番外編 禁忌の研究者:三話
「……なるほど、ユーさんのお友達なんですね。私は小原エイカって言います。よろしくお願いしますね、アルジュナさん」
「うん、宜しく頼むよ」
昼休み。地獄の空気を乗り越えて死屍累々と化した俺は、アルジュナを連れて小原と学食に来ていた。本当はこの世界についていろいろと聞く予定だったのだが、心のダメージが深すぎて回復手段をとるしかなかったのだ。あと、小原からの誤解は解いた。
「びっくりしましたよ。あのユーさんに恋人が出来たんだ、っていうのが信じられなくて……」
「なぁ小原。それに触れないでくれる?」
「あっ、ごめんねユーさん。とにかく、アルジュナさんがただのお友達だと分かって良かったよ。もし恋人だったら友達として抜き打ちチェックするところだったよー」
小原が目のハイライトを消しながら笑う。それは妙な威圧感と恐怖があり、俺とアルジュナは肩を震わせた。
「う、うん、それはよかったね」
アルジュナはびくびくしながら返事をする。そうだよな。ちょっと怖いよな……あの怖い小原は知っている。多分だけど、あれは俺が大切な友達だと思われている証拠だ。気持ちは嬉しいが、でもやっぱり怖いものは怖い。そんな事を考えていると、隣に座っているアルジュナが耳打ちしてきた。
「……ねぇ、この子はなんなの?僕、これでも結構強いのに、この子の威圧感に震えが止まらないんだけど」
「俺の友達だよ。あのシオンと同程度くらい強いけど」
「……君の知り合い、結構やばいね」
言うなよ、自分で分かってるから。
「アルジュナさんは何か食べたいものありますか?ここの学食、結構美味しいですよ」
「あ、えーと……やめておくよ。僕、今お腹いっぱいだからさ」
「え、そうなんですか?じゃあ私とユーさんだけいただきますね。ユーさん、ラーメンでいい?」
「え?食券買いに行ってくれるのか?」
「うん、そうだけど……あ、ラーメンは嫌だった?」
「いや、ラーメンでいいけど……さすがに買いに行ってもらうのは申し訳ないというか」
「後で代金を払ってくれたら大丈夫だよ。じゃあ、すぐ行ってくるから」
小原は席を立ち、食券機の方に向かっていった。……なんて良いやつなんだ。持つべきものは友達だな。と思いながらアルジュナを見ると、何故か微妙な顔をしていた。
「どうした?なんか俺の顔についてるか?」
「いや、君たちはよくあんな珍妙な食べ物が食べられるよね。何年も生きてるけど、あんな食べ物初めてみたよ」
「え、食ったことないの?ラーメン」
「僕は基本的に食事を取らないからね。たまに人間の欲望を食べたりするけど……あれは美味しくないね」
「……さっきから気になってたんだけどさ。お前、人間じゃないの?」
「そうだよ。僕はデーモンっていう魔物さ。これでも一応、神の使徒ってやつでね。数千年の時を生きてるんだ」
「マジか」
こいつ魔物だったんだな。確かに、普通の奴ではないと思っていたが……まさか人ですらなかったとは。……あと、神の使徒って何?
「……そんなに驚かないんだね」
「……まぁ、慣れてるし」
いろんな奴に会ってきてるからな。今更千年のご長寿に会ってもそんなに驚かない。
「ちなみに、君たちの食べている食べ物は霞みたいなものだよ。栄養があるから死ぬことはないけど、味とか見た目は、ただの錯覚さ」
「えっ!?」
衝撃の事実に、俺は思わず声をあげた。マジかよ……あの親子丼とかラーメンも全部幻みたいなやつなのか……ショックだ。
「……僕より食べ物の方に驚くの、なんかムカつくんだけど」
アルジュナはジト目でこちらを見てくる。やめてください、その整った顔を近づけないでください。浄化されるじゃないですか。
「ユーさん、食券買ってきたよー」
「お、ありがとな。すぐに代金を……」
戻ってきた小原に代金を払おうと、財布を取り出す。……ふと、俺は思った。ここが仮想世界とするならば、この財布に入っている貨幣や紙幣は一体何なのか。というか、何処から持ってきたんだコレ。
「……はい、これ」
「まいどありー。ユーさん、今日はラーメンのチャーシューが増えてるんだって!楽しみだね!」
「ああ、ソウダナ」
考えると沼にハマりそうなので、俺は貨幣や紙幣について考えるのは止めた。
放課後。俺とアルジュナは、俺の家の俺の部屋でこの世界についての話をしていた。何故俺の家なのかとアルジュナに聞くと、ここが俺達の拠点となるらしい。俺が住んでいた家とは似ても似つかないが、ここなら人の目を気にしなくてもいい。……なんで昨日は家に帰れなかったんだ?
「さて……それじゃあ、出る方法について話そうか」
「本当なら、もう少し早く聞けるはずだったんだけどな」
「いやー……僕の遊び心が出ちゃったというか……」
気まずそうに目を逸らすアルジュナ。今日こいつがやらかしたあれは、ちょっとした遊び心というやつらしい。全然ちょっとじゃないし、俺は多大なるダメージを負った。
「ま、まぁ!今はそれは置いといて!まずはこの世界についての説明をしよう!」
アルジュナはちゃぶ台みたいな机をバンと叩いて立ち上がった。俺は正座しながら、彼女の方を見る。
「まず、この世界は僕が適当に設定して作った仮想世界。一度生成されたら、僕がこの世界の主人公の目標を達成させないと外に出られない。つまり、僕はこの世界で紡がれる物語を、ある部分まで読み進めないといけない」
「……なるほど」
いわゆるノベルゲーというやつだろうか?この世界で起きている珍妙な現象といい、ここはゲームの世界ってやつなのかもしれない。
「そして……この世界の主人公は……ユウ君。君だ」
「え、俺?」
俺が……主人公?何それテンション上がるんだけど。ついに俺の時代が来たってことか?……いや、待て待て。
「なんで俺が主人公なんだ?俺、この世界に来たばっかりなのに」
「……主人公は無作為に選ばれるんだ。君と出会った昨日、別れた後にこの世界を調べたんだけど……君がこの世界の主人公だって知って驚いたよ」
別れた後……ああ、あのスキップって言ってた時の。多分こいつは、あの一瞬でこの世界の事を調べたのだ。さすがは創造主ってことなのだろうか。
「主人公ねぇ……主人公って何が出来んの?」
「主人公に選ばれた者は、その人の記憶を元に僕の作った世界を作り変え、その人に関係のある人物と共にやってくる。その他の人は「虚構人」として補充される……まぁ、こんな感じだね。まとめると、君が僕の作った世界に選ばれたから、族長の娘やあの女の子が同じように迷い込んできたんだ。この珍妙の見た目の世界も、君の影響ってこと」
「……マジか。確かに現代日本っぽいなと思ったけど……ていうか、あの小原やシオンは本物なのか?」
「本物だね。基本的に名前のある人物は君のいた世界から来た人物だ。他の人間は、名前も喋ることも無いだろう?」
言われてみれば確かに。俺、小原やフラム達以外と話したことがない。ただぼっちだからだと思ってたけどそういうことだったのか。
「この世界については分かったけど……つまり、俺はなんか目標を達成しないといけないってこと?」
「そういう事。そしてその目標っていうのは……」
「目標っていうのは……?」
何故か焦らされ、俺はアルジュナの言ったことを復唱する。しばらくの沈黙があった後、再びアルジュナの口が動いた。
「君が、ここで恋人を作ることだよ」
「……は?」
…………は?




