番外編 川崎ナギの企み:三話
「会いたかったよユウ君!がしっ!」
「ちょっ、アルジュナ――」
「ユウ君?僕の名前は?」
「……アル」
いきなり抱き着いてきたアルジュナを本名で呼ぶと、怖い顔で見つめられてしまった。顔を逸らしながら、アルジュナの抱擁を剥がそうと試みる。
「……!?ユウ、何故抱きつかれているの……?」
ミドラが驚いた表情を浮かべて俺を見る。……なんで抱きつかれているのか?俺が知りたいよそんなの。
「ユウさん、このお二方は……?」
「俺の知り合――」
「僕はユウ君の恋人だよ!ねっ、ユウ君!」
「恋人……?」
「……!!?!?」
首を傾げるイズモさんと、俺とアルジュナを驚いた表情で交互に見るミドラ。なんてことを言いやがるんだこいつは。
「違うわ!こいつはアル!そんでこっちはパーティーメンバーのミドラ!どっちも俺の友達だよ!」
誤解を生みそうなので必死に訂正する。その言葉にイズモさんは「そうだったんですね」と納得してくれた。しかし、納得していない者が一名。
「えー、僕は友達じゃなくて恋人なんだけどなー」
「……貴女、一体何……?一緒に部屋に入った時から思ってたけど……」
「はじめまして、ミラードのお嬢さん。僕は偉大なる存在にして研究者のアルだよ。よろしくね」
「……!?なんで、私がミラードだって……」
「研究者の勘ってやつ。あ、ユウ君。僕の抱擁を解こうとしても無駄だよ。君の腕力じゃ僕には敵わないさ」
「……!ユウから、離れて……!」
「ふふん、君みたいなミラードが僕を止められるとでも……いたたたたた!ちょっ、力強っ!?」
ミドラにアルジュナを剥がして貰い、何とか解放される。……なんか前にもこんな事あったな……あっ。
「「「…………」」」
……イズモさん達の視線が痛い。そりゃそうだよな。多分三人は、「何を見せられているんだろう」という気持ちで見ているのだと思う。分かるよ、俺もそうだし。
「……お前、凄い友達がいるんだな」
「……はい」
ガルムさんの言葉に、俺は目を逸らしながらそう答えるのだった。
「私はミドラ。ミラードよ……今はユウのパーティーで、冒険者をしているわ……」
「僕はアル!偉大なる研究者だよ!ユウ君の恋人……になる予定の美少女さ!」
あの居た堪れない空気の後、俺は二人に改めて自己紹介をさせた。今はとにかく、説明が必要だと思ったのだ。……それに、あの恥ずかしい光景を忘れて欲しいというのもある。マジで顔から火が出そうだったから。
「……え、ミラードなのか?なんでそんな奴が町中に……?それにその姿は……」
「ユウに「いめちぇん」してもらった私独自のものよ……ユウへの恩を返すために、パーティーに入ったの……」
「いめちぇん……?」
ガルムさんが困惑している。……うん、俺もよく分からないんだ。気づいたら懐かれたから。
「……ユウさんのお友達なのですね。僕はイズモと申します。お友達同士、仲良くしていただければ嬉しいです」
「うーん、ユウ君の近くにこんな美少女がいたなんて……僕に引けを取らないなんて、強力なライバルだね……」
「え?いえ、僕は男なのですが……」
「……え?マジ?」
こっちではアルジュナが困惑している。……カオスだ。どう収拾をつけようか、これ。……俺がどうしようかと辟易していると、ナギが大きく咳払いをした。
「コホン……皆、そこまで〜。今は話し合いの最中でしょ〜?」
「あ、そうだったな……すまん」
「すみません、ナギさん」
ガルムさんとイズモさんが頭を下げ、注目がナギに戻る。まさに、鶴の一声という感じだ。ナギは一人アルジュナ達の元へ歩いていくと、興味深そうに彼女達を見つめる。
