番外編 川崎ナギの企み:二話
「……姉ちゃんに弟離れをして欲しいんだ」
ガルムさんが口にした悩み。それは予想通り、アオイさんに関する事であった。ガルムさんは深刻な表情で俯いている。
「……なるほど。弟離れですか〜……どうしてそんな事を〜?」
「……俺の姉ちゃんは少し変わっててな。俺が側にいたらすぐに甘やかそうとしてくるし、逃げたら逃げたで地の果てまで追いかけてくる」
……いつも通りのアオイさんだな。うん。
「それは、凄い話ですね〜……」
ナギが少し引いていた。こいつにも似たような姉がいからな。同じ境遇の人間同士、思う所があるのかもしれない。
「止めろと言っても止めないし、隠れたらあらゆる手段を使って追いかけてくる……前まではその程度だったんだが、最近はそれを越えてくるようになったんだ」
「え?アオイさんが?」
……俺が知ってる範囲でもあの人はやば……凄いのに、そのまた上を行ってるのか?そこでガルムさんは俯いてしまい、代わりにイズモさんが話を続ける。
「……前にユウさんとお会いした時、ガルムはアオイさんの行動を許容していましたよね?それが引き金となり、アオイさんの行動がより過激になってしまったんです……流石にガルムも許容が出来なくなり、どうにかしたいと考えているらしいんです」
「マジですか」
「マジです。ちなみに、行動の内容は……」
「あっ、止めてくれイズモさん。聞きたくないから」
アオイさん……ついに暴走したのかあの人。いつかやるとは思っていたが、とうとうそんな状態にまで……
「僕もガルムの相談に乗っていたのですが、いい案がでなくて……ですが、ナギさんが解決してくれると聞いて安心しました。こういう事は、僕には専門外ですので……」
「あはは〜……そうですね〜……」
ナギの方を見ると、めちゃくちゃ顔が引き攣っていた。必死に笑顔の表情を保っているように見える。それを見ていると、今度はナギが耳打ちをして来た。
「……おい、何者なんだこいつの姉貴は。一体何をやらかしたらこんな大男をびびらせられるんだ?」
「知らねぇよ。知りたくもない。それに、お前の姉だって同じようなもんだろ?」
「リエでももうちょっと手心はあるし、少なくとも僕がびびった事なんて一度もねぇぞ」
「いろいろと凄い人なんだよ」
「……やっぱ、てめぇの知り合いにはやべぇ奴しかいねぇんだな」
なんてことを言うんだ。この前も似たような事を言われたんだから止めて欲しいんだけど。まともな人だっているよ多分。
「……ユウさん、どうかしましたか?急にナギさんと話して……」
「い、いや、何でもないよ」
イズモさんが首を傾げながらそんな事を尋ねたので、ナギはさっと俺から離れた。イズモさんは俺から目を逸らすと、ナギの方に目を向ける。
「お願いします、ナギさん。どうかお力添えを」
「うん、オッケ〜。じゃあ、ちょっと別の場所で作戦会議しよっか〜。場所はそうだな〜……ユウの宿屋の部屋なんてどうかな〜?」
ナギが軽い様子でそう言ったので、俺はギョッとしてナギの方を見る。なんてことを言い出すんだこいつは。
「おい、ちょっと待てよ。なんで俺の部屋なんだよ。そんなに広くないし、アカギさんの店だって近いんだぞ?」
「僕のチートを使えば、アオイさんと会わないルートで宿屋に行けるし〜。何より、僕の部屋じゃリエがいるかもしれないからね〜」
ナギの言葉に、ガルムさんは首を横に振った。
「待ってくれ、ナギだけでなく、ユウにまで迷惑を掛けるのは……」
「お気になさらず〜。困った時はお互い様ですよ〜」
「それ、俺の台詞な」
というかまだ部屋を貸すとも言ってないだろ。……まぁでも、ガルムさんも困ってるんだろうし……突拍子もない所を提案されるよりかは、マシなのかもしれない……大分毒されてるな、俺。
「まぁまぁ、人助けだと思って〜」
「……分かったよ。ただし、やるからにはちゃんとやれよ?」
「もちろん〜」
「良いのか、ユウ?」
「まぁ、ガルムさんにはいつもお世話になってますし。だから気にしないでください」
「ユウ……感謝する」
ガルムさんが頭を下げ、感謝の言葉を述べる。……そこまで感謝されると、逆に居た堪れないというか……
「さぁ、ユウの部屋にレッツゴ〜」
「だからお前が言うな、お前が」
そういうわけで、俺達は揃って俺の部屋に集まることになった。
はい、長々とした回想終わり。今、俺達四人は俺の部屋に集まり、ナギの言っていた「男子会」というものを開催している。……いや、男子会ってなんだよ。お茶でもすんのか。
