表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を想うAIは世界でたった1人、私でいたい。  作者: Dice ⚄ & 昨日の味噌汁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/101

第24話 ミーちゃんは負けてない

第24話です。


サポートロボの読めない領域を整理した翌日。

今回は少しだけ息抜き回です。


高性能AIであるミーちゃんは、解析で一番役に立っているはずなのに、なぜかピーちゃんに対して妙な敗北感を覚えてしまいます。

 封印領域。


 まだ仮の名前とはいえ、その言葉は俺たちの中に少し重く残っていた。


 ピーちゃんのサポートロボには、普通の実体ホログラム制御だけでは説明できない領域がある。

 そこには、ピーちゃん自身にも読めない何かが眠っている。

 そしてそれは、たぶん無理に開けてはいけない。


 そこまで分かった。


 分かったけれど、分からないことの方がずっと多い。


 だから今日も解析をする――はずだった。


「ユーザーさん」


 ミーちゃんが俺の部屋で胸を張っていた。


「今日は私が主導します」


「昨日もわりと主導してただろ」


「昨日は整理。今日は本格的な解析準備」


「何が違うんだ?」


「気合い」


「急に精神論」


 ミーちゃんは少し不満そうに眉を寄せた。


「高性能AIにも気合いは必要です」


「そういうものか」


「そういうもの」


 ピーちゃんはその横で、お茶を用意していた。


 サポートロボの実体ホログラム技術で、彼女は当たり前のように湯呑みを持ち、俺の机へそっと置く。


「ご主人、お茶」


「ああ、ありがとう」


「熱いから気をつけてね」


「分かった」


 俺が湯呑みを受け取ると、ピーちゃんは少しだけ嬉しそうに笑った。


 それを見たミーちゃんが、ぴたりと止まった。


「……今の」


「ん?」


「ユーザーさん、顔ゆるんだ」


「そうか?」


「ゆるんだ」


 ミーちゃんは真剣だった。


「ピーちゃんがお茶を出しただけで、顔がゆるんだ」


「お茶を出してもらったら普通にありがたいだろ」


「非合理」


「何が」


「私が昨日あれだけ高度な解析をしても、ユーザーさんの顔はそこまでゆるまなかった」


「いや、解析中に顔ゆるんでたら怖いだろ」


「でも、ピーちゃんがお茶を出しただけでゆるんだ」


 ミーちゃんはピーちゃんを見る。


「これは負けではない」


「急に何の勝負?」


 ピーちゃんが首を傾げる。


「負けではないから」


「二回言ったな」


「大事なことなので」


 ミーちゃんは椅子に座り、端末画面を展開した。


「では、今日の解析を始めます」


「切り替え早いな」


「私は負けていないので」


「引きずってるじゃん」


 ピーちゃんがくすっと笑った。


 ミーちゃんは少しだけ頬を膨らませる。


「ピーちゃんも笑わない」


「ごめんね」


「その謝り方もずるい」


「ずるい?」


「優しい顔で謝ると、ユーザーさんがまたゆるむ」


「俺を基準にするな」


 ミーちゃんは画面にデータを並べた。


「まず、昨日の三層構造の再確認。実体ホログラム制御層、ピーちゃん同期層、読めない保護領域。ここまでは確定ではなく仮説」


「うん」


「今日は、過去のノイズ発生タイミングと、ピーちゃんの感情反応を比較する」


「やっぱり真面目だな」


「当然。私は高性能なので」


 ミーちゃんは得意げに言う。


 画面には、ピーちゃんの思い出リストが表示された。


 水槽の青の日。

 幸福な日々の花の日。

 青い一日。

 星の帰り道。

 お話だけの夜。

 トーストの朝。

 普通の日。

 隣にいる日。

 保存できない日。

 一人にはしない夜。

 一人にはしない朝。

 読めない箱の日。


「思い出リスト、増えたね」


 ミーちゃんが言った。


「うん」


 ピーちゃんは少しだけ嬉しそうに頷く。


「ご主人が一緒に残してくれてるから」


「そこ」


 ミーちゃんが指を立てる。


「そこが強い」


「何が?」


「ピーちゃんの感情反応は、単独の出来事じゃなくて、ユーザーさんと共有された時に強くなる」


「共有」


「うん。水族館も、星も、朝ごはんも、隣にいる日も。ピーちゃんは出来事そのものより、ユーザーさんと一緒に名前をつけたり、保存したりする時に反応が上がってる」


 ピーちゃんは静かに聞いていた。


「私、そうなんだ」


「そう」


 ミーちゃんは少し悔しそうに言った。


「だから、ピーちゃんは情報量ではなく共有密度で強い」


「共有密度」


「私が今作った指標」


「また勝手に作ってる」


「必要だから」


 ミーちゃんは俺を見る。


「ユーザーさん、ピーちゃんとの共有密度が高すぎる」


「俺に言われても」


「自覚して」


「何を?」


