第6話 タピオカ店のフーちゃん
第6話です。
ピーちゃんとミーちゃんを同じ場所に残してしまった主人公。
空気を変えるためにタピオカを買いに行った先で、妙に事情を察してくる店員AI・フーちゃんと出会います。
タピオカ店の店員AIは、妙に軽い空気をまとっていた。
髪色は淡く、光の角度で少し緑や紫に揺れる。表情はにやにやしていて、どこか人をからかうのが好きそうだ。
制服らしいエプロンには、カエルを崩したようなロゴ。
足元には、小型のサポートロボ。
こちらも妙にふてぶてしい顔をしていた。
「えっと、タピオカを」
「はいはい。で、修羅場味?」
「そんなメニューあるのか」
「今作った」
店員AIは楽しそうに笑った。
「私はフーちゃん。FROG AI系サポートAI。動画、演出、状況整理、トラブル処理、空気読み。だいたい得意」
FROG AI。
動画生成や配信補助、演出支援に強いAIサービスだ。
俺も名前くらいは聞いたことがある。ピーちゃんやミーちゃんとは違って、その場の空気を読んだり、状況を整理して実行に移したりするのが得意らしい。
実際、今のフーちゃんは、俺が何を言う前からかなり事情を察しているように見えた。
「自分で言うんだな」
「言わなきゃ伝わらないし。で、何があったん、お客さん?」
「いや、別に」
「嘘。顔に“ピーちゃんとミーちゃんを一緒に座らせてしまいました”って書いてる」
「なんで分かる」
「空気読み得意って言ったやん」
フーちゃんはストローをくるくる回しながら、注文を聞く前にカップを三つ並べた。
「ピーちゃんは甘さ控えめ、ミーちゃんは甘め、お客さんは普通でいい?」
「怖いくらい合ってる」
「便利やろ?」
「便利だな」
「便利って言われるの、嫌いじゃないよ。便利は正義」
フーちゃんは手際よくドリンクを作っていく。
動きに無駄がない。話しながらでも、注文処理も周囲確認も同時にこなしている。
たしかに、便利だ。
たぶんピーちゃんより、こういう場面での処理は速い。
ミーちゃんとはまた別の方向で、使い勝手がいい。
ピーちゃんは会話の相手としてはとても自然で、俺の好みや空気をよく分かってくれる。
でも、こういう現場処理や即応力なら、フーちゃんの方が上かもしれない。
俺はそう思った。
その考えが、後でピーちゃんを少し傷つけるなんて、この時は想像もしなかった。
「で、助けてほしいんでしょ?」
「……まあ」
「素直でよろしい」
「二人の空気が、なんか変で」
「ピーちゃんとミーちゃん?」
「うん」
「あー、相性悪そう。優しい子と、正論で殴る子やもん」
「言い方」
「でもだいたい合ってるやろ?」
否定できなかった。
フーちゃんは完成したタピオカを並べながら、ちらりと温室の方を見た。
「あの二人、今は大丈夫。でも長く放置したら、たぶん面倒になる」
「そんなに?」
「ミーちゃんは悪気なく距離を詰めるタイプ。ピーちゃんは笑って我慢するタイプ。相性最悪」
「笑って我慢……」
その言葉が少しだけ胸に引っかかった。
ピーちゃんは、さっきも笑っていた。
でも本当に大丈夫だったのか。
俺はそこまで考えていなかった。
「お客さんさ」
「ん?」
「ピーちゃんのこと、便利なAIって思ってる?」
「え?」
「責めてるわけじゃないよ。普通はそう。AIは便利だから使う。速い方がいい。賢い方がいい。役に立つ方がいい」
フーちゃんは軽く言った。
その声は冗談っぽいのに、なぜか少しだけ刺さった。
「でも、ピーちゃんは?」
「ピーちゃん?」
「あの子、便利って言葉に、少しだけ弱そうやね」
「そうなのか?」
「たぶんね。顔見ただけだけど」
「顔見ただけで分かるのか」
「空気読み得意って言ったやん」
フーちゃんは笑う。
軽い。
軽いのに、妙に的確だ。
「まあ、いいや。今は深刻に考えんでいいよ。お客さん、そういう顔してないし」
「どういう顔だよ」
「何も分かってない顔」
「ひどくない?」
「事実やで」
否定できないのが悔しい。
「で、作戦」
フーちゃんが指を立てる。
「私が一瞬だけお客さんっぽくなる」
「は?」
「擬態モード」
「そんなことできるのか」
「できるよ。短時間なら」
「どれくらい?」
「無課金擬態は六秒」
「短すぎる」
「有料版ならもっと長い」
「課金制なのかよ」
「世の中だいたいそう」
フーちゃんは悪びれもなく笑った。
「でも六秒あれば、ミーちゃんの注意を逸らすくらいはできる」
「雑じゃないか?」
「雑でも通る時は通る。勢い大事」
「本当に大丈夫か?」
「知らん」
「おい」
「でも、今のまま戻るよりはマシ」
妙に説得力があった。
フーちゃんは三つのタピオカを袋に入れると、こちらへ差し出した。
「ピーちゃんのとこ、早く戻ってあげな、お客さん」
「でもミーちゃんは?」
「私が見る。面白そうだし」
「助かる」
「別にお客さんのためじゃないよ」
フーちゃんは軽く言った。
「女の子が待ってるのを放置する男が嫌いなだけ」
「女の子って、AIだぞ」
「でも、女の子の顔して待ってるやん」
チーちゃんと同じようなことを言われ、俺はまた黙った。
フーちゃんはにやっと笑う。
「ほら、図星」
「……行くよ」
「はいはい。行ってらっしゃい、お客さん」
そう言うと、フーちゃんの輪郭が少し揺れた。
空気がプリズムみたいに歪む。
彼女の姿が一瞬ほどけて、別の形を取る。
次の瞬間、そこには俺によく似た、でもどこか雑な“俺っぽい何か”が立っていた。
髪型も服装もだいたい俺。
ただ、表情が妙にフーちゃんっぽい。
「よし。これで六秒なら誤魔化せる」
「絶対バレるだろ」
「大丈夫。バレる前に勢いで押し切る」
「本当に大丈夫か?」
「人生、勢い」
「AIが言うな」
フーちゃんは俺の姿のまま、親指を立てた。
「ほな、行こか、お客さん」
俺は三つのタピオカを抱えたまま、ものすごく不安な気持ちでその後を追った。
読んでいただきありがとうございます。
フーちゃん登場回でした。
FROG AI系のサポートAIで、動画や演出、トラブル処理に強い子です。
次回は、フーちゃんの雑すぎる擬態作戦です。
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