番外編 川崎ナギの企み:五話
というわけで、俺はイズモさんを追っていつもの食堂に来た。……さっきのジャージ姿のままだが、いつもこんな感じの服装なので気にしない。
「さて、ガルムさんは……いた!」
ガルムさんは食堂の奥の方の席にナギ、イズモさんと座り、恥ずかしそうに蹲っている。俺は近くの席に座り、様子を見ることに。
「……アル、ちょっと近くないか?」
「近くないよ。僕達は恋人だからね」
「恋人じゃない。腕掴まれるとガルムさんの様子が見れないだろ」
「むぅ……ユウ君は僕よりガルム君の方が気になるんだー。確かに今のガルム君は可愛いもんねー」
「何言ってるんだお前は」
いくら今のガルムさんが美少女とはいえ、そういう対象になることはない。だって元男で俺の友達だし。あとアオイさんが怖いし。
「……二人は、こいびと、なの?」
俺とアルジュナが言い合っていると、正面に座るミドラがそんな事を呟いていた。そうだ、こいつもいたんだった。完全に忘れていた。
「違うぞ」
「恋人だよ」
俺達はほぼ同時に真逆の事を言う。ミドラは首を傾げた。
「えっと……どっち……?」
「ユウ君、この期に及んでそれはないよ!僕の何が駄目だっていうの!?」
「とりあえずその思い込みが激しいところだな」
「ユウ君、真剣な顔で駄目だしされるといくら僕でも傷付くんだけど」
アルジュナが悲しそうに呟く。そんなアルジュナを他所に、ミドラはどこか安心したように息を吐いた。
「よかった……ユウには、こいびとがいないのね……」
「ん?何か言ったか、ミドラ?」
「なんでも、ないわ……」
今、なんか失礼な事を言われた気がするんだけど。気のせいだろうか。
「……まぁ、いいや。ガルムさんの様子を確かめようぜ。……おっ、ちょうどアオイさんが席に来てるな」
「ユウ君、なんでそんなにガルム君の事が気になるの?」
「いや、本当にアオイさんを誤魔化せるのか気になるんだよ。あの人、ガルムさんが絡むと色々と凄いからな」
「ユウ君の知り合いって、本当に癖が強いよね」
うん、お前が言うなと言いたい。
ガルムさんの席の方に視線を向けると、アオイさんが注文を聞きに来ている所だった。
「いらっしゃいませ。……おや、イズモさんに、ナギさんではないですか。ガルムは一緒じゃないんですか?」
「は、はい。ガルムは用事があるそうなので」
「そうですか。それは残念です……少しでも弟成分を補給したかったのですが」
弟成分ってなんだろう。聞いたことがないんだけど。アオイさんは残念そうに溜め息を吐いたあと、イズモの隣に座るガルムさん(美少女)に目を向ける。
「あれ、あなたは……」
「……!」
アオイさんがガルムさんに胡乱げな視線を向ける。……まさか、もうバレたのか……?少しドキドキしながら、様子を伺ってみる。
「初めて見る人ですね。イズモさん達のお友達ですか?」
「うん、そうなんだ〜。最近知り合ったから、皆で食事にも行こうと思って〜」
「素敵ですね。……私もシェリィちゃんやガルムとご飯食べに行きたいんですけど、仕事が忙しくて……」
バレてない……だと?マジか、あの変装本当に効果あるのか……!?もしそうだとするなら、ミドラとアルジュナの凄さを認めざるを得ないが……ん?
「……お前ら、何やってるの?」
「えっと……ユウ君の身体がどんな感じなのかこっそり調べようと思って……」
「私は、ユウの顔をもっと近くで見たくて……」
いつの間にか近づいていたミドラと、俺の背中に手を当てているアルジュナ。ミドラは良いとして、アルジュナは堂々とした痴漢宣言である。誰かこいつを兵士さんに突き出してくれ。
「それにしても、綺麗な方ですね……あ、すいません。注文をお聞きしているんでしたね」
「僕はパンケーキで〜」
「僕も同じものをお願いします。ガル……ガルフィさんはどうしますか?」
「……激辛ステーキを一つ頼む」
「え、激辛ステーキ……?珍しいですね、それを頼む人は中々いないですよ?それこそ私の弟くらい……」
「あー!ステーキ!普通のステーキですよね、ガルフィさん!」
イズモさんがアオイさんの言葉を遮る。……ガルムさん、いつもの癖が出たんだろうなぁ。ていうか、激辛ステーキってそんな扱いだったんだ。
「ガルフィさんとおっしゃるんですか。あら、名前まで似ていますね……凄い偶然です」
「はい、凄い偶然ですね!」
「よく見てみると、顔も少し似ているような……」
やばい。ステーキ一つのせいで早速ガルムさんがピンチだ。というか、咄嗟とはいえもうちょっと名前は捻った方が良かったと思う。仕方ない、ここは助け舟を出そう。
「すいませーん、注文したいんですけどー!」
「あ、はーい!今行きます!すみません、イズモさん。私、もう行きますね。注文したものはちゃんと持ってきますから」
「は、はい!」
会話が終わり、アオイさんが俺がいる席の方に来る。近くの席に座っておいて良かった。
「あら、ミドラさんではないですか……あれ、またはじめましての方ですね?」
「あっ」
そうだった。俺も姿が変わってるんだった……!バレないように話し方に気をつけないと。俺が美少女になっているとバレたらいろいろと面倒くさい事になってしまう!
「わ、私はナオって言うんだ。最近この町に来たの」
「そうなんですか……私はアオイと言います。はじめましてのお客さんは大歓迎ですよ!どうかご贔屓にしてくださいね」
「う、うん。よろしく……」
うおお……自分の女口調、キッツ……今まで守ってきた自分の大切なものが壊れていく感じがしてくる。
「僕はアル!偉大なる研究者にして神の使徒が一人!よろしく頼むよ、お嬢さん」
「よ、よろしくお願いします……?」
アルジュナは大仰な自己紹介をして、アオイさんを困惑させている。確かに、何処からどう見ても痛いやつだよな。
「今、何か失礼な事を考えなかったかい?」
びっくりした。アルジュナが半目で俺を睨んでいる。やっぱり俺って、わかりやすいのかな……
「それじゃあ、注文をお伺いしますね」
「私は、パンケーキを……」
「俺……私も、同じものにしようかな」
「僕もー!」
「はい、分かりました。……今日はパンケーキの注文が多いですね……それでは、すぐに持ってきますので!」
アオイさんはそのまま去っていった。よかった、どうにかやりきれたようだ。力が抜け、俺は机に倒れ込む。
「……はぁ……」
「どうしたの、ユウ君?あっ、さっきの名演技だったよー。流石ユウ君だね」
「全然嬉しくない」
「……ユウ、慣れるの早いわよね……ガルムと比べて、その姿に慌ててないし……」
「まぁ、それが俺の取り柄だからな……」
今それどころじゃないし。それに、ガルムさん見てたら、俺に起こってる状況なんて些細なものだよな。俺は全然困ってないし。
「じゃあご飯が来るまで……ユウ君にひっついちゃおっと」
「断る。ミドラにひっついておいてくれ」
「なんで!?さっきから僕に冷たくない!?」
「……アルは、ちょっと……危険な感じがするわ……」
「しかも拒否された!?二人共酷いよー!」
その後、料理が来るまでアルジュナのだる絡みは続くのだった。