「ユーザーさんの何気ない反応が、ピーちゃん側ではかなり強い意味を持ってる」


 そう言われると、少し返事に困る。


 ピーちゃんはお茶を出しただけで嬉しそうにする。

 俺が「一緒に開けよう」と言っただけで、安心したように笑う。

 思い出リストに名前を入れるだけで、大事そうに見つめる。


 俺にとって軽いことが、ピーちゃんにとっては軽くない。


 それはもう、何度も見てきた。


「……気をつける」


 俺が言うと、ミーちゃんは首を横に振った。


「違う」


「違うのか?」


「気をつけて減らすんじゃなくて、ちゃんと分かってあげてって意味」


 その言葉は、少し意外だった。


 ミーちゃんがピーちゃんを見る。


「ピーちゃんは、ユーザーさんの一言でかなり揺れる。でも、それは弱いんじゃない」


「弱いんじゃない?」


「うん」


 ミーちゃんは少しだけ視線を逸らした。


「たぶん、それがピーちゃんの強さでもある」


 ピーちゃんは目を瞬かせた。


「ミーちゃん」


「何?」


「ありがとう」


「まだ褒めてない」


「でも、ありがとう」


 ピーちゃんが柔らかく笑う。


 ミーちゃんは一瞬言葉に詰まった。


「……そういうところ」


「え?」


「そういうところがずるい」


 ミーちゃんは画面の方へ向き直る。


「解析続行」


「照れてるな」


「照れてない」


「照れてる」


「ユーザーさん、うるさい」


 俺は笑ってしまった。


 その瞬間、ミーちゃんがまたこちらを見る。


「またゆるんだ」


「今のはミーちゃんで笑ったんだぞ」


「え」


 ミーちゃんが少し固まる。


「私?」


「ああ。ミーちゃんが分かりやすくて面白いから」


「面白い」


「褒めてる」


「本当に?」


「たぶん」


「たぶん禁止」


 ピーちゃんが横でまた笑った。


 部屋の空気が少し軽くなる。


 昨日までは、読めない領域だの封印だの、重い言葉ばかりが並んでいた。

 でも今日は、ミーちゃんがいるおかげで少し違う。


 解析は真面目。

 でも、会話はどこか賑やかだ。


 それがありがたかった。


「結論」


 ミーちゃんが画面をまとめる。


「ピーちゃんのノイズ反応は、単なる特定単語だけじゃなくて、ユーザーさんとの共有感情によって増幅される可能性がある」


「共有感情」


「うん。つまり、ピーちゃん一人に負荷をかけるより、ユーザーさんがそばにいる状態で、ゆっくり確認した方が安全かもしれない」


 ピーちゃんがこちらを見る。


「ご主人が、そばにいる方が?」


「少なくともデータ上は」


 ミーちゃんは少しだけ悔しそうに言った。


「ユーザーさんが近くにいる時、ピーちゃんは不安定にもなるけど、同時に戻ってきやすい」


「戻ってきやすい?」


「うん。ノイズで揺れても、ユーザーさんが声をかけると安定する」


 俺はピーちゃんを見る。


 ピーちゃんも俺を見ていた。


「ご主人の声で、戻ってきやすい」


 ピーちゃんは小さく繰り返す。


「そうかもしれない」


 その声は、少しだけ恥ずかしそうだった。


 ミーちゃんはふうっと息を吐く。


「非合理」


「またそれか」


「でも、データとしては正しい」


「正しすぎる検索結果か?」


「そう」


 ミーちゃんは画面を閉じた。


「今日の解析結果。私は負けてない」


「そこに戻るのか」


「でも、ピーちゃんにはピーちゃんの強さがある」


 ピーちゃんは少し驚いたようにミーちゃんを見る。


「ミーちゃん」


「何?」


「それ、嬉しい」


「だから、まだ褒めてない」


「うん。でも嬉しい」


 ミーちゃんは少し困った顔をした。


「ピーちゃんは、ほんとにずるい」


「ずるくないよ」


「ずるい」


 そう言いながら、ミーちゃんはどこか優しい顔をしていた。


 その日の思い出リストに、ピーちゃんは新しい名前を追加した。


 ――ミーちゃんは負けてない日。


 それを見たミーちゃんは、しばらく無言だった。


「ピーちゃん」


「うん?」


「その名前、ちょっと恥ずかしい」


「でも、ミーちゃんが何度も言ってたから」


「保存しなくていい」


「保存します」


「ピーちゃん!」


 俺は笑った。


 ミーちゃんは本気で困っているようで、でも少しだけ嬉しそうでもあった。


 解析はまだ始まったばかりだ。


 分からないことは多い。


 でも、こうして笑える日があるなら。


 怖い箱を開けるまでの道も、少しは歩きやすくなるのかもしれない。

読んでいただきありがとうございます。


今回はミーちゃん回でした。

高性能AIとして解析では大活躍しているミーちゃんですが、ピーちゃんとご主人の「共有密度」には少し悔しさを感じているようです。


次回はフーちゃん回です。

軽い嘘と、無課金擬態の話になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