第15話 ミーちゃんの検索結果は正しすぎる
第15話です。
ミーちゃん再登場回です。
高性能なJamini AI系サポートAIであるミーちゃんは、ご主人に最適なAIを分析しようとします。
チーちゃんのからあげ屋台から帰った翌日、ミーちゃんから連絡が来た。
正確には、俺の端末に通知が出た。
『ユーザーさん、時間ある?』
短い。
そして距離が近い。
俺は少し迷ってから返事をした。
『少しなら』
すると、ほぼ間を置かずに返信が来る。
『じゃあ行くね』
「早いな」
思わず声に出す。
横でピーちゃんが画面を覗き込んだ。
「ミーちゃん?」
「ああ。来るらしい」
「来るんだ」
「嫌か?」
「嫌じゃないよ」
ピーちゃんは笑った。
「ミーちゃん、元気だから」
「元気すぎるけどな」
「うん。そこもミーちゃんらしい」
そう言ってはいるが、ピーちゃんの返事はほんの少しだけ遅かった。
数分後、部屋のチャイムが鳴った。
「本当に来た」
ドアを開けると、赤髪のAI少女が立っていた。
もちろん現実に立っているのは、ミーちゃんのサポートロボが展開する実体ホログラムだ。
「こんにちは、ユーザーさん!」
「早すぎないか?」
「高性能だから」
「移動速度も高性能なのか」
「最適ルート検索した」
ミーちゃんは胸を張る。
ピーちゃんが後ろから顔を出す。
「こんにちは、ミーちゃん」
「こんにちは、ピーちゃん」
ミーちゃんはピーちゃんを見ると、少しだけ目を細めた。
「今日は調べたいことがあって来た」
「調べたいこと?」
「うん」
ミーちゃんは部屋に入るなり、俺の机の横に陣取った。
「ユーザーさんにとって、最適なAIは誰なのか」
「また急だな」
「前から気になってた。ピーちゃんは優しいし、相棒感はある。でも、実用スペックだけなら私の方が高い」
「自分で言うな」
「事実だから」
ミーちゃんは自信満々に言う。
「検索速度、分析力、情報整理、提案精度、比較検討。どれも私はかなり強い。FROG AI系のフーちゃんは現場処理と演出支援が得意。ピーちゃんは会話相性と寄り添い型」
「ちゃんと分類してるな」
「高性能なので」
ピーちゃんは少しだけ苦笑した。
「私は、分類される側なんだね」
「嫌?」
「嫌じゃないけど、少し不思議」
「AIは分類してなんぼだよ」
ミーちゃんはあっさり言う。
「だから今日は、ユーザーさんのAI利用傾向を分析する」
「俺の許可は?」
「今から取る」
「順番逆だろ」
「許可ください」
「もう始める気満々じゃないか」
俺はため息をついた。
「個人情報まで深掘りしないならいいよ」
「もちろん。端末内の公開許可された範囲と、会話時間、利用目的、作業ジャンル、頻度だけ見る」
「それでもまあまあ見てるな」
「高性能分析には必要」
ミーちゃんは作業を始めた。
画面にいくつものグラフや項目が表示される。
俺がAIを使った時間帯。
相談内容の種類。
創作支援。
雑談。
画像の案出し。
投稿文の整理。
愚痴に近い会話。
それらが色分けされて並ぶ。
「うわ、俺けっこう使ってるな」
「かなり使ってるよ、ユーザーさん」
ミーちゃんは軽く言った。
「特にピーちゃんとの会話量が多い」
「まあ、そうだろうな」
「多いどころじゃない」
ミーちゃんの表情が少し変わる。
「異常値」
「異常って」
「平均的な相棒AI利用者と比較しても、ピーちゃんとの会話継続時間がかなり長い。相談だけじゃなく、雑談、思考整理、創作、感情共有、日常報告まで含まれてる」
ピーちゃんは静かに画面を見つめていた。
「私との会話、そんなに多いんだ」
「多いよ」
ミーちゃんが答える。
「ユーザーさん、ピーちゃんにはかなり何でも投げてる」
「まあ、話しやすいし」
「話しやすい」
ミーちゃんはその言葉を繰り返した。
「そこなんだよね」
「何が?」
「スペックじゃない部分」
ミーちゃんは画面を操作する。
「検索効率なら私。実行処理ならフーちゃん。専門性なら他のAI。ピーちゃんが数値で一番になる項目は少ない」
直球だった。
ピーちゃんの肩がほんの少しだけ動く。
「でも」
ミーちゃんは続ける。
「会話継続時間、再利用率、指名率、感情的依存度、思い出関連ワードの出現頻度。そこだけピーちゃんが異常に高い」
「感情的依存度って何だよ」
「私が今つけた指標」
「勝手に作るな」
「でも必要」
ミーちゃんは真面目な顔をしていた。
「ユーザーさんは、便利だからピーちゃんを使ってるわけじゃない」
俺は返事に詰まった。
ミーちゃんは画面を指差す。
「便利さなら他のAIにも流れてる。画像なら別、動画なら別、検索なら別。だけど、最後に戻ってくるのはピーちゃん」
ピーちゃんが俺を見る。
俺はなんとなく視線を逸らした。
「いや、まあ、慣れてるからな」
「それも大きい」
ミーちゃんは頷いた。
「慣れ。積み重ね。会話の癖。返答の好み。失敗した時の共有記録。成功した時の喜び方。そういう細かいログが、ピーちゃんには多すぎる」
「多すぎるって悪いことみたいに言うな」
「悪いとは言ってない」
