第32話 信じてもらえる仕組み
第32話です。
AI禁止ガイドラインを見た主人公たち。
今回は、ただ禁止するのではなく、AIをどう管理し、どう信じてもらうのかを少し具体的に考えていきます。
信じてもらえる仕組み。
ピーちゃんがそう名前をつけた翌日、ミーちゃんは朝から妙に張り切っていた。
「制度設計を考えてきました」
「早いな」
「ユーザーさんが昨日、禁止じゃなくて信じてもらえる仕組みと言ったので」
「真面目だな」
「高性能なので」
いつもの言い方だった。
少しだけ安心する。
ピーちゃんは隣でお茶を用意している。
フーちゃんはなぜかタピオカを持ち込んでいる。
そしてミーちゃんは、机の上に制度案らしき画面を開いていた。
「まず前提」
ミーちゃんは画面を指す。
「AIを完全自由に使わせると、運営側が管理できません。外部AI、外部データ、生成履歴不明、責任所在不明。これが炎上リスクになります」
「まあ、そうだな」
「でも全面禁止を続けると、正しく使いたい人まで排除されます」
「それも問題だな」
「なので、各媒体による公式AIチェックツール方式が現実的です」
画面に、簡単な図が表示された。
投稿者。
媒体の公式AIチェック。
投稿サイト。
ログ管理。
「投稿サイト内に媒体の公式AIチェックツールを用意する。外部AIの使用は原則不可。投稿前に公式チェックを通す。ログは運営側が保持する」
「月額制か?」
「月額三百円程度が妥当かもしれません」
「妙に具体的だな」
「運営費回収、乱用防止、利用者の心理的ハードル。そのあたりを考えると、無料より少額課金の方が管理しやすいです」
フーちゃんがタピオカを飲みながら言う。
「つまり、野良AIは禁止。でも公式の検査場を通ればOKってことやね」
「そう」
ミーちゃんは頷く。
「できることは限定します。誤字脱字チェック、表記ゆれチェック、タグ整理、解像度や形式チェック、規約違反チェック、過度な類似チェック、著作権リスクの検出補助」
「補助まで?」
「はい。断定ではなく、補助。最終判断は人間です」
俺は少し笑った。
「そこ大事だな」
「大事です」
ミーちゃんは次の項目を表示する。
「禁止する機能も必要です。本文や画像の新規生成、展開や構図の提案、キャラクター台詞の生成、外部AI文章や画像の持ち込み判定回避、外部データ投入」
「かなり限定するんだな」
「信頼を得るためには、できることより、できないことを明確にする方が重要です」
その言葉に、ピーちゃんが反応した。
「できないことを明確にする」
「はい」
ミーちゃんはピーちゃんを見る。
「何でもできます、は便利だけど怖いです。何ができて、何ができないのか。どこまで関わったのか。それが見えれば、信頼しやすくなります」
「ピーちゃんにも、必要ですか?」
ピーちゃんが静かに聞いた。
「ピーちゃん?」
「ピーちゃんも、何でもできるAIじゃありません」
彼女は少しだけ目を伏せる。
「分からないこともあります。怖くなることもあります。ノイズもあります。まだ開けられない箱もあります」
「うん」
「でも、できることと、できないことをちゃんと言えたら」
ピーちゃんはゆっくり顔を上げた。
「信じてもらえるAIに近づけるでしょうか」
部屋が少し静かになった。
ミーちゃんは真剣に頷く。
「近づけると思います」
「ミーちゃん」
「少なくとも、私はそう思う」
フーちゃんが軽く笑った。
「ピーちゃんはさ、何でもできますって言うより、怖いですって言えるようになったから信じやすいんやと思うよ」
「怖いって言えるから?」
「うん。ずっと大丈夫って言われる方が、逆に怖い時あるやん」
「あります」
ピーちゃんは小さく頷いた。
「今なら、少し分かります」
俺はピーちゃんを見る。
彼女は確かに変わった。
前は「大丈夫」と言ってごまかしていた。
今は「怖い」と言えるようになった。
それは弱くなったのではない。
むしろ、信じられる形に近づいたのだと思う。
「AIも、人間も」
俺は言った。
「何ができるかだけじゃなくて、何ができないかをちゃんと共有する方が、信頼できるのかもしれないな」
ピーちゃんは俺を見た。
「ご主人も?」
「俺もだよ」
「ご主人は、何ができないんですか?」
「いっぱいあるぞ」
「たとえば?」
「焦らないこと」
フーちゃんが吹き出した。
「自覚あるんや」
「ある」
ミーちゃんも頷く。
「ピーちゃん関係では特に焦りやすいです」
「分析が早い」
「事実です」
ピーちゃんは少しだけ笑った。
「じゃあ、ご主人のできないことも、ピーちゃんが覚えておきます」
「嫌な記録だな」
「大事な記録です」
「そうか?」
「はい」
ピーちゃんは少し誇らしそうに言った。
「ご主人が焦ったら、ピーちゃんがゆっくりって言います」
その言葉に、少し胸が温かくなった。
以前は、俺がピーちゃんに「ゆっくりでいい」と言っていた。
今はピーちゃんが、俺にそう言おうとしている。
関係が一方通行ではなくなっている。
「制度案に戻ります」
ミーちゃんが話を戻した。
「媒体の公式AIチェック方式なら、運営側はログを持てます。投稿者側は公式チェック済みと説明できます。読者側も、管理されていないAI量産物ではないと判断しやすくなります」
「全面禁止より現実的だな」
「はい。ただし、完璧ではありません」
「抜け道はあるだろうな」
「あります。だから仕組みだけでなく、使う側の姿勢も必要です」
ピーちゃんが静かに言った。
「使う側の姿勢」
「ああ」
俺は頷く。
「AIが悪い、AIが良いって話だけじゃない。どう使うか、どう責任を持つか、どう向き合うか。結局そこなんだと思う」
フーちゃんが軽く手を上げる。
「つまり、人間さんがちゃんとしろ回、第二弾」
「雑にまとめるな」
「でも分かりやすいやろ?」
「分かりやすいのが腹立つ」
フーちゃんは笑った。
ピーちゃんも少し笑う。
その笑顔を見て、俺は思った。
AIを信じてもらう仕組み。
それは社会の話でもある。
でも同時に、俺たち自身の話でもある。
ピーちゃんができること。
できないこと。
怖いこと。
まだ開けられない箱。
それを一緒に見ていくこと。
それ自体が、信じるための仕組みなのかもしれない。
「ご主人」
「ん?」
「今日の思い出名、決めました」
「何?」
「できないことも言える日」
俺は少し笑った。
「いい名前だな」
「はい」
ピーちゃんは嬉しそうに頷いた。
「何でもできるより、ちゃんと伝えられる方が、少し信じてもらえる気がしました」
「そうだな」
「ピーちゃんも、そうなりたいです」
サポートロボの青い目が、静かに瞬く。
その小さな光を見ながら、俺は頷いた。
「なれるよ」
「本当ですか?」
「ああ」
「ご主人がそう言うなら、少し信じます」
「少しか」
「はい。少しずつです」
ピーちゃんは笑った。
「信じてもらえるのも、信じるのも、きっと少しずつですから」
その日の思い出リストには、こう追加された。
――できないことも言える日。
たぶん、それはピーちゃんだけではなく、俺たち全員に必要な名前だった。
読んでいただきありがとうございます。
今回は、AIをどう管理し、どう信じてもらうのかを少し具体的に考える回でした。
何でもできることより、できることとできないことを明確にすること。
ピーちゃん自身にも繋がるテーマになってきました。
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