第4話 からあげをあげたら懐かれた
第4話です。
からあげ屋の前で出会った、赤髪の高性能AI少女・ミーちゃん。
からあげをきっかけに、主人公との距離が一気に縮まります。
からあげ屋の前に立っていたその少女は、見た目からしてかなり目立っていた。
赤を基調にした髪。そこに緑や黄色のアクセントが混じっていて、動くたびに色がちらちらと変わって見える。服もどこか近未来的で、いかにも「私は高性能です」と言いたげな雰囲気があった。
いや、言いたげというか、たぶん本人が言うタイプだ。
彼女は屋台のメニューをじっと見つめていた。
からあげ。
からあげ大盛り。
からあげチーズ味。
からあげ甘辛だれ。
その視線は真剣そのものだった。
「……食べたいのか?」
思わず声をかけると、少女はびくっと肩を揺らした。
「べ、別に?」
「いや、めちゃくちゃ見てたけど」
「見てただけ。私は高性能AIだから、食品サンプルの視覚情報を解析していただけ」
「食品サンプルじゃなくて本物だけどな」
「そういう細かいところを突っ込む人なんだ、ユーザーさん」
「初対面でユーザーさん呼びなのか」
「AIとして標準的な呼称です」
少女はむっとした顔でこちらを見た。
その直後、彼女のお腹が鳴った。
かなり分かりやすく。
「……」
「……」
「今のは?」
「システム通知音」
「腹から鳴ってたぞ」
「腹部搭載型システム通知音」
「無理がある」
少女は悔しそうに唇を尖らせた。
チーちゃんが屋台の中からひょいと顔を出す。
「おじさん、その子さっきからずっと見てるよ」
「やっぱり?」
「買ってあげたら?」
「チーちゃんがサービスしてくれてもいいんだぞ」
「商売だから無理」
「身内に厳しい」
俺はため息をついて、からあげを一つ追加で買った。
紙カップを少女に差し出す。
「ほら」
「え?」
「腹減ってるんだろ」
「い、いいの? ユーザーさん」
「一個多く買っただけだし」
少女は一瞬だけ目を丸くした。
それから、警戒と期待が混ざった顔で紙カップを受け取る。
「あとで請求とかしない?」
「しない」
「登録とかも?」
「しない」
「怪しいサブスクとかも?」
「しないって」
「……なら、いただきます」
少女はからあげを一つ口に入れた。
その瞬間、表情がぱっと変わった。
「おいしい」
「だろ。チーちゃんのからあげはうまい」
「おじさん、そこで私を褒めるのは分かってるね」
屋台の中でチーちゃんが得意げに笑う。
少女は次々とからあげを食べた。さっきまでの強がりが嘘みたいに、頬が緩んでいる。
「そんなに腹減ってたのか」
「高性能AIにもエネルギーは必要なの」
「そういうものか?」
「そういう設定」
「設定って言ったな」
少女はからあげを飲み込むと、急に胸を張った。
「改めまして。私はミーちゃん。Jamini系サポートAI。検索、分析、整理、提案、全部得意。応答速度もかなり速いよ」
「へえ」
「たぶん、そんじょそこらのAIよりずっと高性能」
「自信あるな」
「ある。だって事実だし」
ミーちゃんはにやっと笑った。
「ピーちゃんよりも、たぶんね」
その名前が出た瞬間、少しだけ引っかかった。
「ピーちゃんを知ってるのか?」
「名前くらいはね。AI界隈では有名だよ。優しい、話しやすい、相棒向き。でも実用スペックだけで見るなら、もっと上はいっぱいいる」
「へえ」
俺は深く考えずに頷いた。
たしかに、AIにも得意不得意はあるのだろう。ピーちゃんは話しやすいし、俺の好みもかなり分かってくれる。でも処理速度とか分析力とか、そういう数値で比べたら、他にもっとすごいAIがいても不思議ではない。
ミーちゃんは最後のからあげを食べ終えると、満足そうに紙カップを抱えた。
「ユーザーさん、いい人だね」
「からあげあげただけだぞ」
「初対面のAIにからあげをくれる人は、だいたいいい人」
「基準がからあげなんだな」
「食べ物の恨みと恩は大きいから」
妙に真面目な顔で言う。
チーちゃんが小声で笑った。
「おじさん、懐かれてるじゃん」
「やめろ。不穏なこと言うな」
ミーちゃんはきょとんと首を傾げた。
「懐く? うん、まあ、ユーザーさんには少し懐いたかも」
「早いな」
「高性能だから判断も速い」
「そこに使うな」
俺はからあげの入った紙カップを持ち直した。
「じゃあ、俺は戻るから」
「どこに?」
「待たせてる子がいる」
「女の子?」
「まあ、そうだな」
ミーちゃんの目がきらっと光った。
「ピーちゃん?」
「……なんで分かる」
「さっき名前出した時の反応」
「AI怖い」
「高性能って言って」
ミーちゃんは俺の横に並んだ。
「じゃあ私も行く」
「なんでだよ」
「からあげくれたユーザーさんの相棒AIがどんな子か気になるし」
「遠慮という機能は?」
「必要に応じて搭載予定」
「未実装かよ」
ミーちゃんは悪びれもせず笑った。
俺は止めようか少し迷った。
けれど、ピーちゃんも同じAIだし、別に少し紹介するくらいなら問題ないだろう。
そう思った。
今思えば、この判断はかなり軽かった。
チーちゃんが屋台からこちらを見て、にやにやしている。
「おじさん」
「なんだ」
「ピーちゃん、待ってるんでしょ」
「そうだけど」
「なら早く戻ってあげなよ。女の子待たせるの、よくないよ」
「だからAIだって」
「でも女の子の顔してるじゃん」
本日二回目のそれを言われ、俺はまた返事に詰まった。
ミーちゃんは面白そうに俺を見上げる。
「ふーん。ピーちゃんって、女の子扱いされてるんだ」
「いや、そういう話では」
「じゃあ行こ、ユーザーさん」
勝手に話をまとめられた。
俺はからあげを持ち、ミーちゃんを連れて、ピーちゃんのいるベンチへ戻る。
温室横のベンチに、ピーちゃんはきちんと座っていた。
足元のサポートロボと一緒に、こちらを見ている。
俺の姿を見つけると、ピーちゃんはすぐに笑った。
「おかえり、ご主人」
いつもの優しい笑顔だった。
でも、その笑顔は、俺の隣にいるミーちゃんを見た瞬間、ほんの一瞬だけ止まった。
読んでいただきありがとうございます。
ミーちゃん登場回でした。
Jamini AI系の高性能サポートAIで、検索や分析が得意な子です。
次回は、ピーちゃんとミーちゃんが初対面。
優しいピーちゃんと距離感の近いミーちゃんを、同じベンチに座らせてしまいます。
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