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番外編 川崎ナギの企み:一話


「それではこれより、第一回男子会を開催しま〜す。拍手〜」

パチパチパチと、疎らな拍手が店の中に響く。声の主である桃髪の少年……ナギは満足そうに頷いた。俺は真顔で拍手を送りながら、一緒に机を囲んでいる面子を見た。

「……なんだか新鮮ですね。お友達と、このような話し合いの場を設けるというのは」

白髪の少年……イズモさんは、どこか嬉しそうにそんな事を言った。相変わらず年と言動が合っていない。

「今日はよろしく頼む。イズモ、ナギ。そしてユウ」

律儀に挨拶をする緑髪の男性……ガルムさん。気合が入っているのか、ガルムさんはいつもよりも堂々としていた。

(……うーん、どうしてこうなった?)

そして、一人困惑する俺……ユウ。俺は未だ疎らな拍手を送りながら、どうしてこうなったのかを一人振り返るのであった。


ある日の昼下がり。俺はナギと一緒に飲食店に来ていた。たまにはいつもと違う所で食べようとした所、店の中でナギに遭遇してしまったのだ。そして相席を半ば強制的に進められてしまい、俺はこいつと席を同じにすることになった。

「ったく……なんで俺がお前と同じ席に……」

「こんな美少年と相席出来るんだぞ?もっと喜べよ」

「そういうのは自分で言うもんじゃねぇ」

例によって、こいつは俺に素の口調で接してくる。普段は猫被りをしているそうだが、俺の前ではもう面倒くさくなったのだとか。諦めんなよ。

「というかは眼鏡はどうしたんだよ。お前はリエに「眼鏡を外すと豹変する」っていう設定でいってるんだろ?眼鏡を外したままなら、お前もう設定ガン無視のただの不良少年じゃねえか」

