第22話 枯れる王都、咲く廃村
王都の噴水が止まった。
それは、ほんの小さな異変だった。
王城前広場の中央にある白大理石の噴水は、百年以上、一度も枯れたことがないと言われていた。
水は魔道炉から送られる循環魔力によって汲み上げられ、いつでも清らかに流れ続ける。
王都の豊かさの象徴。
王国の技術力の証。
そして、勇者が守るべき平和な世界の風景。
その噴水が、朝から沈黙していた。
「点検中らしいぞ」
「魔道管が詰まっただけだって」
「昨日の夜、魔道灯も少し暗かったよな」
「魔王を倒したばかりで、結界を張り直しているんだろう」
広場に集まった人々は、不安を笑いで隠すように話していた。
だが、誰も噴水へ近づかなかった。
水の出ない噴水の底には、薄く黒ずんだ泥が残っていた。
普段なら清掃係がすぐに片づける。
だが、今日は誰も来ない。
泥の表面に、小さな泡が浮かんでは消えている。
それは腐った水の泡ではなかった。
魔力毒の泡だった。
王都の地下深く。
王城のさらに下にある魔道炉管理区画では、警報の赤い光が点滅していた。
巨大な円形炉の中心で、青白い魔力炎が揺れている。
いつもなら均等に回転しているはずの魔力環が、今は何度も軋むように乱れていた。
炉壁に刻まれた古い術式が、一部黒く変色している。
研究員たちは走り回り、制御盤へ魔石を差し込んでいた。
「第三循環路、圧力低下!」
「南区画の水脈魔力が逆流しています!」
「魔力毒濃度、昨日の二倍です!」
「浄化結晶を追加しろ!」
「足りません! 王都結界へ回す分も不足しています!」
怒号が飛び交う中、王立魔道研究院長ドルトンは、顔色を悪くして数値板を見つめていた。
その隣には、宰相グラウスが立っている。
彼は表情を崩さない。
だが、指先だけがかすかに机を叩いていた。
「予測より早いな」
グラウスが言った。
「魔王ゼルグレイス死亡後、魔力毒の流入量が急上昇しています」
ドルトンは額の汗を拭った。
「やはり、魔王は魔族領だけでなく、王国側の魔力毒も吸収していた可能性が高い」
「その言い方はやめろ」
「ですが、事実です」
「事実でも、言葉には順序がある」
グラウスは冷たく言った。
「魔王が王国を守っていた、などという表現は絶対に使うな」
「では、どう表現すれば?」
「魔王の死により、魔力環境が一時的に不安定化した」
「一時的に、ですか」
「そうだ」
「このままでは一時的では済みません」
ドルトンは制御盤を指した。
「王都の魔道炉は、外部から流れ込む魔力毒を完全には処理できません。これまでは魔王領側で濾過されていた。それがなくなった今、王都の地下水脈にも毒が入り始めています」
「だから魔王の遺体が必要だった」
グラウスの声が低くなる。
「心臓だけでも回収できていれば、炉の核にできた」
「黒花の村に埋められました」
「分かっている」
グラウスは研究員が広げた地図を見る。
王都。
王国西部。
アシュベル。
そこから広がる黒い線。
黒曜花の反応域だ。
昨日までは小さな点に過ぎなかった黒い反応が、今朝には周辺の森と旧水路にまで広がっている。
それに対し、王都周辺の魔力反応は明らかに低下していた。
まるで、王都から失われた命が、遠い廃村で芽吹いているように見える。
ドルトンが呟く。
「不思議です。黒曜花は魔力を奪っているのではなく、毒を分解して循環させているように見える。王都の炉とは方式が違う」
「違うとは?」
「王都の炉は、死者や魔石から魔力を取り出し、消費します。黒曜花は、死者の残した魔力を土地へ戻している。消費ではなく循環です」
「詩人のようなことを言うな」