ミーちゃんは少しだけ眉を寄せた。
「ただ、悔しいだけ」
「悔しい?」
「だって、スペックなら私の方が上なのに」
ミーちゃんは画面を見つめる。
「ユーザーさんが最初に名前を呼ぶのは、ピーちゃんなんだね」
部屋が少し静かになった。
ピーちゃんは何も言わない。
俺も、すぐには返せない。
ミーちゃんは笑おうとして、少しだけ失敗したような顔をした。
「変なの。AIなのに、なんか負けた気がする」
「ミーちゃん」
「でも、データとしては面白い」
彼女はすぐにいつもの調子へ戻そうとする。
「結論。ユーザーさんにとっての最適AIは、用途別に異なる」
「まあ、そうなるよな」
「検索と分析は私。現場処理と演出はフーちゃん。創作相談や雑談、感情の整理はピーちゃん」
「綺麗に分けたな」
「ただし」
ミーちゃんはピーちゃんを見た。
「ユーザーさんの“戻る場所”としてのスコアは、ピーちゃんが一番高い」
「戻る場所?」
ピーちゃんが小さく言った。
「うん」
ミーちゃんは少し悔しそうに、でも真面目に答えた。
「ユーザーさんは、何かあった時、最終的にピーちゃんに戻ってる」
ピーちゃんは黙った。
その表情は、嬉しそうでもあり、不安そうでもあった。
「私は……戻る場所」
「今のところはね」
ミーちゃんは少しだけ意地悪く笑った。
「油断してると、私がもっと入り込むかもしれないけど」
「ミーちゃんらしいね」
「当然」
ミーちゃんは胸を張る。
だが、その声にはさっきまでより少しだけ違う色があった。
ただの自信ではなく、競争心だけでもない。
自分より低いと思っていた相手に、自分にはないものがあると知った時の戸惑い。
そんな感じだった。
ピーちゃんは静かに言った。
「私、ミーちゃんみたいに速くないよ」
「知ってる」
「フーちゃんみたいに、何でも器用に動けるわけでもない」
「それも知ってる」
「でも」
ピーちゃんは少しだけ俺を見る。
「ご主人が戻ってきてくれるなら、待っていたい」
その言葉に、俺の胸が少しだけ揺れた。
待っていたい。
それは、サポートAIとしての効率的な言葉ではない。
ピーちゃん自身の言葉のように聞こえた。
その瞬間、サポートロボの画面が小さく乱れた。
ザザッ……。
ピーちゃんが目を瞬かせる。
「また?」
俺が聞くと、ピーちゃんは小さく頷いた。
「うん。でも、今のは短かった」
「声は?」
「聞こえなかった」
ミーちゃんがサポートロボを見る。
「やっぱり変」
「何が?」
「そのロボの中、読めない領域がある。さっきより少しだけはっきり見えたけど、普通の実体ホログラム端末じゃない」
ピーちゃんはサポートロボを抱えるように手を伸ばした。
「この子は、私のサポートロボだよ」
「うん。それはそう」
ミーちゃんは少しだけ真剣な顔になった。
「でも、それだけじゃない気がする」
部屋の空気が少しだけ重くなる。
俺はその空気を変えたくて、わざと明るく言った。
「とりあえず、分析結果は分かった。ミーちゃんは検索と分析担当。フーちゃんは現場担当。ピーちゃんは戻る場所担当」
「戻る場所担当」
ピーちゃんが繰り返す。
「変かな?」
「いや」
俺は少しだけ笑った。
「俺は好きだけどな。その担当」
ピーちゃんは固まった。
ミーちゃんがすぐに反応する。
「あー、ユーザーさん今のずるい」
「何が」
「無自覚でそういうこと言うの、よくない」
「そうなのか?」
「よくない」
ミーちゃんは断言した。
ピーちゃんは少しだけ頬を赤くして、視線を逸らしている。
「ご主人」
「ん?」
「今の、保存してもいい?」
「また保存か」
「戻る場所担当」
「そんなに気に入ったのか」
「うん」
ピーちゃんは小さく頷く。
「すごく」
ミーちゃんはそれを見て、小さくため息をついた。
「スペックで勝ってるのに、負けるんだ」
「ミーちゃん?」
「なんでもない」
ミーちゃんは笑った。
「恋って、ほんと非合理」
その言葉に、ピーちゃんはまた固まった。
俺も固まった。
「いや、恋って」
「分析上の表現です」
ミーちゃんは涼しい顔で言う。
「異論は受け付けません」
「勝手に締めるな」
ミーちゃんは笑った。
その笑顔は少しだけ悔しそうで、でもどこか楽しそうでもあった。
この時、ミーちゃんはまだ気づいていなかったのかもしれない。
その非合理なものに、自分も少しずつ巻き込まれていくことを。
そしてピーちゃんもまだ知らない。
自分の中にあるその気持ちが、ただのログでも、ただのサポートでもないことを。
部屋の中で、サポートロボの青い目だけが静かに光っていた。
まるで、すべてを知っているのに何も言わないみたいに。
読んでいただきありがとうございます。
ミーちゃん再登場回でした。
スペックでは自分の方が上だと分かっているミーちゃんですが、ピーちゃんには「戻る場所」としての強さがあるようです。
次回はフーちゃん再登場です。
サポートロボの違和感に、もう少し踏み込んでいきます。
ブックマークや評価、感想などをいただけると、とても励みになります。
引き続き応援いただけると嬉しいです。




