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番外編 禁忌の研究者:五話


というわけで、翌日。俺は昼休みに早速フラムに話しかけることにした。と言っても、教室の場所はわからないので、こうして食堂でフラムが来るのを待っているのだが。……端から見たらストーカーかもな、これ。

「良い?もしそのフラムって人に会っても、いつも通り接しちゃ駄目だからね。ちゃんと、「先輩」として接すること」

「分かったって。もう三回目だぞ」

アルジュナは頬杖をつきながら俺を胡乱げな目を向けてくる。……この世界にいるフラム達は、正真正銘の本物だが、性格や記憶などは受け持った「役割」のものになっているらしい。フラムやシオンは、俺の「先輩」で小原は「同級生」、アオイさんは「先生」……つまり、見た目は同じだが中身が少し違うのだ。シオンは魔物好きではないし、アオイさんはブラコンじゃない。小原は……そんなに変わらないが、フラムは親に弁当を作ってもらったりはしていない。つまり、俺は「主人公」を演じながら、皆と接しないと行けないということだ。

「……君は何を食べてるの?」

「カツ丼。結構うまいぞ、これ」

「僕も食べてみようかなー、暇だし」

「珍妙とか言ってなかったか?」

「別に良いじゃん、頂戴よー」

「しょうがねぇな……ほれ」

俺はカツ丼を向かいに座るアルジュナの方に差し出す。アルジュナはカツ丼のカツを手で鷲掴みすると、口に放り込んだ。……こいつカツ丸ごと食べやがった。

「んー!結構イケるね!人間の欲望よりずっと美味しいよ!人間はいつもこんなのを食べてるの?」

「……そんな上手いんだったら、残りも食べていいぞ。食べかけだけど」

「いいの!?じゃあ遠慮なく……いただきます!」

箸もスプーンも使わずに素手でカツ丼を食べだすアルジュナ。……美少女は何をしても絵になるとよく聞くが、この時ばかりはそうは思わなかった。顔に米粒をつけて、目を輝かせてカツ丼を頬張るその姿は、ただの野生児である。

「お前、ほんとに凄い魔物ってやつなのか?」

「そうだけど……見てわからない?僕は神の使徒が一人にして禁忌の研究者。人間とは格が違うんだよ、格が」

「神の使徒ってなんだよ。胡散臭いな」

「胡散臭い!?もしかして君、僕の力を疑ってるのかい!?」

「まぁ力は疑ってないけど。今のお前を見て、神の使徒とか人間と格が違うとか信じるのは難しいな」

「はぁー!?」

「……何やってるの、ユウ?」

アルジュナと話していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。声のした方を見ると、料理を乗せたお盆を持ったフラムがいた。