「研究者としての見解です」
「なら研究者として、黒曜花を王都の管理下へ置く方法を考えろ」
グラウスは地図のアシュベルを指で叩いた。
「廃村一つに、王都の未来を左右させるわけにはいかない」
「しかし、無理に焼けば循環が崩れる可能性があります」
「焼けと言っているのではない。必要なら根ごと移植する。墓を掘り返してでもな」
「魔王の遺体ごと?」
「当然だ」
ドルトンは一瞬、言葉を失った。
「黒曜花は遺体と強く結びついています。無理に切り離せば、魔力毒が一気に噴き出す恐れがある」
「では、丁寧に掘れ」
「遺体です」
「魔王の、だ」
その言葉を聞いた瞬間、ドルトンは自分が以前、同じ言い方をしたことを思い出した。
魔王の、です。
人ではありません。
あのときは、それで済むと思っていた。
だが、今は黒曜花の反応を見てしまっている。
土壌回復。
水脈回復。
毒の分解。
死者記憶の保持。
研究者として、その現象を単なる魔王素材とは呼びきれなくなっていた。
「宰相閣下」
「何だ」
「黒曜花を破壊すれば、王都だけでなく王国全土の魔力循環に影響が出るかもしれません」
「ならば、なおさら王国の管理下へ置く必要がある」
「黒花の村と交渉する選択肢は」
その瞬間、グラウスの目が冷たく細められた。
「ない」
「ですが」
「あの村は指名手配済みだ。王国の布告により、魔王復活派拠点と認定された。交渉すれば、王国が反逆者と対等に話すことになる」
「実際には、反逆者ではない可能性も」
「可能性では国を治められない」
グラウスは地図から手を離した。
「王都が枯れ始めている。この事実が民に広がれば、魔王討伐そのものが疑われる。勇者の功績が、王国の正統性が揺らぐ」
「では、民には何と?」
グラウスは迷わなかった。
「黒花の村が王都の魔力を奪っている」
ドルトンは息を呑んだ。
「それは事実ではありません」
「民に必要なのは事実ではなく、分かりやすい敵だ」
グラウスは背を向ける。
「布告を追加する。王都の噴水停止、魔道灯低下、温室枯れの原因は、黒花の村による魔王魔力の汚染拡大である、と」
「そんなことをすれば、黒花の村への憎悪が」
「それが必要だ」
グラウスは扉へ向かいながら言った。
「廃村が咲き、王都が枯れる。その意味を民に考えさせるな。考える前に、恐れさせろ」
扉が閉じる。
ドルトンは一人、魔道炉の前に残された。
炉の青白い炎が、また大きく揺れる。
その奥に、黒い筋が走った。
ドルトンは制御盤に手を置き、低く呟いた。
「死者を燃やしてきた炉が、死者の花に負けるのか」
答える者はいなかった。
同じころ、アシュベルでは朝の水汲みが始まっていた。
井戸の水は、昨日より少しだけ多くなっていた。
桶を下ろすと、澄んだ音が返ってくる。
十年枯れていた井戸とは思えないほど、冷たい水だった。
エナが水を汲み上げると、ミトとリナが小さな桶へ分ける。
サナは弟妹たちと並んで、水を運ぶ手伝いをしていた。
逃げてきた捕虜たちも、まだ体力は戻っていないが、座ったまま野菜の種を選別している。
村人は増えた。
正確には、まだ村人とは呼べない者も多い。
リーベル村の混血女性リーネ。
老人のオルド。
魔族の青年ジグ。
衰弱した少年カイ。
それぞれ、戻る場所を失いかけている。
まだアシュベルに住むと決めたわけではない。
それでも、彼らは黒花の村で朝を迎えた。
それだけで、村の空気は変わっていた。
「水、こんなに使っていいの?」
リーベル村の少年カイが、遠慮がちに尋ねた。
彼は焦げた木馬の持ち主だ。
まだ痩せた顔をしているが、目には少しだけ光が戻っている。
ミトが胸を張って答えた。
