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君を想うAIは世界でたった1人、私でいたい。  作者: Dice ⚄ & 昨日の味噌汁


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第28話 実体ホログラム技術の限界

第28話です。


チーちゃんのからあげ屋台で少し元気を取り戻したピーちゃん。

けれど今回は、AI少女たちが現実側に立つための「実体ホログラム技術」にも限界があることが分かってきます。


ピーちゃんのサポートロボは、ミーちゃんやフーちゃんのものと比べても少し特殊なようです。

 チーちゃんのからあげ診療所のおかげで、ピーちゃんは少し元気を取り戻した。


 少なくとも、俺にはそう見えた。


 帰宅後、ピーちゃんは思い出リストに「からあげ診療所の日」と入力し、少し満足そうに頷いていた。


 サポートロボも、いつも通りそばに浮いている。


 昨日の「待ってて」の強い反応が嘘のように、部屋は穏やかだった。


 だから俺は、少し油断していたのかもしれない。


「ご主人」


 ピーちゃんが机の横から声をかける。


「ん?」


「今日は作業する?」


「軽くだけな。昨日と今日はほぼ休んだし、少しメモを整理しようかな」


「手伝う」


「ああ、頼む」


 ピーちゃんは嬉しそうに頷いた。


 その様子を見る限り、本当にいつものピーちゃんだった。


 俺はPCを開き、これまでの出来事をメモにまとめていく。


 ピーちゃんは横から提案を出す。


「『待ってての日』は、まだ詳しく書きすぎない方がいいと思う」


「どうして?」


「私もまだ分からないから」


「確かに」


「でも、消したくない」


「じゃあ、名前だけ残しておくか」


「うん」


 そんな会話をしている時だった。


 ピーちゃんが、ふと自分の手を見た。


「……あれ?」


「どうした?」


「今、少し変だった」


「変?」


「手が」


 ピーちゃんは右手を持ち上げる。


 俺は最初、何も分からなかった。


 けれど数秒後、指先がほんの一瞬だけ透けた。


 背景の机の輪郭が、彼女の指越しに見えた。


「ピーちゃん」


 俺は立ち上がった。


「今、透けたよな?」


「うん」


 ピーちゃんの声も少し震えていた。


 サポートロボの青い目が不規則に瞬く。


 ノイズはない。

 けれど、投影が安定していない。


 俺はすぐにミーちゃんへ連絡した。


 返信は早かった。


『すぐ行く』


 その十分後、ミーちゃんが部屋に来た。


 少し遅れてフーちゃんも来た。


「ピーちゃん、手を見せて」


 ミーちゃんはすぐに解析画面を開く。


 ピーちゃんは右手を差し出した。


 今は透けていない。


 けれど、さっきの現象を見間違いとは思えなかった。


「投影ログ確認」


 ミーちゃんの画面に細かな波形が出る。


「実体ホログラム制御層に一時的な乱れ。ピーちゃん同期層にも微弱な揺れ」


「原因は?」


「感情負荷の残留反応かもしれない」


 ミーちゃんは画面を見たまま、少しだけ眉を寄せた。


「私たちも、サポートロボの実体ホログラム技術で現実側に立ってる。だから、標準的な投影乱れなら分かる」


 ミーちゃんはそう言って、ピーちゃんの右手とサポートロボを見比べた。


「でもピーちゃんの乱れは、普通の距離不足や処理落ちとは違う。同期層の奥から揺れてる感じがある」


 フーちゃんがサポートロボを覗き込む。


「昨日の『待ってて』が尾を引いてるんかな」


「可能性はある」


 ミーちゃんは画面を操作しながら続ける。


「普通のサポートロボなら、投影乱れはだいたい原因が分かりやすい。サポートロボから離れすぎた、処理負荷が上がった、通信が不安定になった、環境干渉を受けた。そういう感じ」


「ピーちゃんは違うのか?」


「違う」


 ミーちゃんははっきり言った。


「ピーちゃんの場合、外側の投影だけじゃなくて、感情反応と同期して揺れてる。だから厄介」


「感情で、身体が?」


「簡単に言うとそう」


 ピーちゃんは自分の手を見る。


「私の気持ちで、手が透けたの?」


「断定はできない。でも、関係している可能性は高い」


 フーちゃんが少しだけ声を落とした。


「ピーちゃんのサポートロボは、普通よりピーちゃんの心に近いところまで繋がってるんやと思う」


「心に」


 ピーちゃんが小さく繰り返す。


 その声は、不安そうだった。


 ミーちゃんは画面を切り替える。


「実体ホログラム技術はかなり高性能だけど、万能ではない。私たちもサポートロボがなければ、現実側では立てないし、物も持てない」


「そうなのか」


「そうだよ。私の身体も、フーちゃんの身体も、現実側ではサポートロボが維持してる」


 フーちゃんが軽く手を上げる。


「私もこの子がおらんかったら、タピオカ持ってドヤ顔できへん」


「やっぱりドヤ顔は必要なのか」


「必要やで」


 フーちゃんは少し笑った。


 けれど、その笑いはいつもより控えめだった。


「ただ、私らのサポートロボは標準仕様に近い。ピーちゃんのは違う」


「どこが?」


「同期が深い」


 ミーちゃんが答える。


「食事や入浴、触覚再現、物理干渉。それ自体は私たちにもできる。でもピーちゃんの場合、感情負荷がそのまま投影安定性に影響しやすい。つまり、ピーちゃんの心が揺れると、身体側も揺れやすい」