「あっ、こんにちはフラム先輩。二、三日ぶりですね」

「……あなた、切り替えが早くないかしら」

「?何のことですかね?」

俺はアルジュナが掴みかかってくるのを抑えながら、フラムに平静を装いながら話しかける。

「ええと、その子は一体……凄い表情をしてるけど」

「ああ、こいつはですね……っておい!アルジュナ!お前手がカツ丼で汚れたままじゃねぇか!服が汚れるだろ!」

「君が僕の事を馬鹿にした罰さ!ほーら、油まみれにしてあげるよ!」

「ちょっと、あなた達止めなさい!人が見ているでしょう!?」

俺とアルジュナの争いは、フラムによって止められるのだった。


「……なるほど、ユウのお友達ね」

「アルジュナだ。宜しく頼むよ」

「まぁ、そういうわけです。仲良くしてやってください」

あの後、相席することになった俺達は、改めてアルジュナの紹介をすることに。アルジュナはフラムの前でも一切動じず、誇らしげに胸を張っている。

「三年のフラム・ランスよ。よろしくね、アルジュナ」

「よろしく、フラム先輩」

アルジュナはそう言って、フラムと友好の握手を……することはなかった。何故ならアルジュナの手がカツの油で光っていたからだ。

「……アルジュナ、先に手を洗ってきたらどうかしら」

「あ、ごめんごめん、すぐに洗うね」

アルジュナは手に水の玉を作り出し、汚れた手を洗い流す。水の玉は落ちることなく消失し、後には綺麗になったアルジュナの手が残る。……何そのデタラメ。

「あなた、今のは一体……」

「手品!手品ってやつです!気にしないでください!」

首を傾げるフラムに俺は必死に説明する。こいつ、ほんとに協力者っていうの分かってるのか?さっきから邪魔しかしてないぞ。

「……アルジュナって、変わった子なのね」

「え、僕が?まぁ確かに、僕は非凡なる才能を誇る禁忌の研究者、アルジュナさんだけど……」

「めっちゃ厨二病みたいな肩書きだな」

「……厨二病というのは知らないけど、馬鹿にされてることだけは分かるよ?」

「二人共、食事中に喧嘩は止めなさい」

「「……はい、すみません」」

フラムに凄い圧で睨まれ、俺とアルジュナは揃って萎縮した。俺なんか隣に座ってるもんだから、直接圧を受けているように感じる。

「……それにしても、二人は仲が良いのね?」

「いえ、別に」

「僕も同意見だな。この男と仲良くなった覚えはないよ」

「端から見たら、仲良く見えるわよ」

揃って同じような発言をしたせいか、とんだ誤解を生んでしまった。解せない。

「……ちょっと見ない間に、女の子の知り合いを増やしちゃって……」

「え。先輩、何か言いましたか?」

「な、なんでもないっ」

「フラム先輩、顔が真っ赤だよ?体調でも悪いのかい?」

「なんでもないって言ってるでしょ!?」

少し大きな声が出てしまったのか、フラムは口を抑える。……アルジュナの言う通り、顔を赤くしたままこちらを睨んできた。

「コホン、それより二人は、お昼はもう済ませたの?」

「俺はカツ丼食べて、その残りをこいつが食いました」

「えっ」

「ちょっと、その言い方だと僕が意地汚いみたいじゃないか。訂正してよ」

俺の言いように、今度はアルジュナが睨みを利かせてくる。フラムは間の抜けた表情で固まりながら、アルジュナの方を見ていた。

「……ユウの口を付けたものを、アルジュナが……?それって……それって……!」

「あの、フラム先輩?」

フラムに声をかけると、彼女はいきなり真剣な表情で俺を見てきた。

「……ユウ、お腹空いてるかしら?」

「?まぁ、空いてますけど」

アルジュナにほぼ大半カツ丼あげちゃったからな。おかげで腹三分目にも満たしていない。別に俺はそこまで食べたいわけではないし、空腹でも構わないのだが。

「……頼んだ料理がちょっと多くて。少し食べてもらってもいいかしら」

「別にそれくらい構わないですけど……あっ、食器とかもらってきますね」

そう言って席を立ち上がろうとすると、フラムに肩を掴まれて止められた。何事かと彼女を見てみると、何故か少し不満そうにしていた。

「……そんなことしなくても、食器ならここにあるわ」

「……え?それってフラム先輩の……」

「はい、あーん……」

「どうしたんですか先輩!?」

フラムは俺の前に、煮物を掴んだ箸を寄せてくる。――こいつが箸を使うの、違和感がすごいな……ってそうじゃなくて!一体どうしたんだこいつは!?いつもそんな感じじゃないですよね!?

「……どうしたの?食べないの?」

「た、食べて良いんですか?」

「アルジュナには食べさせたんでしょ?なら、私があなたに食べさせられない理由はあるのかしら?」

「……ないです」

「じゃあ、食べて」

「……いただきます」

俺はフラムの箸で掴んだ煮物を食べた。……照れ臭くて、味が分からない。こんな事、ユウやサオリともしたことないしな……何処か気恥ずかしい感じがする。

「……美味しい?」

「……美味しいです」

……笑顔で味の感想を聞かれたため、俺はそう答えるしかなかった。フラムは何故か満足そうに自分の食事に戻った。

「……僕、今何見せられたの?」

「分からん……」

呆れたようなアルジュナの呟きに、俺は力なく答えるのだった。



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