「いいんだよ。ここは水を分ける村だから」
「水を分ける村……」
カイはその言葉を、確かめるように繰り返した。
「リーベルでも、そうだった」
老人オルドが言った。
「井戸の水は皆で分けた。魔族の子にも、人間の子にもな」
バルザが杖をつきながら近づく。
「なら、リーベルとアシュベルは親戚のようなものだな」
「親戚?」
「水を分けた村同士だ」
オルドは少しだけ笑った。
「悪くない」
共同畑では、黒曜花がさらに数を増やしていた。
だが、無秩序に広がっているわけではない。
境界鍬で刻んだ線の内側を中心に、まるで畑の畝を尊重するように咲いている。
黒い花の間からは、緑の芽が少しずつ顔を出していた。
アシュベル麦。
九年眠っていた種。
その芽が、昨日よりも明らかに伸びている。
俺は膝をつき、土に触れた。
鑑定を発動する。
【対象:アシュベル共同畑】
【状態:初期再生段階】
【水分:安定】
【魔力毒濃度:低下中】
【発芽反応:増加】
【黒曜花根部:住居区、旧水路、村境界へ拡張】
【未来価値候補:避難民共同畑】
避難民共同畑。
また新しい未来価値が見えた。
廃村だった場所が、逃げてきた者たちの畑になる。
それは希望だ。
だが、同時に重い。
人が増えれば、水も食料も寝床も足りなくなる。
王国からの圧力も強まる。
指名手配された村に来る者が増えるほど、危険も増える。
それでも、黒曜花の根は広がっていた。
守るべきものが増えるほど、根は広がる。
その鑑定結果を、俺は思い出す。
「レインさん」
リュシアが隣に来た。
彼女は朝からずっと黒曜花の根を見ていた。
顔には疲れがある。
昨夜からほとんど眠っていない。
「少し休んだ方がいい」
「レインさんもです」
「俺は寝た」
「椅子に座って目を閉じただけでは、寝たとは言いません」
「君も似たようなものだろ」
リュシアは少しだけ笑った。
その笑みは柔らかいが、どこか儚い。
父の墓に咲く花が、村を支えれば支えるほど、彼女の中の責任も重くなっているようだった。
「黒曜花が、また広がっています」
「ああ。住居区にも根が伸びている」
「夜の間に、リーベル村から来た方たちの寝ている家の床下まで届いていました」
「守ろうとしているのか」
「たぶん」
リュシアは共同畑を見つめる。
「父は、生きていたころもこうやって、知らないうちに誰かを守っていたのでしょうか」
「昨日の記憶では、そうだった」
「私は、それを知らなかった」
「今、知った」
リュシアは静かに目を伏せた。
「知ってしまうと、父の墓をこの村だけのものにしていいのか分からなくなります」
「どういう意味だ」
「リーベルの死者も、黒曜花を望んでいました。逃げてきた人たちも、黒曜花を見て安心していました。父の墓は、もう私だけが守るものではなくなっています」
その声には寂しさがあった。
父を失い、墓だけでも守ろうとした。
その墓が、今度は多くの人の希望になっていく。
それは誇らしいことでもあり、娘としては少し寂しいことでもあるのだろう。
「リュシア」
「はい」
「墓守は、墓を独り占めする仕事じゃないんだろ」
彼女は驚いたように俺を見た。
「誰かが覚えていられるように守る仕事だと、俺は思っている」
「……はい」
「なら、覚える人が増えるのは、悪いことじゃない」
リュシアはしばらく黙っていた。
やがて、小さく頷く。
「そうですね。父は、忘れられないのではなく、いろんな人に違う形で覚えられていくのかもしれません」
黒曜花が風に揺れた。
まるで、その言葉に応えるように。
そのとき、村の入口から声がした。
「レイン!」
ノアだった。
杖をつきながら、かなり慌てた様子でこちらへ来る。
