番外編 禁忌の研究者:八話
……気がついたら、俺はいつもの宿屋の部屋にいた。起き上がって辺りを見渡してみると、混沌剣がベッドに立てかけてあるのが見えた。……それを見て、俺は仮想世界から出ることが出来たのだと判断した。
「ふぅ……よかった……」
ホッと安堵の息を吐いて、俺は身体を起こす。服装もいつも通りで、制服姿ではない。部屋の間取りも、宿屋の間取りである。……やっぱりあの家よりかはこちらの方が良い。俺は服を外行きのものに着替え、顔を洗うために水を貯めている桶の元へ。――そして鏡を見た時に、ふと、俺の頬が目に入った。
「…………」
……仮想世界から戻る直前の記憶が蘇る。俺、アルジュナに……キ……されたんだよな。一瞬だけ。あの時は、本当に驚いた。そんな事をされた経験などないので、顔も赤くなっていた気がする。思い出すと、無性に恥ずかしい気分になってきた。穴があったら入りたい。
「……クエスト行こ」
……よし。こういう時は気分転換が一番だ。フラムとかを誘って、クエストに行こう。俺は準備を整え、足早に部屋を出た。
ギルドに着くと、フラムとシオンが先に来ていた。俺は二人に声を掛ける。
「よっ、二人共。おはよう」
「あっ、ユウ!おはようなのじゃ!」
「おはよう、ユウ。……なんだか今日は元気そうね」
「そうか?別にいつも通りだぞ?」
どちらかと言うと、シオンの方が元気があると思うのだが。いつもより格段にテンションが高いし。
「シオン、楽しそうだけど、なんかあったのか?」
「おお、よくぞ聞いてくれた!実は、不思議な夢を見てのぅ……見たこともない不思議な所で、フラムやエイカと話している夢だったんじゃ。しかも、内容もくっきりと覚えておる!こんな事は今までになかったぞ!」
シオンは楽しそうにそんな事を語った。……凄く聞き覚えがあるな。それ、仮想世界でのシオンの話だよな……やっぱり俺と同じで、こいつも記憶に残ってるのか。
「……実は私も、同じような夢を見てね。さっきまでシオンとこの話をしていたのよ」
「フラムもか?……ちなみに、どんな内容だった?」
「そ、それは……秘密よ」
フラムは顔を赤くして、そっぽを向いた。……どうしたんだこいつは。秘密も何も、俺はフラムの様子を知ってるし、わざわざ秘密にすることなんて……
(……あっ)
あったな……俺に煮物を食べさせて来た時のことだろう。ひょっとしたらフラムもあれを覚えていて、俺と同じように恥ずかしいと思っているのかもしれない。……いや、じゃあなんでしたの?聞かないけど。
「……二人共、随分と面白そうな夢を見たんだな」
「うむ。また見てみたいものじゃ」
「……そうね。いい夢だったわ」
二人は楽しそうに笑う。……二人の記憶には、アルジュナやあの漆黒の龍の姿はないみたいだ。そんな二人の様子を見ていると、俺も夢を見ていたのではないかと錯覚してしまう。
(……まぁ、夢だったと思ったほうが良いのかもな)
二人が夢だと思っている以上、俺が仮想世界の話をしたら問い詰められそうだ。あと、アルジュナにされたことを二人に言うのもちょっとな……
(……よし、あれは夢だ。いい夢を見ていたと思えば、それで……)
「ユウくーん!やっと見つけたよー!」
突然、聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返ろうとすると同時に、俺は誰かに押し倒された。その拍子に何処かに腰をぶつけたのか、ジンジンと痛みを感じた。
「いってぇ……腰打った……」
腰を擦りながら俺はゆっくりと顔を上げる。――視線の先にいたのは、緑髪の美少女……アルジュナだった。
「あ、アルジュナ……!?もごっ」
「ストーップ!」
名前を呼ぶと、アルジュナが顔面蒼白になって口を塞いできた。そのまま顔を寄せ、耳元で囁いてくる。
「族長の娘が近くにいるから……!僕のことはアルって呼んで!」
「……お、おう」
「コホン……と、いうわけでユウ君……来ちゃった☆」
「……いや、来ちゃったじゃないですけど!?なんでここにいるんだよ!?」
アルジュナは頭に手を当て、ウィンクをしながら舌を出す。姿は仮想世界の時とそっくりそのままで、服装が制服姿とは異なっていた。白い装束に身を包んだ彼女は、目を輝かせて俺を見ていた。……ていうか動けないんだけど。
「ユウ君に会いたくて……あの集落からこっそり抜け出してきたんだ」
「……え?なんで?」
「そりゃ、僕は君の恋人だからね」
……空気が、凍った。周りの人達がこちらに目を向けている。……やっべ、どうすんだこの空気。というか皆の視線が痛い。そしてフラムが目を見開いてこちらを見ている。
「……ユウ?こ、恋人って……?それにその子は一体……?」
「さぁユウ君、恋人同士でのスキンシップをしよっか」
アルジュナはフラムを無視して、俺の方に身体を近づけてくる。……こいつ、一体なにする気だ!?というかなんでそんなにエンジン全開なの!?
「だ、駄目!ユウから離れなさい!」
「ふふん、人間如きに、僕が止められるわけ……痛たたた!止めて、肩が壊れちゃう!止め……止めてぇ!」
フラムがアルジュナを止めると同時に、アルジュナの力が弱まった。その隙に、俺は倒れていた所から脱出する。助かった……!
「何なのこの子は!ユウ君との時間を邪魔しないでよ!」
「貴女こそ誰なのよ!いきなりユウのこ、恋人とか……!」
「僕は正真正銘ユウ君の恋人なんですー!そうだよね、ユウ君!?」
「いや、違うけど」
「なんでぇ!?そこは味方してくれる所じゃないの!?」
アルジュナが涙目でこちらを見てくるが、違うものは違う。だって、あいつ一時的な恋人とか自分で言ってたじゃん。
「こうなったら、無理やりにでもユウ君を手籠めに……!」
「……ん?お主の魔力の気配、見覚えがあるのぅ?お主、儂と会ったことがあるか?」
「しようかと思ったけど、やーめた!じゃあね、ユウ君!またすぐに会いに行くから!」
シオンの言葉にアルジュナは素早く手のひらを返し、足速にその場を去っていった。何だったんだ今のは。
「……あっ」
……周りから視線を感じる。会話の内容で、俺が中心になっていることが伝わったのだろう。凄い好奇の視線を感じる。
「……ユウ、一体どういう事?」
「あー……」
案の定、俺はフラムを説得することになるのだった。




