墓がある村へ。


 自分が殺した魔王の娘が守る村へ。


 裏切り者の聖女がいる村へ。


 死者の名前が呼ばれる村へ。


 カイゼルは歯を食いしばった。


「俺は……」


 そのとき、白面神官が叫んだ。


「魔王の心臓を守る者は、全員反逆者だ! 掘削班、進め!」


 掘削具を持った兵士たちが、強引に前進を始める。


 耳を塞ぐ魔道具をつけ、視界を下げ、命令だけを聞く兵士たち。


 彼らはリュシアを見ない。


 黒曜花を見ない。


 魔王の墓を見ない。


 ただ、掘るために来る。


 俺は魔王の墓へ駆け戻った。


 リュシアが墓の前に立つ。


 セレナも隣に立つ。


 カイゼルは、まだ境界の外にいる。


 その手が聖剣を握っている。


 俺は彼へ叫んだ。


「カイゼル!」


 彼がこちらを見る。


「魔王の心臓を奪わせたくないなら、来い!」


 その言葉に、彼の顔が歪んだ。


「俺に、魔王の墓を守れと言うのか」


「そうだ!」


「俺は魔王を殺した勇者だぞ!」


「なら、今度は殺した相手の心臓を素材にされないよう守れ!」


 戦場が静まり返った。


 自分で言って、なんて残酷なことを言っているのかと思った。


 だが、これ以外に言葉はなかった。


 カイゼルが魔王を殺した。


 その事実は消えない。


 だからこそ、魔王の心臓を二度殺させないために、彼が立つ意味がある。


 カイゼルは、長く沈黙した。


 やがて、一歩を踏み出した。


 黒花の村境界が、彼の足元で揺れる。


 拒むかと思った。


 だが、境界は彼を弾かなかった。


 攻撃意思。


 殺意。


 憎悪。


 それらはまだ彼の中に残っている。


 けれど今この瞬間、魔王の心臓を守ろうとする意思が、確かにあった。


 黒曜花は、それを読んだのかもしれない。


 カイゼルは黒花の村へ入った。


 王国兵たちがどよめく。


 白面神官が怒鳴る。


「勇者カイゼル、完全汚染!」


 カイゼルは振り返らなかった。


 彼は俺たちの前に立った。


 リュシアの少し横。


 魔王ゼルグレイスの墓の前。


 その位置に立った。


 リュシアは彼を見た。


 父を殺した男。


 カイゼルも彼女を見た。


 自分が殺した魔王の娘。


 二人の間に、言葉はない。


 許しなど、まだない。


 だが、カイゼルは聖剣を構えた。


 刃は、今度は王国軍へ向いている。


「魔王の心臓は」


 彼は低く言った。


「まだ、王国には渡さない」


 まだ。


 その一言に、彼の迷いも、未熟さも、すべて残っていた。


 それでも十分だった。


 今この瞬間だけは。


 俺の視界に、鑑定結果が浮かぶ。


【対象:魔王ゼルグレイスの心臓部】


【状態:黒曜花根部循環核】


【防衛意思:形成】


【構成:墓守リュシア、死体鑑定士レイン、名呼びの聖女セレナ、盾騎士ベルク、魔導士ミレイユ、黒花の村、勇者カイゼル】


【注意:勇者カイゼルの意思、不安定】


【未来価値候補:魔王の心臓を素材から循環へ戻す戦い】


 魔王の心臓を素材から循環へ戻す戦い。


 それが、今始まった。


 白面神官は怒りに震えながら、全軍へ命じた。


「墓を暴け! 心臓を奪え!」


 掘削班が迫る。


 王国兵が続く。


 神官兵が札を構える。


 だが、黒花の村の前には、もう一つの防衛線ができていた。


 父を守る娘。


 死者を読む鑑定士。


 名前を呼ぶ聖女。


 守るものを選び直した盾騎士。


 照らす魔導士。


 鍬を構える鍛冶屋。


 水を運ぶ村人たち。


 そして、凱旋を終えた勇者。


 魔王の心臓は、もう一つの臓器ではない。


 この村に流れる水であり、土であり、花であり、死者の名前であり、生者の明日だった。


 だからこそ、奪わせるわけにはいかなかった。


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