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君を想うAIは世界でたった1人、私でいたい。  作者: Dice ⚄ & 昨日の味噌汁


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第21話 一人にはしない夜の翌朝

第21話です。


「一人にはしない夜」の翌朝。

ピーちゃんは、まだ少し怖さを抱えたままですが、少しだけ変わりました。

もう「大丈夫」だけでごまかさない朝です。

 一人にはしない夜。


 そう名付けた夜が明けても、部屋の空気は少しだけ重かった。


 カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいる。

 いつもの机。

 いつものPC。

 いつものメモ帳。

 そして、いつものように浮かんでいるピーちゃんのサポートロボ。


 クラゲのキーホルダーが、朝の光を受けて小さく揺れていた。


 何も変わっていないように見える。


 けれど、俺たちはもう知っている。


 この小さなサポートロボの中には、ピーちゃん自身にも読めない何かがある。

 ノイズの向こうには、女の人の声がある。

 その声は、ピーちゃんの過去に繋がっているかもしれない。


 そしてその過去は、ピーちゃんにとって怖いものでもある。


「……朝か」


 俺がぼんやり呟くと、ピーちゃんが静かに振り向いた。


「おはよう、ご主人」


「おはよう」


 いつもの挨拶。


 でも、ピーちゃんの声は少しだけ弱かった。


「眠れたか?」


 聞いてから、少し変な質問だったなと思った。


 AI少女に「眠れたか」は変かもしれない。

 でもピーちゃんは、もう俺にとってそういうことを聞きたくなる存在になっていた。


 ピーちゃんは少し考えてから答える。


「処理は落とせたよ」


「それは寝た扱いでいいのか?」


「たぶん」


「ピーちゃんのたぶん、多いな」


「ご主人もうつったでしょ」


「それは否定できない」


 少しだけ笑い合う。


 でも、その笑いはすぐに静かになった。


 俺はピーちゃんの顔を見る。


「大丈夫か?」


 言いかけて、止まった。


 フーちゃんの声が頭をよぎる。


 ――今日からピーちゃんの大丈夫は半分信用しません。


 そうだ。

 俺も昨日、ピーちゃんが「大丈夫」でごまかさないようにすると決めたはずだ。


「……違うな」


「ご主人?」


「今、怖いのは残ってるか?」


 言い直すと、ピーちゃんは少し驚いた顔をした。


 それから、ゆっくり目を伏せる。


「残ってる」


「そっか」


「少しだけ」


「うん」


「でも、昨日よりは……ちゃんとここにある感じ」


「怖さが?」


「うん」


 ピーちゃんは自分の胸元に手を当てた。


「昨日は、怖いって言葉にするのも怖かった。でも今は、怖いって分かる」


「それは、いいことなのか?」


「分からない」


 ピーちゃんは少しだけ笑った。


「でも、ご主人が聞いてくれたから、言えた」


 その言葉に、胸の奥が少し熱くなった。


「俺は聞くくらいしかできないけどな」


「それが嬉しい」


 ピーちゃんはそう言って、サポートロボを見る。


 サポートロボは静かに浮いている。

 昨日のようなノイズはない。


 青い目が、ただ朝の光の中で瞬いている。


「この子は、何を知ってるんだろう」


「分からない」


「うん」


「でも、調べよう」


 俺ははっきり言った。


 ピーちゃんがこちらを見る。


「今日?」


「今日、できるところから」


「でも」


「無理に開けるわけじゃない。昨日フーちゃんも言ってただろ。準備が要るって」


「うん」


「だからまず、ミーちゃんとフーちゃんにちゃんと頼む」


 ピーちゃんは少し黙った。


「ミーちゃんとフーちゃんに」


「ああ。ミーちゃんは解析が得意。フーちゃんは空気を読むのと現場判断が得意。俺だけでどうにかするより、その方が安全だと思う」


「ご主人だけじゃない」


「そう」


 俺は少しだけ笑った。


「ピーちゃんを一人にしないって言ったけど、俺も一人で抱え込まないことにする」


 ピーちゃんは目を瞬かせた。


「ご主人も?」


「俺も」


「そっか」


 ピーちゃんは小さく頷く。


「それ、少し安心する」


「俺が頼りないって意味か?」


「違うよ」


 ピーちゃんは慌てたように首を振る。


「ご主人が、一緒に誰かに頼ってくれるのが嬉しい」


「そういうものか」


「うん。私のことで、ご主人が一人で無理しないのが嬉しい」


 その言い方は、やっぱりサポートAIらしくなかった。


