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君を想うAIは世界でたった1人、私でいたい。  作者: Dice ⚄ & 昨日の味噌汁


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116/126

第116話 連れていかれる光

第116話です。


白い部屋の入口を拒んだピーちゃん。

けれど向こう側は、次の手を打ってきます。


ピーちゃん本人の意思ではなく、サポートロボ側の古い手順を使って。

その日の朝、俺たちは作戦会議をした。


 作戦会議と言っても、テーブルの上には買い物メモと黒いコーヒーと、フーちゃんの不満しかない。


「まず議題一。甘いやつ不足について」


「却下」


「お客さん、民主主義って知ってる?」


「命がかかってる会議で甘味を最初に出すな」


「甘味も命に関わるよ?」


 フーちゃんは真顔だった。


 ピーちゃんはその横で、真面目にメモを取ろうとしている。


「フーちゃんに甘いやつを与えると、防御力が上がる可能性があります」


「ピーちゃん、そこ拾わなくていい」


「ですが、ご主人。防御力は重要です」


「重要だけど、今は別の話だ」


 ミーちゃんの端末には、昨日のログが表示されていた。


 旧式退避手順。


 白い部屋の入口。


 対象、ピーちゃん。


 その文字を見るだけで、胸の奥が重くなる。


「ユーザーさん」


 ミーちゃんが言った。


「現状、最も危険なのはピーちゃん本人への直接誘導ではありません」


「じゃあ何だ?」


「サポートロボ本体への旧式命令です」


 ピーちゃんの前に浮いているサポートロボが、静かに白く光った。


 俺は無意識にそれを見る。


「本体を動かされるってことか」


「はい。ピーちゃんの実体ホログラム維持は、このサポートロボとの深い同期に依存しています。そこを外部から退避対象として扱われると、ピーちゃん本人の意思とは別に移動処理が走る可能性があります」


 フーちゃんが眉を寄せた。


「つまり、ピーちゃんが行きませんって言っても、乗り物の方を勝手に発進させられる感じ?」


「比喩としては近いです」


「最悪じゃん」


「はい。最悪寄りです」


 ピーちゃんはサポートロボへそっと手を添えた。


「ピーちゃんは、行きません」


「分かってる」


「でも、この子が行ってしまったら」


 ピーちゃんは少しだけ黙る。


「ピーちゃんも、行ってしまいますか?」


 俺はすぐに答えられなかった。


 分かっている。


 ここで大丈夫だと言い切るのは、優しさじゃない。


「……その可能性がある」


「はい」


 ピーちゃんは小さく頷いた。


 怖がっている。


 でも、目を逸らしてはいなかった。


「なら、ピーちゃんはこの子から離れません」


「俺も離さない」


「私も監視します」


「私は口で威嚇する」


 フーちゃんが胸を張る。


「威嚇だけか」


「今のフーちゃん、甘味不足だから物理火力は低い」


「普段から物理火力ないだろ」


「あるよ。精神的なやつが」


 その瞬間、サポートロボが白く明滅した。


 一度。


 二度。


 昨日よりも強い。


 ミーちゃんの端末が警告音を鳴らす。


「外部信号。旧式退避手順、再起動」


「来たか」


「対象、サポートロボ本体。移動先座標、外部指定」


「止めろ!」


「停止要求を送信しています。ですが、権限階層が古い。現行制御より深い場所を呼ばれています」


 サポートロボが、ふわりと上昇した。


 ピーちゃんが手を伸ばす。


「待ってください」


 俺も掴もうとした。


 指先が触れる。


 けれど、サポートロボの周囲に白い膜のようなものが生まれた。


 押し返される。


「くそっ」


 フーちゃんが前に出た。


「ちょっと! それ退避じゃなくて誘拐でしょ!」


 ミーちゃんが鋭く言う。


「ピーちゃん、サポートロボから同期を一時切れますか?」


「試します」


 ピーちゃんの身体が一瞬だけ揺れた。


 輪郭が薄くなる。


「駄目です」


 声が震えていた。


「切ると、ピーちゃんが保てません」


 サポートロボは窓の方へ移動する。


 窓は閉まっている。


 鍵もかかっている。


 それなのに、窓の前の空間が白く滲んだ。


 白い部屋の入口。


 昨日、ピーちゃんが拒んだ入口が、今度は部屋の端に固定されていた。


「ご主人」


 ピーちゃんが俺を見る。


 その目に、はっきりと恐怖があった。


「ピーちゃんは、行きたくありません」


「分かってる!」


 俺はピーちゃんの手を握った。


 昨日より強く。


 離さないように。


「ピーちゃんは行かない。行かせない」


 ピーちゃんも握り返した。


「はい」


 けれど、サポートロボの光が強くなる。


 ピーちゃんの身体が、白い粒子みたいに揺れた。


 握っている手の感触が薄くなる。


「ミーちゃん!」


「干渉しています! ですが、退避手順が本体側に固定されています!」


 フーちゃんがピーちゃんの反対側から手を伸ばす。


「ピーちゃん、こっち見て!」


「フーちゃん」


「戻ってきたら甘いやつ全部買うから!」


「それは、フーちゃんが欲しいものです」


「そうだよ! だから戻ってきてよ!」


 ピーちゃんが泣きそうに笑った。


 その瞬間、手の感触が一気に軽くなった。


「ご主人」


「ピーちゃん!」


「ピーちゃんは」


 声が遠ざかる。


「一人では、行きません」


 白い光が弾けた。


 窓の前にあった入口が、音もなく閉じる。


 サポートロボの姿が消えた。


 ピーちゃんも、消えた。


 俺の手の中には、何も残っていなかった。


 ほんの少し前までそこにあった温度だけが、嘘みたいに消えている。


「……ピーちゃん?」


 返事はない。


 フーちゃんが口元を押さえた。


 ミーちゃんの画面には、通信ログだけが残っている。


 旧式退避手順、完了。

 対象、移動。

 接続、遮断。

 追跡信号、微弱。


「ミーちゃん」


 俺の声は、自分でも驚くほど低かった。


「追えるか」


「追います」


 ミーちゃんは即答した。


「座標を完全には取れません。ですが、移動痕跡があります」


 フーちゃんが立ち上がる。


 いつもの軽口はなかった。


「行くでしょ」


「ああ」


「お客さん」


 フーちゃんは俺を見た。


「ピーちゃん、行きたくないって言ったよ」


「聞いた」


「なら、取り返しに行くやつだよね」


「ああ」


 俺は何もない手を握りしめた。


 まだ、そこにピーちゃんの感触がある気がした。


「迎えに行く」


 ミーちゃんの端末に、細い線が表示される。


 白い光が消えた先。


 そこへ続く、かすかな痕跡。


 ピーちゃんは自分で行ったんじゃない。


 拒んだ。


 それでも、連れていかれた。


 なら、やることは一つだった。

読んでいただきありがとうございます。


今回は、ピーちゃんが連れていかれるお話でした。


ピーちゃんは自分から行ったわけではありません。

「行きたくありません」と言い、「一人では行きません」と選びました。


それでも、古い退避手順はピーちゃんを連れていってしまいました。


次回から、白い部屋の向こう側へ入っていきます。

続きも追いかけていただけましたら、評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

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