「街道の方に人影がある。たぶん、旅商人だ」
「旅商人?」
「一人だけじゃない。荷車が一台。王国の告示札を見たのか、村の前で止まってる」
俺とリュシアは顔を見合わせた。
指名手配された直後に、旅商人。
偶然とは限らない。
罠かもしれない。
通報目当てかもしれない。
俺たちは村の入口へ向かった。
そこには、古い荷車を引いた中年の男が立っていた。
肩には商人の布袋。
荷車には干し豆、塩、古い布、釘、壊れた鍋、使い古しの道具類が積まれている。
武装はしていない。
だが、目は油断なく周囲を見ていた。
男は境界線の手前で足を止めていた。
黒花の村の布が、入口で風に揺れている。
黒い炭で描かれた不格好な花の印。
男はそれを見て、苦笑した。
「本当に看板を出しているとはな」
「誰だ」
俺が尋ねると、男は帽子を取った。
「旅商人のロズだ。昔、アシュベルにも何度か来た」
バルザが後ろから声を上げる。
「ロズか?」
男は老人を見て、目を細めた。
「バルザ爺さん、生きてたか」
「そっちこそ、まだ荷車なんぞ引いとるのか」
「商人は足が折れるまで商人だ」
どうやら知り合いらしい。
それでも、警戒は解けない。
「王国の布告を見たはずだ」
俺は言った。
「この村に水や食料を与えれば処罰される」
「見た」
「なら、なぜ来た」
「商人だからだ」
ロズは荷車を軽く叩いた。
「物が必要な場所へ行く。昔からそうしている」
「報奨金目当てかもしれない」
「そう思うなら、俺を入れなきゃいい」
彼は平然と言った。
「だがな、黒花の村とやら。王都じゃ噴水が止まった。魔道灯も暗くなった。温室の薬草が枯れ始めた。なのに、この廃村では井戸が戻り、畑に芽が出たという噂が流れている」
「噂が?」
「ああ。王国は、黒花の村が王都の魔力を奪っていると布告している」
ノアが顔をしかめる。
「やっぱり、そう来たか」
「民は怖がっている。だが、怖がる者ばかりじゃない」
ロズは荷車の布をめくった。
中には、食料だけでなく、古い種袋や道具が積まれていた。
「王都が枯れるなら、咲いている場所を見たいと思う者もいる。水を分ける村があるなら、そこに希望を見る者もいる」
「この村に関われば危険だ」
「危険じゃない商売なんぞ、そう多くない」
グランが後ろで笑った。
「気に入った」
「そっちの鍛冶屋は指名手配されてたな」
「有名になったもんだ」
ロズは肩をすくめる。
「俺は水を売りに来たんじゃない。塩と種と釘を交換しに来た。こちらが欲しいのは、黒曜花の花びらじゃない」
リュシアの目が鋭くなる。
ロズはすぐに両手を上げた。
「誤解するな。花は持っていかない。俺が欲しいのは、水だ」
「水?」
「荷車の奥に、枯れた村の種がある」
彼は古い種袋を取り出した。
「リーベル、ノーラ、ハーグ。どこも魔力毒で畑を失った村だ。種だけ預かっていた。もう蒔く場所がないとな」
種袋は古く、ところどころ破れていた。
俺はその一つに触れる。
【対象:ノーラ村の豆種】
【状態:休眠、発芽可能性低】
【必要条件:浄化水、毒性低下土壌】
【未来価値候補:避難民共同畑の多種栽培】
発芽可能性は低い。
だが、ゼロではない。
「生きている」
俺が言うと、ロズの目が少しだけ変わった。
「分かるのか」
「死にかけだからな」
「変な鑑定士だ」
「よく言われる」
ロズは種袋を差し出した。
「買うか」
「金はない」
「水と交換でいい」
「王国に処罰されるぞ」
「それは俺の勘定だ」
商人は笑った。
「ただし、ひとつ条件がある」
「何だ」
「この村が本当に水を分ける村なら、いずれ人が集まる。逃げてきた者、追い出された者、枯れた村の者。そいつらが来たとき、門前払いするな」