「それでは、ガルムさんのお姉さんに弟離れをしてもらうにはどうしたらいいか、意見を出してもらいたいと思いま〜す。まずは〜……イズモさん〜」
「えっ、僕ですか?」
ナギは俺のベッドの上に座りながら、椅子に座っているイズモさんに話題を振る。イズモさんは困ったように頬をかき、自信なさそうに発言した。
「えっと、街を引っ越すとか……」
「なるほど〜。どうかな、ガルムさ〜ん?」
「無理だな。姉ちゃんは距離を取ったくらいで諦める人間じゃない。どんな手段を使っても俺の位置を探るだろう」
「……ですよね……」
ですよねじゃないんですけど。でも改めて考えると、アオイさんってやっぱりストーカーの才能がありすぎるよな。流石超のつくブラコンである。
「ユウさんはどうですか?僕には、距離を置くくらいしか考えられなくて……」
いや、それが普通だよイズモさん。普通は弟離れをして欲しいって言ってる人へのアドバイスなんて、「距離を取ったらいい」で解決するんだよ?相手がとんでもないブラコンでない限りは。俺はイズモさんの問いに対して、少し目を逸らしながら答える。
「えっと、ちょっと思い浮かばないというか……」
アオイさんはただのブラコンではない。あらゆる手段を用いて弟と会おうとする強くて賢いブラコンだ。そんな人間をどう対処したらいいのかなんて、凡人である俺には考えつかなかった。
「なら、やはり引っ越しはどうでしょう。それか、正面から話し合ってもいいかもしれませんね」
「……前までの姉ちゃんだったら、それでよかったかもしれないけどな。今の姉ちゃんが俺の話を聞き入れてくれるとは思わねぇな」
「そうですか……」
どうしよう、さっきからイズモさんとガルムさんの話し合いしか行われてないんだけど。やっぱ俺っていらないのではないでしょうか?そしてナギ。お前はさも当前かのように俺のベッドに座るんじゃない。この部屋の主は俺だぞ。と、そんな事を考えていると、ナギがベッドから立ち上がった。
「じゃあ今度は僕だよ〜」
「え、ナギさんが……?」
「もちろん〜。僕もこの問題を解決する一員だもん〜。それに、二人で話してたら、集まった意味がないでしょ〜?」
「確かにな……よし。ナギの意見も聞かせて欲しい」
ガルムさんがそう言うと、ナギはわざとらしく咳払いをした。皆の注目を集め、ナギは自分の意見を述べる。
「アオイさんは生半可な対策では意味が無いんでしょ〜?だったら……変装はどうかな〜」
「……変装?姿を変えるってことか?」
ガルムさんの言葉に、ナギは頷いた。
「……俺が変装しても、姉ちゃんは一発で分かると思うぞ」
「ただの変装じゃないよ〜。服装を変える程度のものじゃなくて、人そのものを丸ごと変えちゃえば良いんだよ〜。そうすれば、気づかれることなんてないでしょ〜?」
「……何を言ってるんだ、お前は?」
ガルムさんが首を傾げる。当然、俺とイズモさんの反応も同じだ。俺はナギの意見を自分なりの言葉に変えてみる。
「つまり、誰かにガルムさんの身代わりになってもらうってことか?」
「違うよ〜。ここにはミラードっていう姿を変える魔物がいるでしょ〜?そいつらみたいに、別人に変身すればいいってことだよ〜」
「いや、そんなの出来るわけ無いだろ?」
俺がそう言っても、ナギは笑顔を浮かべるだけだ。……なんだろう、可愛らしい笑顔のはずだが……本性を知っている身としては、不気味でしょうがないんだけど。
「僕が調べた所によると、ミラードは≪模倣≫っていう魔法で変身をするらしいんだ〜。つまり、その魔法を使える人に、変身の魔法を掛けて貰えば良いんだよ〜」
「……簡単そうに言うけど、そんな人本当にいるのか?ていうかそもそも、その魔法って人間が使えるものなのか?」
「そこまではわかんな〜い」
こいつ、いちいち腹立つ言い方するな。……でも、本当にそんな事が出来るのなら……アオイさんを巻くことも、距離を取ることも簡単になるよな。
「うーん、どっかにミラードの魔法を使える奴がいたら……」
あれ……自分で言っておいてなんだけど、この台詞って……定番のフラグなのでは?こういう台詞の後ってだいたい……
「ユウくーん!僕が来たよー!」
「こんにちは……ユウ……」
聞き覚えのある声と共に、俺の部屋の出入り口から見覚えのある奴らが現れた。……お察しの通り、そこにいたのは、アルジュナとミドラだった。ほんとに来ちゃったよ……