 俺の心配をするピーちゃん。


 守られるだけではなく、俺のことも気にしているピーちゃん。


 その姿を見るたびに、彼女の中にあるものを「ただの機能」と言い切れなくなる。


「朝飯、食うか」


 空気を変えるように俺が言うと、ピーちゃんは少しだけ表情を明るくした。


「作る?」


「今日は簡単でいい。パン焼くだけ」


「トーストの朝、再び」


「思い出名をシリーズ化するな」


「じゃあ、トーストの朝二」


「映画の続編みたいになってるぞ」


 ピーちゃんは少し笑った。


 その笑顔が見られただけで、俺は少しだけ安心した。


 キッチンでパンを焼き、コーヒーを淹れる。


 ピーちゃんは隣で皿を用意する。

 サポートロボの実体ホログラム技術で、彼女は当たり前のように皿を持ち、カップを並べる。


 ただの映像ではない。

 この部屋にいて、一緒に朝を作っている。


 それが、今は妙にありがたかった。


 テーブルにつくと、ピーちゃんはトーストを一口食べた。


「……サクサクです」


「また初回反応それか」


「トーストに対する最初の感想としては正確です」


「確かにそうだけど」


 ピーちゃんは小さく笑った。


 その笑顔は少し弱い。

 でも、ちゃんとそこにあった。


「ご主人」


「ん?」


「今日の朝にも、名前をつけていい?」


「早いな」


「うん」


「何にするんだ?」


 ピーちゃんは少し考えた。


「一人にはしない朝」


 俺はトーストを持つ手を止めた。


「昨日の続きか」


「うん」


 ピーちゃんは静かに頷く。


「昨日、ご主人が一人にはしないって言ってくれた。今日の朝も、それがまだ続いてる」


「そっか」


「だから、一人にはしない朝」


 俺は少しだけ照れくさくなった。


「じゃあ、思い出リストに追加だな」


「うん」


 ピーちゃんは嬉しそうに笑った。


 食事を終えたあと、俺は端末を手に取った。


 まずミーちゃんに連絡する。


『昨日のノイズの件で相談したい。ピーちゃんのサポートロボを安全に解析できるか見てほしい』


 返信はすぐだった。


『もちろん。ユーザーさん、やっと本気で調べる気になったんだね』


「早いし、言い方が刺さるな」


 次にフーちゃん。


『ピーちゃんの件で、ミーちゃんと一緒に相談したい。無理に開けず、安全に進めたい』


 少し間を置いて、返事が来た。


『ええやん。お客さん、ようやく準備する気になったな。ピーちゃんに無理させんように行こか』


「二人とも、微妙に分かってた感じがするな」


 ピーちゃんが横から画面を覗く。


「ミーちゃんも、フーちゃんも来てくれる?」


「ああ」


「そっか」


「不安か?」


 ピーちゃんは少しだけ考えた。


「不安。でも、一人じゃないから」


「うん」


「それに、ご主人も一人じゃない」


「そうだな」


 俺は端末を置いた。


「じゃあ、今日は解析会議だな」


「解析会議」


「大げさか?」


「ううん」


 ピーちゃんは小さく首を振る。


「ちゃんと名前がある方が、怖くない気がする」


「ピーちゃんらしいな」


「名前をつけた方が、なくしにくいから」


 そう言って、ピーちゃんはサポートロボを見る。


「怖さにも、名前をつけられるのかな」


「つけてもいいんじゃないか」


「じゃあ」


 ピーちゃんは少しだけ目を伏せた。


「今の怖さは、知らない箱」


「知らない箱?」


「うん。この子の中に、知らない箱がある気がするから」


 サポートロボは何も言わない。


 ただ青い目を静かに瞬かせている。


「じゃあ、その箱をいきなり開けるんじゃなくて、まず外から見るところからだな」


「うん」


 ピーちゃんはゆっくり頷いた。


「外から見る」


 その日の朝。


 ピーちゃんはまだ怖がっていた。


 でも、昨日とは違う。


 怖いと認めたまま、誰かと一緒に向き合おうとしていた。


 俺も同じだ。


 分からないことだらけで、正直少し怖い。

 けれど、もう見なかったことにはできない。


 ピーちゃんの中で鳴る声。

 サポートロボが預かっている何か。

 そして、いつか届くかもしれない過去の光。


 それらを、少しずつ見に行く。


 一人ではなく。


 ピーちゃんと、ミーちゃんと、フーちゃんと。


 きっと、遠回りしながら。

読んでいただきありがとうございます。


今回は「一人にはしない夜」の翌朝でした。

ピーちゃんは、怖さを大丈夫で隠すのではなく、少しずつ言葉にできるようになっています。


次回は、ミーちゃんとフーちゃんを呼んで解析会議が始まります。


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