「……ふーん、なるほど〜」
「……え、何この子。なんかマジマジと見てくるんだけど……」
「どこか……不吉な予感がするわ……」
「聞こえてるよ〜。……この人たちを使えば、もしかしたら〜……」
ナギの前でひそひそと話をしだすアルジュナとミドラ。そんな彼女らを見ながら、ナギはぶつぶつと何かを呟いている。絵面が凄いな。……やがて、ナギは二人を見つめるのを止め、ニコニコと笑顔を浮かべる。
「……ねぇ、アルさん、だっけ〜?少し、聞いて欲しい事があるんだけど〜」
「え、僕?なんで?……言っておくけど、ユウ君以外の話を聞くつもりはないよ?」
「そのユウ君にも、関連する話だよ〜」
「聞かせてもらおうじゃないか」
「おい」
何故ナチュラルに俺を餌にした。あとアルジュナの食いつき早すぎだろ。ナギはアルジュナに手招きをして、部屋の隅に集まり、ひそひそと話をする。……さっきの会話の後にひそひそ話されるの怖すぎるんだけど。俺、何かされないよな……?そんな事を思っていると、アルジュナ達がこちらの方に戻って来る。
「話は聞かせてもらったよ!そこのガルム君とやらの悩み、僕がサクッと解決してあげようじゃないか!」
「おい、何があったんだお前は」
豹変しすぎじゃない?さっきまでそんな感じじゃなかったよね?俺の不安を他所に、アルジュナは胸を張って得意げにしている。なんだろう、これは嫌な予感がするぞ?
「それじゃあ、早速魔法を使うね!そこのミラードちゃん、こっち来て!」
「え、私……?」
言われるがままに、ミドラはアルジュナの元に向かう。アルジュナはミドラの肩に触れると、アルジュナの手が淡く光を放った。……止めたほうがいいよな、あれ。
「おい、お前何して……」
「準備完了!それじゃあ一気に……≪模倣≫!」
「うわっ!?」
アルジュナが魔法を唱えると同時に、視界が白く染まった。……どうやら、少し遅かったようだ……!
(何も見えない……!というか、めっちゃ眩しい!)
目が焼かれてしまいそうで、思わず手で目を覆う。光が収まるのをじっと待ち、様子を伺う。――やがて、光は収まり、俺は恐る恐る目を開けた。そこには先程と同じように、アルジュナとナギ、ミドラが立っていた。
「終わった……のか?……ん?」
なんだ、今の声。俺のものとは思えないほど高かったんだけど。とうとう俺、喉がおかしくなったのか?異世界に来て初めての風邪?
「……ん?」
疑問、再び。見下げてみると、自分の足が見えない。それと同時に感じる、上半身の重み。俺の身体……おかしくない?明らかに一部分が膨らんで……
「……うおっ!?お前、ユウか!?」
思考の途中に、また甲高い声が聞こえてきた。声のした方を見ると……見覚えのない、緑髪の大柄な美少女がいた。……いや、誰?
「あの……どなたですか?」
「俺だよ、ガルムだ!」
「えっ、ガルムさん!?何でそんな姿に……?」
「いやいや、それは俺の台詞だろ!何でお前が黒髪の美少女になってるんだ!?」
「えっ」
言われて、俺は自分の身体を改めて見直す。……肩まで掛かった黒い髪に、いつも通りの簡素な服装。おまけに細い腕……そして本来あるはずのアレの感覚……これって、もしかしなくても……
「ユウ君、ここに鏡があるから見てご覧。そっちのガルム君もね」
アルジュナにそう言われて、俺とガルムさんは同時に鏡を覗き込む。……そこに写っていたのは、二人の美少女だった。もう一度言おう。綺麗な髪と顔をした、二人の美少女だった。
「「な、なんじゃこりゃあー!?」」
信じられない光景に、俺とガルムさんは、揃って甲高い大声をあげるのだった。