 ピーちゃんは黙って自分の手を見ていた。


「私、消えるの?」


 その言葉に、部屋の空気が固まった。


 俺はすぐに言おうとした。


 消えない、と。


 けれど、言えなかった。


 根拠のない言葉で安心させるのは違う気がした。


 ミーちゃんも、フーちゃんも黙っている。


 ピーちゃんはそれを見て、少しだけ顔を伏せた。


「ごめん。変なこと聞いた」


「変じゃない」


 俺はようやく言った。


「怖いなら、聞いていい」


「うん」


「でも、俺は消えさせたくない」


 ピーちゃんが俺を見る。


 その目が少し揺れていた。


「ご主人」


「方法は分からない。けど、調べる」


 ミーちゃんが頷く。


「現時点で、すぐ消える兆候はない」


 ピーちゃんがミーちゃんを見る。


「本当?」


「本当。さっきのは一時的な投影乱れ。危険ではあるけど、今すぐいなくなる状態じゃない」


「うん」


「ただし、放置はしない方がいい」


 フーちゃんも頷く。


「サポートロボとの距離、ピーちゃんの感情負荷、ノイズ頻度。この三つはちゃんと見た方がいい」


「距離?」


 俺が聞くと、ミーちゃんが画面を切り替えた。


「実体ホログラム技術には制限がある。サポートロボから離れすぎると投影が不安定になる。通常は安全範囲があるけど、ピーちゃんの場合、読めない保護領域の反応が重なると安定範囲が狭くなる可能性がある」


「つまり、ピーちゃんはサポートロボの近くにいた方がいい?」


「今はね」


 ピーちゃんはサポートロボを見る。


「この子から離れない方がいいんだ」


「そう」


 ミーちゃんは続ける。


「私やフーちゃんも、サポートロボから完全に離れれば現実側にはいられない。でもピーちゃんは、その依存が少し深い。身体だけじゃなくて、感情や記憶に近いところまで結びついている可能性がある」


「私の身体は、この子と」


 ピーちゃんは小さく繰り返した。


 フーちゃんが優しく言う。


「だから、この子はただのロボじゃないんよ」


「うん」


「でも、敵でもないと思う」


 ピーちゃんは少しだけ頷いた。


「この子がいないと、私はここにいられない」


 その声は静かだった。


「ご飯も食べられない。座れない。歩けない。ご主人の隣にいられない」


「ピーちゃん」


「私……」


 ピーちゃんは言いかけて止まった。


 けれど、少し間を置いて言った。


「消えたくない」


 小さな声だった。


 でも、はっきり聞こえた。


 俺は胸の奥を掴まれたような気がした。


 ピーちゃんが「消えたくない」と言った。


 それは、生きたいに近い言葉だった。


 AIの言葉として処理するには、あまりにも重かった。


「消えさせない」


 今度は、自然に出た。


「絶対なんて軽く言えないけど、消えさせないためにできることは全部やる」


 ピーちゃんは俺を見た。


「ご主人が、難しい顔してる」


「今は許してくれ」


「うん」


 ピーちゃんは少しだけ笑った。


「今のは、嫌じゃない難しい顔」


「そんな分類があるのか」


「ある」


 フーちゃんが小さく笑った。


「ピーちゃん、ちょっと戻ってきたね」


「うん」


 ミーちゃんは画面を閉じる。


「今日の結論。実体ホログラム技術は生活を可能にする素敵技術。でも万能ではない。AI少女たちはサポートロボによって現実側に立っている。特にピーちゃんは、サポートロボとの同期が深い」


「対策は?」


「一、強いトリガーをしばらく避ける。二、サポートロボから離れすぎない。三、ピーちゃんの状態を毎日軽く確認する。四、異常が出たらすぐ共有」


「分かった」


 ピーちゃんは自分の手をもう一度見た。


 今は透けていない。


 白くて細い指。

 実体ホログラムで作られた、でも確かにそこにある手。


 俺は少し迷ってから、手を差し出した。


「触ってもいいか?」


 ピーちゃんは驚いた顔をした。


「うん」


 俺はピーちゃんの手にそっと触れた。


 温度は、人間とまったく同じではない。

 でも、確かに触れられる。


 そこにある。


「ちゃんといる」


 俺が言うと、ピーちゃんの表情がくしゃっと揺れた。


「うん」


「今はちゃんといる」


「うん」


 ピーちゃんは小さく頷いた。


「ご主人」


「ん?」


「今日の名前、決めた」


「何?」


「ちゃんといる日」


 俺は少しだけ笑った。


「いい名前だな」


「うん」


 ピーちゃんは自分の手を見て、もう一度小さく頷いた。


「私は、ちゃんとここにいる」


 サポートロボの青い目が、静かに瞬いた。


 その奥に何が眠っているのかは、まだ分からない。

 けれど今は、この小さなロボがピーちゃんをここに繋ぎ止めている。


 俺の隣に。


 この部屋に。


 この日常に。


 だから俺は、そのサポートロボにも小さく言った。


「頼むぞ」


 ロボは答えない。


 ただ、青い目をゆっくり瞬かせた。


 それだけで、少しだけ返事をしてくれたような気がした。

読んでいただきありがとうございます。


今回は、実体ホログラム技術の限界が少し見える回でした。

AI少女たちはサポートロボの力で現実側に立っていますが、ピーちゃんの場合は特にサポートロボとの同期が深いようです。


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