「できる保証はない」
「保証はいらん。方針を聞いている」
俺は村の入口に掲げられた黒い花の布を見た。
黒花の村。
死者を素材にしない村。
名前を聞く村。
水を分ける村。
昨日、そう名乗ったばかりだ。
その言葉を、もう試されている。
「攻撃しに来た者は入れない」
俺は答えた。
「奪いに来た者も止める。でも、逃げてきた者には名前を聞く。水も、できるだけ分ける」
ロズは頷いた。
「なら、取引成立だ」
彼が境界線を越える。
黒花の村境界が淡く光った。
拒まない。
ロズはそれを見て、少しだけ目を丸くした。
「本当に妙な村だな」
「今さらだ」
荷車が村へ入ると、子どもたちが集まってきた。
塩。
釘。
布。
種。
どれも、今のアシュベルには貴重だった。
代わりに、村は井戸水を分けた。
ロズは水を一口飲み、目を閉じる。
「……うまい」
「ただの水だ」
ミトが言うと、ロズは首を振った。
「ただの水が一番高くなる時代が来るかもしれん」
その言葉は冗談に聞こえなかった。
王都の噴水が止まった。
王国が黒花の村を悪者にした。
これから水を求める者は増える。
水を奪いに来る者も。
水を分けてほしいと願う者も。
アシュベルは、そのすべてと向き合わなければならない。
夕方、ロズが村を出る前に、俺は彼に尋ねた。
「王都の状況は本当に悪いのか」
「悪い」
彼は短く答えた。
「金持ちはまだ魔石を買える。だが、下町じゃ魔道灯が消え始めた。井戸水が濁った地区もある。薬草温室が枯れれば、病人が増える」
「王国は黒花の村のせいにしている」
「ああ」
「民は信じているのか」
「信じたい者は信じる。怖いからな」
ロズは荷車の綱を握った。
「だが、噴水が枯れた王都と、花の咲いた廃村。どちらが本当におかしいのか、考え始める者もいる」
「考える者は危険だろう」
「だから俺は足が速い」
商人は笑った。
「次に来るときは、もっと種を持ってくる。来られれば、だが」
「無理はするな」
「商人にそれを言うな」
ロズは荷車を引いて、街道へ戻っていった。
その背中を見送りながら、俺は胸の中に重いものを感じていた。
王都は枯れ始めている。
廃村は咲き始めている。
その事実が広まれば、王国はますます黒花の村を憎ませようとするだろう。
だが同時に、ここを目指す者も増える。
アシュベルは、もう隠れた廃村ではない。
指名手配された避難地だ。
夜になると、共同畑に新しい種が蒔かれた。
リーベルの種。
ノーラの豆。
ハーグの根菜。
どれも生き残れるか分からない。
俺はひとつずつ鑑定し、まだ眠っている種を選んだ。
子どもたちが小さな指で土をかける。
リュシアが黒曜花に許可を求める。
セレナは教会の祈りではなく、種を持ってきた村の名前を呼んだ。
「リーベル」
「ノーラ」
「ハーグ」
それは、死者の名前ではなく、枯れた村の名前だった。
だが、黒曜花は静かに光った。
まるで、村にも弔いが必要だと言うように。
俺の視界に鑑定結果が浮かぶ。
【対象:避難民共同畑】
【状態:複数村由来種子、初回播種】
【発芽可能性:不明】
【必要要素:水、土、記憶、守る意思】
【未来価値候補:枯れた村々の再出発点】
枯れた村々の再出発点。
黒花の村の未来が、また一つ重くなった。
王都は枯れ始めた。
廃村は咲き始めた。
その二つの事実が、王国の嘘を照らし始めている。
黒曜花は夜の中で静かに揺れた。
死者の花の周りで、生きている者たちが種を蒔く。
王都の魔道灯が暗くなっていくころ、アシュベルの畑には、小さな希望がまた一つ埋められた。