「あ?良いじゃねえか別に。リエは最近バイト漬けで顔を合わせる暇もほとんどねぇんだから、こんくらいバレねぇよ」

……本当に、なぜこの不良少年の本性がリエにバレていないのだろう。あとあいつはあいつでなんでバイト漬けなんだ。クエスト行ってるんじゃなかったのかよ。

「……ナギはリエを手伝ったりしないのか?」

「手伝おうとはしたぞ。でも、「ナギはこんな事しなくて良い」とか言って手伝わせてくれねぇんだ。クエストに行こうにも、生活費が困窮してるからまだ無理なんだと」

ナギは不満そうな顔でそう言った。なんかリエが不憫に思えてきたんだけど。今度あったときになんか奢ってやろうかな。……あ、というか注文してないじゃん。

「……そろそろ注文するか。俺は……ケーキで」

「僕はこのスパイシーチキンにするか」

……スパイシーチキン?そんなのあるのかこの店。どう考えてもスイーツ系のお店な気がするんだけど。だって周りの人達ケーキとかお菓子しか食べてないし。

「なぁ、ほんとにそんなのあるのか?」

「メニューを見てみろよ、上から二番目の所にあるぜ」

そう言われて、俺は先程注文を決める時に見たメニューに目を通す。……上から二番目の文字列にスパイシーチキンという文字があった。マジかよ。

「ほんとだ……なぁ、ここって何の店なの?」

「ああ?てめぇそんな事も知らずに来たのか?ここは激辛料理で有名な店だぞ?」

「えっ、でも皆ケーキとか食ってるけど……」

「あいつらが食ってんのは激辛ケーキだな。生地に特製調味料混ぜたスパイスケーキだ」

マジかよ。何そのやばすぎるケーキ。俺、辛いの駄目なんだけど。どうしよう、何か食べれるものないかな。お腹減ってるんだけど。

「なぁ、なんか普通の料理ないのか?」

「もちろんある。普通のケーキが一つだけな。それ以外は激辛料理ばっかりだ」

「なんでだよ。偏りが過ぎるだろ」

ケーキ以外激辛しかないとかどんな店だよ。

「よし、そろそろ店員を呼ぼうぜ。注文も決まったことだしよ」

ナギは会話を止め、近くを歩いていた店員に声を掛け、注文をする。……その際にはいつもの猫被りをしていた。

「……お前、すげぇな。色んな意味で」

「なんか、褒められてる気がしねぇな」

ナギは嫌そうに顔をしかめた。頬杖をつきながら机をトントンと叩いている様から、彼の本性が伺えるようである。

「というか、てめぇもてめぇで受け入れが早いよな。さっきまで僕との相席拒んでたくせによ」

「腹減ってるんだよ。他に空いてる席もないし仕方ないだろ」

「本当は僕みたいな美少年と相席出来て嬉しいんだろー?」

「嬉しくない。……おい、ニヤニヤすんな。生憎俺にはそういう趣味はない」

全く、こいつは俺をからかって一体何がしたいんだ。ニヤニヤと笑みを浮かべているナギを呆れたような表情で見ていると、近くの席から大きな声が聞こえてきた。

「頼む!この通りだ!俺に手を貸してくれ!」

「ちょっ……落ち着いてください!人が見てますから!」

声の方に顔を向けてみると……そこには、見覚えのある人物がいた。……いや、見覚えがあるというか、知人というか……

「もうイズモしか頼れる奴がいねぇんだ!ユウは最近見当たらねぇし、アカネにこんな話をするわけにも……!」

「分かりましたから!ガルム、落ち着いて……」

必死に緑髪の男性――ガルムさんを宥めている白髪の少年……イズモさんはふと、目をこちらに向けた。目が合う。すると、イズモさんは目を見開いて驚いた表情をした。

「ユウ、さん……?」

「あ、えーと……すんません」

「ちょっ、なんで目を逸らすんですか、ユウさん!?一緒にガルムを抑えてください!」

俺とナギは目を逸らしてそっぽを向いた。その後、店中で騒いでいる二人組がいるとして、二人は注意を受けるのだった。


イズモさん達が注意を受けた後、俺はイズモさん達と相席をすることにした。無視したお詫びというのもあるし、何故ガルムさんとあんなに大声で話していたのか気になったからだ。

「……先程は、ご迷惑をおかけしました」 

「大丈夫だって。無視した俺も悪いし、イズモさんが謝ることないだろ?」

俺は目の前で頭を下げるイズモさんにそう言うと、イズモさんの隣に座るガルムさんを見る。……なんでこの人、会うたびに暗い顔をしているんだろうか。もしかしたらいろいろと気苦労が多いのかもしれない。

「……そちらの方は、はじめましてですね」

「僕は川崎ナギだよ〜。よろしくね〜」

「イズモと申します。よろしくお願いします、ナギさん」

ナギと朗らかに挨拶を交わすイズモさん。……例のごとく猫被りをしているナギを横目で見ると、本当にさっきまでのナギと同一人物なのかと疑ってしまいそうであった。

「……ガルムだ。よろしく頼む、ナギ」

「よろしく〜」 

と、それまで口を閉じていたガルムさんが、ナギに挨拶をする。未だガルムさんの表情は暗かったが、少しは元気を取り戻したようだ。

「ガルムさん、さっきはどうしたんですか?いつもより焦ってたし、余裕もなさそうでしたし……」

「……そう見えたか?」

「はい、めちゃくちゃ焦ってるように見えましたよ。……もしかして何か悩みとかあったりします?」

「……その通りだ。俺は今、とても悩んでいる」

ストレートに聞いてみると、ガルムさんはあっさりとそんな事を打ち明けた。……ガルムさんに悩みか……十中八九アオイさんが絡んでそうだな。割とマジで。そう思うと、聞きたくなくなってきたな。……そんな事を考えていると、隣に座るナギが身を乗り出した。

「その悩み、僕に話してみませんか〜?」

「え……?」

首を傾げるガルムさん。対してナギはニコニコと笑みを浮かべながら、話を続ける。

「実は僕、人助けをするのが趣味で〜……よくいろんな人の悩みを解決したりしているんです〜。もしかしたら、ガルムさんのお悩みも解決出来るかもしれません〜」

「本当か!?」

ナギの言葉に、今度はガルムさんが身を乗り出した。ガルムさんは声を荒らげてしまった事を自覚したのか、コホン、と咳払いをする。俺はこっそりとナギに耳打ちをした。

「……なぁ、お前そんな事してたっけ」

「今でっち上げた嘘だ。こんな大の大人が必死になるくらいの悩みなんて、面白そうだし聞きたいに決まってるだろ?」

「お前、やっぱいろんな意味でやばいな」

「そういうてめぇはつまんねぇな。もっと欲望のままに生きてみろよ?」

こいつ……いやもういいや。話が進まない。

「ナギ?どうしたんだ、ユウとひそひそと……」

「なんでもないで〜す。それより、悩みを話してくださいませんか〜?後悔はさせませんので〜」

「あ、ああ……それなら……」

ガルムさんはまた咳払いをして、自分の席に身体を戻した。そして真剣な表情になり、その悩みを吐露した。

「……姉ちゃんに、弟離れをして欲しいんだ」




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